どうして今、言うのだろう。
彼は「友人は大切だ」と言いたいのだろうか。何がキッカケになるかわからない、と。
その大切な友人が、今のわたしにはいるかわからないと話していたはずなのに。
(それを貴方が言うの?)
わたしは何も言えない。
また、何も言えないでいる。
「君はもっと自分を好きになって良いんですよ」
身体が震えた。口唇も震えたけれど声は出なかった。
「誰かを……友人として恋人として誰かを好きになって良いんです。でも君はもう少し自分を好きになって良いと思います」
彼は「君の、」と続ける。
「君の大切な人の中に君自身を入れてあげてください」
「わたし、」
今度は掠れた声が出た。少し震えていたのは、しばらく黙っていたせいだ。
「わたし、」
また続く言葉は出て来なかったけれど。
廊下の足音は近付いて、今はハッキリ聞き取れる。
「彼女もまた『騎士(ナイト)』を演じている」
彼の声はノックに重なって、ハッキリとは聞き取れなかった。