海は「そういうことかぁ」とにやにやしている。

「それで水藍と離れるかもって? 心配しちゃってんだ? 可愛いねぇ」

 たいして変わらないくせに、年上風を吹かせて……。

(何かイラッとする)

 海は緩い顔をしてはいたけれど。

「こればっかりはね」

 呟く。

「それぞれの進路だからね」

 紫藤と似たようなことを言う。否、言い方が違うだけで言っていることは同じだろう。

「俺が経済学部を希望しているのは、会社に入って兄貴を手伝いたいからだ」

 わたしは海を見上げた。彼は少し照れたように微笑する。

「兄貴とはちょっと年が離れているから、向こうはもう社会人なんだけど」

 家族の話を聞くのは初めてかもしれない。

 父親が社長だと耳にしたことはあるけれど。それは同級生からの情報で、海から聞いたわけではない。

「兄貴は跡を継ぐ気で会社に入っているし、親父もそう思っているみたいだし」

 わたしは黙って海の言葉に耳を傾けていた。

 海は「どうしたの?」と戸惑っている。

「菖蒲ちゃんが水藍を大事にしているのは知っているよ。知っているケド、」

どうしたの、と繰り返す。

「何かあったの?」

 海は首を傾げている。

(何か、)

 あった、のか。ないのか。

 否、やはり『あった』んだ。

「先輩は進路、どうするんですか?」

 海は瞬きして「突然だなぁ」とぼやく。

 彼はわたしを促し、歩き出す。

「進学ですよね?」

「まぁねぇ」

 軽い調子の答え。

 触れられたくないのだろうか。

「どこに行くんですか?」

 海の志望大学を聞いてどうするのだろう?

 自分自身に疑問が湧いたが、口から出てしまった言葉は回収できない。

 海も同じ疑問を抱いたのか、ちらりとわたしを見たが答えてくれた。

「俺の志望は経済学部だよ」

 海はぴんと来たらしく「もしかして進路希望?」と口元を緩めた。

 わたしが見ているものは、何だろう?

 毎晩のように夢を見る。誰かを失う夢を見る、水藍とは違う。

 わたしだって夢を見ることはある。

 叫びたくなるほどの、恐怖に支配された夢を。見ることは、わたしにもある。

 けれど。

 水藍とは違う。

(やっぱり違う?)

 水藍とは違う。そう思うということは、わたしはやはり水藍を同一視していないのではないか?

「わたしは、」

「うん?」

 海がわたしを見つめていた。わたしの言葉を待っているようだった。

 わたしは自分の声に少しだけ驚いていた。無自覚に口が開いていたからだ。

「わたしは、水藍が大事です」

 海は目を瞬かせる。

 わたしは、また己の手を見る。

 色白と言われる肌。薄いピンク色の爪は、すぐ割れてしまうからトップコートを塗っている。

「だからわたしは手を放さないでいたい」

 彼女が夢で見る人物のように、伸ばした手を掴みたい。

 いつでも、彼女が帰る場所でありたい。

 それはやはり紫藤が懸念しているような、同一視とは違うんじゃないかな。

 わたしはちゃんと、水藍を水藍として見ていると思えた。