6月5日(土)物理基礎は公立高校1年生には無理です. | 塾長雑記帳

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盛岡市高松にある個人塾「石原学舎」塾長のブログです.
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一様重力場における物体の運動について

 

複数の生徒さんから「自由落下とか,斜方投射とか公式が多くて覚えるのが大変である」という訴えをいただいている.そのような認識を持ってしまうのは,教科書がクソであるのと,あまり言いたくはないが担当教員が「覚えろ」という愚かな指導をしているからである.

これらの運動については,覚えることはほぼない.ほぼ,というのは,微積分を知らないと一番最初の式を導出できないからである.以下,一様重力場における運動における基本的な考え方を述べる.理解した暁には,暗記がほぼ不要であることを納得できることだろう.

 

まず第一に確認しておくこと.

このときの物体の加速度は,鉛直下向きに大きさgである.運動は初速度の向きと鉛直方向で定められるような鉛直面内に限られる.

通常,座標の取り方としては,鉛直方向をy軸とし,初速度の水平成分の方向をx軸ととる.鉛直方向については,問題ごとに鉛直上向きをy軸ととるときと,鉛直下向きをy軸ととるときがある.問題文に指示があればそれに従い,そうでない時は自分で決める.問題文に何も書いていなくても,座標を自分で定めることは重要である.これがないと,誰の視点で運動を記述しているのかがわからない.

 

次に,等加速度運動の公式を思い出す.これは数学IIの微積分が分かっていれば一瞬でわかることだが,公立高校の1年生で分かっている人は少ないので,ここは覚えておく必要がある.

x成分,y成分ごとに

v=v_0+at,x=v_0t+(1/2)at^2,v^2-v_0^2=2aΔx・・・(*)

となっている.Δxは,最初と最後の座標の差である.v_0は初速度の成分である.

注意したいのは,等速運動は,等加速度運動においてa=0にしたものであるということだ.すなわち,等速運動の公式を覚える必要はない

 

以下,物体を投げた場所を原点,その時の時刻をt=0として考える.

 

1. 自由落下

y軸を鉛直下向きにとる

このときは,a_x=0,a_y=g,v_0x=v_0y=0であるから(*)より

v_x=0+a_xt=0,x=0+(1/2)0t^2=0

v_y=0+gt=gt,y=0+(1/2)gt^2=(1/2)gt^2

v_y^2-v_0y^2=2gΔy=2gy

となる.上の計算より,x成分については変化しないので,通常は無視する.でも,これが省略されているという認識は持っておいた方がいい.

 

y軸を鉛直上向きにとった場合は,a_y=-gとなるので,上の結果は

v_x=0+a_xt=0,x=0+(1/2)0t^2=0

v_y=0-gt=gt,y=0-(1/2)gt^2=-(1/2)gt^2

v_y^2-v_0y^2=2gΔy=-2gy

となる.別にどちらにしても同じことである.座標の向きがどちらであるのかをはっきりさせておき,符号も含めて正しくa_yを決めればどちらでも正解が得られる.

 

2. 鉛直投げ下ろし

y軸を鉛直下向きにとる

このときは,a_x=0,a_y=g,v_0x=0,鉛直方向の初速をv_0として(*)より

v_x=0+a_xt=0,x=0+(1/2)0t^2=0

v_y=v_0+gt=gt,y=v_0t+(1/2)gt^2=v_0t+(1/2)gt^2

v_y^2-v_0y^2=2gΔy=2gy

となる.上の計算より,x成分については変化しないので,通常は無視する.でも,これが省略されているという認識は持っておいた方がいい.

 

y軸を鉛直上向きにとった場合は,a_y=-gとなるので,上の結果は

v_x=0+a_xt=0,x=0+(1/2)0t^2=0

v_y=-v_0-gt=gt,y=-v_0t-(1/2)gt^2=-v_0t+(1/2)gt^2

v_y^2-v_0y^2=2gΔy=-2gy

となる.

 

なんか面倒になってきた.要するに,(*)はいつも同じで,座標のとりかたによる加速度と初速度の符号に気をつけてれば,やってることは同じやねん

 

鉛直投げ上げは,鉛直投げ下ろしと初速度の符号をひっくり返せばOK.覚えることなんて何もない.

 

3. 斜方投射

y軸を鉛直上向きにとると

a_x=0,a_y=-g 初速度はv_0x=v_0cosθ,v_0y=v_0sinθ(ここは三角比をやってないとたぶんわからん)となる.

水平投射はθ=0としたものなので,覚える必要なし

ここで(*)に加速度と初速度を代入すれば,xとyの式が得られる.

 

もうこれで十分だしょ.

 

もう一度言うと,座標系を決めてから(*)に加速度と初速度成分を代入すればすべてが得られるわけなので,教科書にあるたくさんの(符号が微妙にそれぞれ異なる)公式を覚える必要はない.これらの運動は全て同じものであり,全ての違いは座標の取り方と初期条件の取り方の違いに帰着されるのである.

 

そもそも論で言えば,三角比もベクトルも微積分も軌跡も学んでいない,公立高校の一年生にこんなことをやらせること自体が犯罪的なのである.このような形で物理に初めて触れることになれば,物理や数学に対して嫌悪感を持ったり,自信をなくしたりすることは当たり前に起きうることである.高校物理はどんなに早くても公立高校では二年生以降にすべきであり,現在の一高のようなカリキュラムを作った責任者は本当に罪深い.絶対にやってはいけないようなカリキュラムの組み方をしていることを,担当者や責任者は理解しているのであろうか.