問6 授業で本文を読んだSさんは、作品鑑賞のあり方について自身の経験を基に考える課題を与えられ、次の【文章】を書いた。その後、Sさんは提出前にこの【文章】を推敲(すいこう)することにした。このことについて、後の(ⅰ)~(ⅲ)の問いに答えよ。
 
【文章】
 本文では現実を鑑賞の対象とすることに注意深くなるよう主張されていた。しかし、ここでは作品を現実世界とつなげて鑑賞することの有効性について自分自身の経験を基に考えてみたい。
 小説や映画、漫画やアニメの中には、現実に存在する場所を舞台にした作品が多くある。そのため、私たちは作品を読み終えたり見終わったりした後に、実際に舞台となった場所を訪れることで、現実空間と作品をつなげて鑑賞することができる。
 最近、近くの町がある小説の舞台になっていることを知った。私は何度もそこに行ったことがあるが、これまでは何も感じることがなかった。ところが、小説を読んでから訪れてみると、今までと別の見方ができて面白かった。(a)
 このように、私たちは、作品世界というフィルターを通じて現実世界をも鑑賞の対象にすることが可能である。(b) 一方で、小説の舞台をめぐり歩いてみたことによって小説のイメージが変わった気もした。(c) 実際の町の印象を織り込んで読んでみることで、作品が新しい姿を見せることもあるのだ。(d) 作品を読んで町を歩くことで、さまざまな発見があった。

 
(ⅰ) Sさんは、傍線部「今までと別の見方ができて」を前後の文脈に合わせてより具体的な表現に修正することにした。修正する表現として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
 
① なにげない町の風景が作品の描写を通して魅力的に見えてきて
 
② その町の情景を思い浮かべながら作品を新たな視点で読み解けて
 
③ 作品そのままの町の様子から作者の創作意図が感じられて
 
④ 作品の情景と実際の風景のずれから時間の経過が実感できて
 
(ⅱ) Sさんは、自身が感じ取った印象に理由を加えて自らの主張につなげるため、【文章】に次の一文を加筆することにした。加筆する最も適当な箇所は(a)~(d)のどの箇所か。後の①~④のうちから一つ選べ。
 
それは、単に作品の舞台に足を運んだということだけではなく、現実の空間に身を置くことによって得たイメージで作品を自分なりに捉え直すということをしたからだろう。
 
① (a) ② (b) ③ (c) ④ (d)
 
(ⅲ) Sさんは、この【文章】の主張をより明確にするために全体の結論を最終段落として書き加えることにした。そのための方針として最も適当なものを、次の①~④のうちから一つ選べ。
 
① 作品世界をふまえることで現実世界への認識を深めることができるように、自分が生きている現実世界を知るために作品理解は欠かせない。その気づきを基に、作品世界と現実世界が不可分であることに留意して作品を鑑賞する必要があるといった結論を述べる。
 
作品世界と重ね合わせることで現実世界の見方が変わることがあり、それとは逆に、現実世界と重ね合わせることで作品の印象が変わることもある。その気づきを基に、作品と現実世界の鑑賞のあり方は相互に作用し得るといった結論を述べる。
 
③ 現実世界をふまえることで作品世界を別の角度から捉えることができるが、一方で、現実世界を意識せずに作品世界だけを味わうことも有効である。その気づきを基に、読者の鑑賞のあり方によって作品の意味は多様であるといった結論を述べる。
 
④ 現実世界と重ね合わせることで作品世界の捉え方が変わることがあり、そのことで作品に対する理解がさらに深まることになる。その気づきを基に、作品世界を鑑賞するには現実世界も鑑賞の対象にすることが欠かせないといった結論を述べる。

 


 

 今年(2024年)1月の共通テストの評論の問題を考察していくシリーズの第6回目です。

 今日は、最後に残っていた問6を見ていきます。

 みんな、ちゃんと解いてきたかな?

