片付けをしている若葉の手を見つめた。

 手際良く、順番に片してゆく。

(小さかったのに)

 今は男の手だ。大人の手だ。

 その手が弟妹の手に重なる。

『オレがいるから、』

 両親を亡くし、息を吐いたのは葬儀の後だった。兄弟三人だけ遺されたと思い至った。それまでは呆然としながらも、忙しさに紛れていた。

『お兄ちゃん、』

『大丈夫。オレがいるから』

 震える星良(セイラ)と数真(スウマ)の手を握りしめた。

『オレがいるから、何も心配いらない』

大丈夫、と繰り返した。

『お兄ちゃん、』

 泣きじゃくる星良が私の手を握り返した。同時に、数真も握り返してきたので「双子だなぁ」なんて少し笑いたくなった。

(あの時、)

 震えていたのは、星良や数真だけでなく、私もだった。

 二人の手を握って、私は自分の震えを押さえつけたんだ。

「じゃあ尚真くん、」

 若葉の声で我に返る。

「あがるよ」

「あ、あぁ。お疲れ様」

 若葉は少し首を傾げたけれど「また明日」とだけ言った。

 若葉は「店長」と「尚真くん」と、仕事とプライベートとで私の呼び方を変える。

 だから彼の言う通り、今日の私は本当に「店長」らしくなかったのだろう。

(情けないな)

 仕事に私情を挟むなんて。

 私は片付けをしている若葉を盗み見る。

(デカくなったんだなぁ)

 私を気遣ってくれることが嬉しかった。

 若葉の兄・青葉(アオバ)と知り合ったのは高校に入ってからだ。

 その頃の若葉はまだ、小学生になったばかりだった。

 大きくなって、やんちゃをしでかすようになって青葉を始め家族を悩ませていたのに。

『兄貴の店でなんか働けるか!』

 そう叫んでいたのに。

(ずいぶんと大人になった)

 成長が嬉しい反面、淋しくもある。

(いつか、)

ここを出て行くのだろうか。

 否、逆か。

 彼に店を任せるのかもしれない。

 私の手を放れて。

 私は、幸せになろうとしている星良(セイラ)に対し、妬みや嫉み、ましてや憎しみに近い感情を抱いたりしているのだろうか。

 兄である私の苦労を知らず、己だけ幸せになろうとしている、と。

 そういった浅ましい感情があるから、心の底から祝ってやれないのだろうか。

(そんなこと、)

ある訳ない。

 サーッと血の気が引く音を聞いた気がした。

 指先や爪先が冷えてゆく。冷えてゆくのに、身体は汗ばむ。

 これは、恐怖だ。

 ゾッとした。吐き気がする。

 己の浅ましさに、反吐が出る。


 ため息がもれた。

「また、ため息を吐いている」

「若葉(ワカバ)」

 少年に指摘されてしまう。

「尚真(ショウマ)くん、」

「店では店長だろ」

 若葉は「今は尚真くんだよ」と言い切る。

「もう閉店だし。今日の尚真くんは店長て感じじゃなかったし」

 言われてしまう。

「あのさ、兄貴に話せないならオレが聞くから。オレだって聞くくらいはできるから」

覚えていて、と怒ったように告げる。