「誰も求めていない」
口にしてしまってから不安になる。
水藍(スイラン)も求めていなかったら?
彼女が求めているわたしは『姫であるわたし』だけなのだとしたら?
わたしの居場所は、ますますなくなる。
保健医は手を止めている。ジッとわたしの言葉に耳を傾けている。
沈黙が流れる。彼は、話の続きを待っているのだろうか。促すでもないし、そんな感じはしないけれど。
やがて。
「自分は?」
彼は口を開く。
「え? どういう?」
彼の意図が解らず聞き返す。
「君自身が、本当の君を求めていますか?」
言葉に詰まってしまう。
わたしは、ちゃんとわたし自身を認めてあげていただろうか?
「みんな何かしら演じているのではないですか? 例えば自分は話のわかる、人の好い保健室の先生」
彼は自分を示す。
「昔はやんちゃをして、今も地元には帰り辛い」
彼はまた「内緒ですよ」と肩を竦める。
「折り合いをね。つけて行くんですよ、きっと。誰も彼もが『本当の自分だ』なんてやっていたら上手く廻っていかないんじゃないですか?」
カオスですね、と唸る。
「全部が全部、求める通りを演じる必要はないです。対人、対自分に折り合いをつけて行くんです、きっと」
わたしが「折り合い、」と言葉をなぞると、頷いた。