放心状態の俺を心配しながら、仲間たちがこの部屋まで連れ戻してくれたのが一刻ほど前の事で、それからベッドに潜り込み、窓の外が白々しくなるまで眠りに着くことが出来なかった。
終わったと思った戦いの後に、復活を遂げたセフィロスの攻撃を受け、それを阻止すべく飛び出して来たのは、あの日俺を庇いつつ死んでいったはずのザックスだった。
何故そこにいるのか?今までどうしていたのか?って!何一つ聞けないまま、あいつはセフィロスと共に立ち去っていってしまった。
俺にティファと幸せになれと告げて。
無理だよ、ザックス。
何もかも忘れていた頃だったらいざ知らず、全てを思い出した今、ティファと二人で未来を紡いで行くことは不可能なんだよ。
「とにかく、もう少ししたらエッジの中を虱潰しに探して、ザックスと会わなきゃな。」
そう強く決心して又瞼を静かに閉じた。
「ク…ド?おき…て、」
微かに呼ぶ声が聞こえてきて、眠りの淵から這い上がってきた俺は、重い瞼を持ち上げると、心配そうな顔で俺を覗き込んでいたティファと目が合った。
「ティファ…か。」
「もうお昼に近いわよ、調子はどう?何か食べられる?」
「ああ、いや食べ物はいい。」
「ダメ!何かお腹に入れないとね?」
そう言って半ば強制的に起こされた俺は、朝の支度を手早く終えて階下のセブンスヘブンに降りて行った。
そしてカウンターのいつもの定位置に腰掛けると、芳醇なチーズの香りが漂うリゾットが目の前に差し出された。
元々この身体になってからというもの、食事に関しては身体が要求しないので二の次になっていたのだ。
でも、その事を良しとしないティファが、こうやって毎度食事を取らせようとしている。
出されたものを無下にするわけにもいかず、毎回完食はするのだけど今回ばかりはそれができなかった。
スプーンを手に持ったまま、考え事をしている俺にティファはあれこれと話しかける。
「昨日子どもたちがね、今年の私の誕生日は盛大にお祝いしてくれるって言ってたのよ。」
「……」
「マリンなんかはしゃいじゃって、私が料理を作るんだってもう大騒ぎ」
「……」
「クラウドも食べてあげてね?」
「ああ。」
「ねぇクラウド。昨日のあれ…セフィロスって実体を持ったの?やっと平和が戻ってきそうだったのに、また恐怖に怯えながら暮らさなきゃダメなのかなぁ?」
「そんな事、俺にもわからないよ!」
少し苛立ちながら、ティファに怒鳴ってしまった。ああ、これじゃ完全に八つ当たり。
「セフィロスを連れて行った人って、あの時に村に来たソルジャーだよね?名前は確か…」
「ザックス、ザックス・フェア」
「でも、あの人確かクラウドをかばって…」
「死んだんだ。何もできなかった荷物同然の俺なんかを庇って。俺、あいつから名誉や誇り、そして大切な命をもらったんだ。」
「クラウド?」
「俺があいつの生きた証ーー。なのに俺は…」
何かに取り憑かれたように、ブツブツと喋り出す俺に違和感を感じたのか、ティファは焦っていた。
(クラウドどうしたの?おかしいよ。これ以上クラウドの口を閉じさせないといけない。)
悩んだ末に取った行動は、俯くクラウドの顔を前に向けさせて、自分の口で彼の口を閉じた事だった。
びっくりした。今までいろんなアプローチはなかったとは言わないが、こんな事はあの戦いの最終決戦前以来だ。
俺はティファを軽く押しやった。本当に軽くやった心算だったのだが、思った以上にティファがよろめいたのが見えた。
「な、何を!」
「ご、ごめん。俺さやっぱりあいつを探し出してくる。このままじゃ…何もわからないままじゃ俺、ダメだと思うからな。」
