私は札のかかっている扉を見つめた。札のチェーンが見えるだけでCLOSEDの文字は、こちら側からは見えない。
『星良ちゃんに連絡してよ』
先ほど出入りした数真の影を追う。
(喜ぶべきだ)
そう思うのに。
(喜ばなければならない)
そう思うのに。
(何でだ?)
自分は他人の不幸を望んだりしない。幸せだ、と笑う誰かがいたなら一緒に喜べる。
(それなのに)
今の私はどうだ?
喜ばしいはずなのに、世界が澄んで見えない。きらきらと輝いて見えない。
喜ぶべきだ、と思う。同時に「寂しがるべきだ」と思う自分がいる。
両親亡きあと、至らないところはあったと思うが、自分が父であり母であった。
青葉をはじめ助けてくれる人もいるが、兄妹三人で手を取り合って生きてきた。
その妹が結婚する。
決まったわけではないが、わざわざ「会って欲しい」と身内に紹介する相手だ。
将来をともに歩もうとしている人だろう。
(喜ぶべきだ)
妹がそう思える相手と出会えたこと、相手も妹を同じように思っていること。
兄として喜んでやるべきだ。
家族として淋しいと思うべきだ。
(それは、)
正しい感情なのか?