夢を見た。

 わたしには大切な『誰か』がいた。

 彼は決して『わたし』に振り向かない。

 それでも『わたし』は『彼』の気を引きたくて。我が儘を言っても、親に逆らえない『彼』は渋々『わたし』の相手をする。

 夢の中で『彼』は徐々に『わたし』を疎ましく思っていくようだった。

 どうすることも、否、どうしたら良いか判らず『わたし』と『彼』の溝は深まってゆく。

 それでも。

 夢の中の『わたし』は自身がそれでも『彼』の中にいることを望む。

 どんなに疎ましく思われても、その間は『彼』の中で自分は確かに存在している。

 わたしにはそんな彼女が痛ましく思えた。

 彼女の想いは、誰にも気付いてもらえなかっただろう。

 きっと『彼』は気付かない。否、気付かなかった。最後まで。

 口の中が苦いような、渋いような。何とも言い難い。すっきりしない、不快感。

(馬鹿ね。そんな男を待っても仕方ないでしょう?)

 わたしは『わたし』に問うけれど、答えは返って来ない。

 違う。

 彼女の視線こそが答えだ。

 彼女の視線は『彼』を追い続ける。彼女の視線に気付いた『彼』が険しい表情を浮かべても。

 そんな顔をされても『わたし』の心は『わたし』を見てくれたことで浮き立つ。

(馬鹿ね、)

 わたしの言葉は『わたし』に聞こえない。
 海は「失礼します」と保健室の扉を開く。

「ハイ。どうしました?」

 この保健医は生徒にも丁寧な言葉を使う。

「何か気分が悪いみたいで」

 海がわたしを示す。

「熱は? 計った?」

「あ、いえ。熱はない、ですケド、」

 わたしはちらりと海を見た。

 それで誤解させたらしく保健医もちらりと海を見て「そう」と短い。

 彼は海に「ご苦労様、」と声を掛けた。

「戻って良いですよ」

 海も「じゃあ」と保健医に告げ、わたしに軽く手を振って去って行く。

 保健医はわたしを見た。

「ダルいなら横になっていると良いですよ」

 ベッドを差し示す。わたしはおとなしく従う。

(生理痛じゃないんだけど、)

 わたしはベッドで横になり、瞼を閉じた。

 意外にも瞼を下ろした途端、急激に眠気が襲ってきた。

(寝不足だったのね)

 そういえば昨夜は眠りが浅かった気がする。



 強くなんか、とこぼれた。

「強くなんかないですよ」

 一度こぼれた言葉は戻せない。

「わたしはいつだって水藍に守られていて、」

 わたしが本当に強かったら、彼女にはっきり言えるだろうか。

 もういい、と。彼女自身の道を行き、わたしに寄り添い続けずとも構わない、と。

 そう言えるのではないだろうか。

 わたしは水藍の傍にいたいから、水藍が傍にいて欲しいから。

 だから、だらだらと彼女の望む『騎士(ナイト)と姫』を演じているのではないか。

 海はそんなわたしを見て微笑をした。

 何も言わず、たた微笑を浮かべていた。

 何も口にしないけれど、海に何か言い分があることは判る。

 彼の表情が語っている。内容までは判らないけれど、海はわたしの言葉を拾っている。