そう言って、俺は愛車フェンリルのキーを握りしめ出かけた。後ろでティファが何やら叫んでいたのは気がついていたけれど、今の俺にはその事に気を配るほど余裕はなかった。
エッジは規模的には然程広くはないのだが、まだ開発途中の街なため昨日なかった建物が今日あるといった、移り変わりが激しい街である。
その中であの二人が身を寄せるところを探すことは、この一帯を生業にして稼業をしている俺ですら困難を極めた。
「多分、あいつは意外と家庭的なところがあるから市場に近くて、目立つかの英雄が身を落ち着けることが出来る場所…三番街の商業地域辺りか?」
あの街だと…とある程度の目処をつけてフェンリルを走らせていた。
***
辿り着いた場所は、元カフェがあった瓦礫置き場だった。辺りを見渡すと、火をつけた後が残っていた。
戦争はもう終わったというのに、他の人間にはばれないように後始末がしてある。こんな事するのは元兵士ぐらいだ。
「ここにいるのか、ザックス。」
火のそばには、入り口を塞ぐように立てかけてあるドアが不自然な形で置いてあった。
「ザックス?いるのか?」
***
中々眠らないセフィロスを寝かしつけて、ようやく横になったのはもう夜が明ける頃だった。
外に立てかけたドアを剥がす音が聞こえて、ボンヤリした頭を回転させそばに置いてあるバスターソードに手をかけた。
物取りの類だったら武器なぞ使わなくても、拳一発で倒すことが出来るが、いまのこのご時世だからどんな奴がいるかわからない。とにかくバスターソードを体につけ入り口の方を見つめた。
すると聞き覚えのある声が響き渡った。
「ザックス?いるのか?.」
ああ、クラウドに俺は来いと言った気がする。それにしても簡単にこの場所を見つけるなんてな、成長したもんだ。
さっさと姿を見せないと、せっかく眠りに入ったセフィロスが目を覚ましちまう。
そう思うと、俺を呼ぶクラウドの前に姿をあらわすことにした。
「よく来たなクラウド。」
「ザックス!やっぱりここだったか。」
「ティファちゃん達はどうしたんだ?」
「今日は俺一人で来たんだ。昨日の話がどうしても納得出来なくて…」
「そうか」
やっぱり納得していないか。まあ、あれだけだとな。
「ザックスがセフィロスの復活の手助けをしてたってこと?」
「手助け?うーん、少し違うかな?」
「?」
長くなりそうなので、外の瓦礫のそばのベンチにクラウドを座らせた。
「セフィロス・アンジール・ジェネシスは仲のいい幼馴染だったのは知ってるな?」
「う、うん。」
「そいつらがもし謀反を企てたら、神羅も抑えることが出来ない。だから同等の力を持ったソルジャーが必要だったんだ。」
「ある日、俺の生まれ故郷ゴンガガに魔晄炉設置の計画が出来て、その事前調査にセフィロスが来ていたんだ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~
「あの人がセフィロスだってさ!」
「かっこいよな~」
そう村の子ども達は騒ぎ立てていた。
「あの人がセフィロスか…でも写真でみたのとまるで別人だな。」
そして、魔晄炉設置の調査も無事終わり、調査団も撤収することになった前日、長身の男が予定地に佇み目を閉じているのを見てしまったんだ。
俺の気配に気づいていたんだろう、ふと振り向き俺の顔を見るなり、俺に側に来るようにと手招きをした。
「お前はソルジャーが珍しくないのか?」
「なんて?」
「他の子ども達は煩いほど俺の周りに集まって来るからな。お前はいつも外で眺めてただろう?普段は仲良く遊んでいるようなのに。」
この人、俺の事ずっと観察していたのか?
