「仲が良いんですね」

 口をついて出て来た。

 彼は瞬きして、はにかんだ。

「改めて仲が良いって言われると、照れますね」

 彼は「うん、まぁ、」と咳払いする。

「たまに飲みに行ったりしているので、仲は良い方ですかね」

 あれ?

 わたしは、その紫藤との共通の知人のことを言ったつもりだったのだけれど。

 八須は紫藤との仲だと捉えたのかしら?

 彼の言葉はどちらとも捉えられる。

 わたしの言葉も漠然とし過ぎていた。

 確かに紫藤との話をしていたのだから、八須が紫藤との仲のことを応えても不思議はない。

「先生は飲むんですか?」

「うん。二十歳過ぎた元生徒と飲むのが夢ですね。あの頃は~って話したい」

 揺るんだ顔は、幸せそうだ。

「保健医じゃあ難しいケド。そういう意味では、紫藤先生の方が羨ましいですよね」

 にこにこと笑顔のままなので本心か解らない。紫藤を羨ましく思っているようには、とても見えないけれど。

 敢えてそうしているのかもしれない。

 教師の立場では、他人を羨むだけでは、と教えなければならないだろうから。

 そもそも、紫藤が水藍を気にしているのは何なのだろう?

 恋愛的に興味があるようには、わたしには見えないけれど。

 でも。そうでないなら、ますます解らない。紫藤も水藍も入学して、それが初対面のはずだ。

 水藍だって、何故、あんなにも紫藤に対して警戒するのだろう?

 二人とも、近付き過ぎないように遠巻き過ぎないように、互いに距離を測っている。

「紫藤先生と、仲が良いんですか?」

 八須はきょとんとしてから手を振る。

「歳が近いですからね。というか、共通の知人がいまして。知り合いの知り合いだったんですよね」

 頬杖をつく。

「彼に頼まれていて」

 不満そうだ。

「断れないって知っていて、あの人は、」

 ため息混じりにぼやく。いつもの敬語も出ないほどのようだ。

 言葉とは裏腹に、口元は揺るんでいる。言うほど紫藤を面倒に思ってはいないと伝わる。

(良いなぁ…)

 逆に捉えられる言葉を遣っても、それが額面通りではないと判る。ちゃんと本心が伝わると判っている。

 だから、そんな言葉も使える。

 その関係が羨ましい。

 それもまた、紫藤が言っていた。

 大人になったら考えが似てくるのかしら? それとも紫藤と仲が良くて、よく話したりしているのかしら?

 一緒にいるところを見かけたり、仲が良いと耳にしたことはないけれど。

(同年代だし、)

 同じ職場なんだし、仲が良くても不思議はない。

(ない、はずだけれど、)

 他の教師たち一緒にいる紫藤を見かけることは少ない。生徒には慕われているけれど、他の教師たちからはどうなんだろう。

 年齢的にも他の教師たちよりもまだ、わたしたち生徒との方が近い。

 そのせいで、実は上手くいっていなかったりするのだろうか。

 わたしは紫藤を思い浮かべる。

 わたしの知る紫藤は、クラスの副担任で空手部の副顧問。水藍(スイラン)を気にかけているけれど、それを抑えている。水藍とわたしを似ていると言った。

(あんまり知らないわね)

 だって気にしたことがなかった。

 水藍のことを、どういう意味で気にかけているのか。

 紫藤というより、紫藤の考えがわたしには気になることだったから。

 紫藤自身のことを、気にしたことはなかったのだ。