耳に返る懐かしい声。
『尚真、』
その声は、はっきり聞こえた。
『尚真。星良たちの手を、ちゃんと握っていてね』
久しく思い出すことのなかった母の声だ。
思い出さなかったのは。
(忙しかったから)
否、違う。
(生活に追われていたから)
突然、両親を亡くして。まだ学生の弟妹がいて、自分も職を無くして。
忙しかったのも、生活に追われていたのも嘘じゃない。
生きることに必死だったから、思い出さなかった。
その母の声が。
久しぶりに、それも鮮やかに蘇ってきた。
思い出さなかったのは、忘れていたからか。
(忘れようとしていたからか)
考えないようにしていたのか。
忘れたふりを、していたのか。
その母を今さら思い出すなんて。
(身勝手だ)
そう思うのに。
『尚真、』
繰り返される。蘇る、懐かしい声。
そして同時に。
『尚真、』
懐かしい低温の声。
(父さん、)
母の声が蘇れば、同時に父の声も蘇る。私を呼ぶ、両親の声。