このシリーズ、どこまで続けるのか、という問題があるのですが、現在の共通テストが始まったのは2021年1月からなので、2021年度の分まではさかのぼってゆき、一旦ここで打ち止めとしようと思います。
ということで、今回から何回かに分けて、2021年度の共通テスト・評論の問題を読みつつ解いていこうと思います。
読者のみなさんも、一緒に読みつつ解いていってください。
では、まずは問題文から。
第1問 次の文章は、香川(かがわ)雅信(まさのぶ)『江戸の妖怪革命』の序章の一部である。本文中でいう「本書」とはこの著作を指し、「近世」とは江戸時代にあたる。これを読んで、後の問い(問1~5)に答えよ。なお、設問の都合で本文の段落に【1】~【18】の番号を付してある。
【1】 フィクションとしての妖怪、とりわけ娯楽の対象としての妖怪は、いかなる歴史的背景のもとで生まれてきたのか。
【2】 確かに、鬼や天狗(てんぐ)など、古典的な妖怪を題材にした絵画や芸能は古くから存在した。しかし、妖怪が明らかにフィクションの世界に属する存在としてとらえらえ、そのことによってかえっておびただしい数の妖怪画や妖怪を題材とした文芸作品、大衆芸能が創作されていくのは、近世も中期に入ってからのことなのである。つまり、フィクションとしての妖怪という領域自体が歴史性を帯びたものなのである。
【3】 妖怪はそもそも、日常的理解を超えた不可思議な現象に意味を与えようとする民俗的な心意から生まれたものであった。人間はつねに、経験に裏打ちされた日常的な原因-結果の了解に基づいて目の前に生起する現象を認識し、未来を予見し、さまざまな行動を決定している。ところが時たま、そうした日常的な因果了解では説明のつかない現象に遭遇する。それは通常の認識や予見を無効化するため、人間の心に不安と恐怖を喚起する。このような言わば意味論的な危機に対して、それをなんとか意味の体系のなかに回収するために生み出された文化的装置が「妖怪」だった。それは人間が秩序ある意味世界のなかで生きていくうえでの必要性から生み出されたものであり、それゆえに切実なリアリティをともなっていた。A民間伝承としての妖怪とは、そうした存在だったのである。
【4】 妖怪が意味論的な危機から生み出されるものであるかぎり、そしてそれゆえにリアリティを帯びた存在であるかぎり、それをフィクションとして楽しもうという感性は生まれえない。フィクションとしての妖怪という領域が成立するには、妖怪に対する認識が根本的に変容することが必要なのである。
【5】 妖怪に対する認識がどのように変容したのか。そしてそれは、いかなる歴史的背景から生じたのか。本書ではそのような問いに対する答えを、「妖怪娯楽」の具体的な事例を通して探っていこうと思う。
本文の方は、ここで一旦切りましょう。
続いて、問2(問1は漢字の問題なので飛ばします)。
問2 傍線部A「民間伝承としての妖怪」とは、どのような存在か。その説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① 人間の理解を超えた不可思議な現象に意味を与え日常世界のなかに導き入れる存在。
② 通常の認識や予見が無効となる現象をフィクションの領域においてとらえなおす存在。
③ 目の前の出来事から予測される未来への不安を意味の体系のなかで認識させる存在。
④ 日常的な因果関係にもとづく意味の体系のリアリティを改めて人間に気づかせる存在。
⑤ 通常の因果関係の理解では説明のできない意味論的な危機を人間の心に生み出す存在。
さて、正解はどれでしょうか?
Amazon に載っている表紙の画像から。
おもしろげな本ではあります。
(つづく)