着替えを済ませ、開店準備にとりかかる。

 準備をしている間も思い出すのは、小さな妹が家事を手伝ってくれた記憶だ。

 慣れない家事に何度、泣きそうになったか。

 何度『母さんがいたら』と思ったか。

 シルバーにアルコールを吹き掛け、乾いた布巾で一本ずつ丹念に磨いていく。

 磨いたスプーンやフォークを隣においたトレイに移していく。もちろんトレイも消毒済みだ。

 置くたびにシルバー同士が触れあってカシャンと鳴る。

 今、自分は仕事に夢中になっているフリをしている。

 その自覚がある。

 仕事が嫌なわけじゃない。やるからには、もちろん、ちゃんとする。それは当然だ。

 まして自分はこの店の『店長』なのだし。

 いつも何を考えながら仕事をしていたろう?

 今の自分は、努めて何も考えないようにしている。

 それがつまり『仕事に夢中になっているフリ』だ。

 いつも私は、どうやって仕事をしていただろう?

 習慣と化しているから身体は動く。だが心が、頭がついていっていない。


 いつまでも幼いまま。

 そんなことあり得ないのに、私は幼い妹のままだとどこかで思っていたのだろう。


 このところ今までより少し早く出勤している。それは、仕事が忙しいと言い訳をしてしまっているからだ。

 忙しいと言っておきながら、今までと同じでいたら罪悪感を抱いてしまうのだ。

(あ~……身勝手だなぁ)

 自己嫌悪だ。

 はぁ、と息を吐く。店の鍵を開ける。

「おはようございます」

 まだ誰もいない店内。

 それでも声を掛けるのは、仕事のスイッチを入れるためだ。


「会って欲しい人がいるの」

 その時。俺は、どんな顔をしていたのだろう?



 妹からの申し出を仕事を理由にして、保留にしている。

 仕事は言い訳だ。判っている。

 覚悟はしていた。

 はずだったのに。

 こんなに揺らいでしまうのは、甘かったってことだ。覚悟が足りなかったってことだ。