どうして今、言うのだろう。

 彼は「友人は大切だ」と言いたいのだろうか。何がキッカケになるかわからない、と。

 その大切な友人が、今のわたしにはいるかわからないと話していたはずなのに。

(それを貴方が言うの?)

 わたしは何も言えない。

 また、何も言えないでいる。

「君はもっと自分を好きになって良いんですよ」

 身体が震えた。口唇も震えたけれど声は出なかった。

「誰かを……友人として恋人として誰かを好きになって良いんです。でも君はもう少し自分を好きになって良いと思います」

 彼は「君の、」と続ける。

「君の大切な人の中に君自身を入れてあげてください」

「わたし、」

 今度は掠れた声が出た。少し震えていたのは、しばらく黙っていたせいだ。

「わたし、」

 また続く言葉は出て来なかったけれど。

 廊下の足音は近付いて、今はハッキリ聞き取れる。

「彼女もまた『騎士(ナイト)』を演じている」

 彼の声はノックに重なって、ハッキリとは聞き取れなかった。

 彼は「実はね」と続ける。

「元々は自分のお見舞いに来てくれたわけでもないんですよ」

たまたまです、と語る。

「彼のお母さんが入院している病院だっただけなんです」

 目を細める。

 彼の視線は、過去を追っている。

「母親のお見舞いのついでに来てくれていたんですよ」

「ついで、」

 わたしは思わず繰り返してしまった。

 何だか狡いような、裏切られたような、そんな気がしてしまった。

 卑怯なような、汚い気がした。

 わたしのそんな気持ちを感じ取ったのか、彼は苦笑した。

「リハビリにも付き合ってもらいましたよ」

 思い出したのか「あれはキツかったな」と身震いした。

「先に仲間から抜けていた彼の先輩たちにもお世話になったし」

 彼はわたしに笑みを向ける。

「代償は小さくなかったけれど、それ以上のものを得ました」

 わたしにそれを言いたかったのかもしれない。

 彼は薄く微笑を浮かべている。

「さっき話した友人ですケド、」

お見舞いに来てくれた、と付け足す。

「お互い、やんちゃ仲間の中にはいましたケド。そこまで仲が良かったわけではないんですよ」

 彼は思い出したのか「フッ」と笑う。

「むしろ悪かったと言えますかね」

 彼は肩を竦めた。

「ぶつかったりはしないけれど、無関心ていうか。仲間の中にいるなって、その程度で。ちょっと話したことがある程度で、友人と呼べる間じゃなかったです」

 無関心は、良くも悪くもない。相手への興味がないのだから。それをして「悪かった」と言ったのだろう。

「友人として付き合うようになったのは、事故にあってからなんですよ」

 何故そんな話をし出したのか。わたしの戸惑いなど気付かぬようで、にこにこと笑みを浮かべている。

「仲間はたくさん、いたはずなんです」

 それこそ彼らが話していなくとも不思議はないほどに。

 それでも彼の元に来てくれたのは一人だけだったのだろう。