わたしは「八須(ハチス)先生」と声を掛ける。
彼は驚いたように、身体を跳ねさせた。
(忘れていたわね…)
「何でしょう?」
振り返り、わたしを見留める。声が少し震えていたようだったのは、驚いた後だからだろう。
わたしはもう一度「先生、」と呼び掛ける。
彼は「ハイ」と律儀に返事をする。
「先生。誰かを好きにならなければ、いけませんか?」
わたしは、と続ける。
「それともわたしは…『お姫さまであるわたし』は誰かを選んではいけないのでしょうか?」
彼に「どちらなんでしょう?」と問い掛ける。
きっとどちらも違うと思いながら、口にせずにはいられなかった。
案の定、彼は「どうでしょう」と答を出してはくれなかった。