「お、俺!ソルジャーになりたいんだ!!」
「ん?」
「だから俺をミッドガルに連れて行ってくれ!」
たかだか12才のガキが、英雄と呼ばれる男に直談判したんだ。その場で切られてもおかしくはなかった。
でも、セフィロスは切らなかった。それどころか、一緒に来ていたんだツォンに「こいつは見込みがある。本社に連れて行ってソルジャー適性検査を受けさせろ。」
って、命令していたんだ。
俺はお陰で、両親を置いて行くことにはなったが、神羅に入ることができた。
その時は知らなかったんだ。あいつらがトリガーを探していたなんてことは。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ある日、神羅の研究所に反神羅団体が破壊工作を行った。俺はちょうどソルジャー適性検査を受けていた最中でさ、ものの見事に爆撃に巻き込まれた。」
「全身火傷の重体でさ、生命も危うい状態だった。」
「そこで、宝条は俺には適正があるからあの三人…特にセフィロスを命をかけて守れと。守ると誓うのならばこの場でソルジャー術を行いお前の命を助けてやると…。俺は死にたくなかった。夢が目の前にあるのに死んでたまるかって…。そして宝条の言いつけ通り俺は条件を飲んでソルジャーになった。
アンジールなんて、俺がかわいそうだからって自分の息子のように可愛がってくれたんだ。」
「でも、セフィロスは違った。あいつは…俺に自分の稚児になることを強要した。
そして、その日から俺はセフィロスと同居を始めた。アンジールはかなり反対したんだぜ?最初同居してたのはアンジールとだったから。セフィロスと同居ってことは稚児になることだってわかってたから。でも俺は構わなかった。あの日みた寂しそうなあいつを二度と見たくなかったからな。」
「…」
「で、俺はセフィロスの念願通り稚児になり、毎晩のようにセフィロスの性のはけ口になった。ミッションで嫌な事があると、そのストレスは全て俺に向かって来た。かなりキツくてな。一度肛門がかなり裂けたこともあったな。直ぐにケアルガで治して貰ったが、その時はアンジールが激怒してたな。殺すつもりか!って。」
「いつだったか、突然セフィロスが"お前も女を知るべきだ"と蜜蜂の館に俺を連れて行き、そこのトッブのお姉さんを指名して俺の筆下ろしをさせたんだ。12、3才ころかな?」
「なんでかわからんけど、それからもセフィロスは俺が彼女を作ったり女遊びをすることには文句は言わなかった。」
「二度だけ不機嫌になり、俺の命もヤバイ時があった。一度目はエアリスの時。"セトラの娘はダメだ。セトラとソルジャーは相対するものだ。お前がダメになる"と。だから、彼女とは清い関係だった。元々恋愛には発展しなかったしな。もう一度は、お前クラウドだよ。」
「その時は怒ったね。あんな何の取り柄もない奴はお前のためにならない!ってさ。俺はどうしてもクラウドと恋人になりたかったから、何日もかけて説得した。そしてある二つの条件を飲めば許してやると…」
「条件?」
「ああ。その条件の一つは…絶対やらせるなってことだった。まあ、そんな条件なくても俺がクラウドにやられるなんて思っていなかったけどな!」
身勝手な言い草にクラウドは眉を潜めた。
「今更怒るなよ?」
「そして二つ目は…自分が呼び出した時は、お前を見捨ててでも自分のところにくること。今だから謝っておくが、おれが夜ちょこちょこいなくなってたのは、お姉ちゃんのところじゃなくておっさんのところだったんだ。すまない…俺はクラウドを裏切ってた…」
横に座ってるクラウドを見ると目に涙がうるんできていた。
でも、言わなきゃなんない、
「夕べ…寝る間際に…セフィロスに言われたんだ。自分の世話をしろと。だから…クラウド…ごめん。俺は…お前とは一緒に何でも屋は出来ない…。」
「……」
「セフィロスが…一緒に何でも屋しようって……。だから…俺の事はもう忘れろ。お前に預けた名誉も生きた証も全部俺に返してくれ。そうすればクラウドは身も心も軽くなるだろ?」
「クラウド…お別れだ。」
そう言って、ザックスは呆然としている俺を置いて中に戻って行ってしまった。
ザックスの言ったこと、全てを信じたわけじゃない。ただ、今はセフィロスについていたいというのは本心だろう。
俺もだてに過去を引きずっていたわけじゃない。あと何年かかろうが俺は待っている…ザックスが自分の隣に戻ってきてくれることを。