 問6の前に、当然、この大問1全体の出題文である本文があるのですが、問6を解くのには全く関係がなく、読む必要がないので省略します。

 

 まず、(ⅰ)の問いから。

 文脈を確認すると、ある小説をSさんが読み、以前にも何度か行ったことのある、その小説の舞台である町を訪れてみたところ、その町に対する見方が変わり、おもしろかった、という話です。

 ということで、小説を読むことでその舞台となる町の見方が変化したということを表している選択肢を選べばよいので、正解はとなります。

 

 続いて(ⅱ)。

 挿入文の内容は、(ⅰ)とは逆に、作品の舞台を訪れたことでその作品の見方が変わった、ということ。

 ということで、挿入箇所として考えられるのは(c)か(d)だということが分かります。

 (c)と(d)、どっちなのかと迷います。

 どっちでもいいような気がします。

 この問いのポイントは問題文の中にあります。

 

(ⅱ) Sさんは、自身が感じ取った印象に理由を加えて自らの主張につなげるため、【文章】に次の一文を加筆することにした。加筆する最も適当な箇所は(a)~(d)のどの箇所か。後の①~④のうちから一つ選べ。

 

 ということは、挿入文の前に「印象」、あとに「主張」が来ないといけないということです。

 ということで、正解は(c)のに決定されます。

 

 続いて、この大問最後の問いとなる(ⅲ)。

 この【文章】全体の結論ということなので、作品を鑑賞することで現実世界の見方が変わり、また現実世界を体験することで作品の見方が変わるというように、作品と現実世界との間には相互作用が働く、という内容の選択肢を選べばいいですね。

 ということで、正解は

 これは簡単な問題でした。

 

 ということで、全ての問いに対して答えたところで、本文全体の要約文を作っておきましょう。

 本文をもう一度通して読みたい方は、 こちら(前回) からどうぞ!

 要約文は15字程度(ただし片仮名は1文字を0.5字と数える)にまとめてください。

 当然、正解は1つではありません。

 自分なりに、最初は下手でもいいので作ってみるという練習をしないと上達しませんよ。

 

 できましたか?

 僕はこのようにまとめてみました。

 

 「音楽や芸術の概念を今吟味すべき」

 

 国語の授業だと、これでは余りいい点数はもらえないのかも知れませんが、これが自分なりの理解なので仕方がないですね。

 

 ということで、最後にもう1回振り返ってみると、この大問1で取り上げられた本文は、全体の構成も余りよく嚙み合っていないし、筆者が何を主張したいのかもよく分からない、正直言って、好きが嫌いかで言えば、僕は嫌いな文章でした。

 とは言え、テストなので仕方がない。

 それでも、できるだけ、正解である確率の高い選択肢を選んでいくしかありません。

 最近はやりのAI(人工知能)と同じような考え方なのかも知れません。

 AIは、必ずしも論理的に理解して答えているわけではない。

 正解である確率の高い答えを計算して返しているだけなのです。

 

 また、現代文のテストを解くためには、できるだけ本文を表面的に読まないといけない、ということも再認識できました。

 その辺もAIと似ていますね。

 変に行間を読み過ぎてはいけないのです。

 ロボットになりましょう。

 今日から君も、受験ロボットだ!

 

 

 僕の敬愛する個性派囲碁棋士の王(おう)銘琬(めいえん)さんの書かれた本(画像は Amazon から)。

 AIは論理的に正しい手を考えているのではなく、過去のデータから見て勝つ確率の高い手を選んでいるだけというお話がとてもおもしろかったです。

 

 

 こちらが王銘琬さん。

 画像は 「王銘琬さん『棋士とAI―アルファ碁から始まった未来』」(岩波新書編集部) から。

 台湾出身。

 人柄がいいだけでなく、本因坊(ほんいんぼう)や王座(おうざ)といったビッグタイトルの獲得経験もあるトップ棋士です。

 人間味の濃さから考えると、最もAIから遠い存在?

 

(この項終わり)