先だって、休憩がてらにカウンターで一服していると、連日仕込みのお手伝いに来ているテンチョーのお袋殿(テンチョーを『秀吉』とすると『大政所さま』)が私のタバコを見て「あら、“シンセイ”?」と言うので「いや、これは“わかば”ってんデス」と応えたところ、大政所さまが「わかばね、わかば!アハハハ!」と笑って曰く、「前に勤めて居たところにねー、やっぱりお店を出したいっていう若い人が居てねー、毎日節約のために休憩時間には“わかば”を吸っていたんだけど、その子は彼女とデートに行く時には“マイルドセブン”を買って行くんだよー!アハハハ!」と行った。思わぬところで拾った“イイ話”なのだが、若き日の秀吉の食卓も如の此く明るいものであったとしたならば成り行きで天下を取ってしまうのも頷けないでもない。
最近、完全に東京への引き上げ時を見失っている私の目下の悩みのタネは、私の代わりにランチも仕込みも夜の営業もこなせる人材を探すことで、これがいざ探してみるとなかなか居ない。
学生バイトが来れない夕方にテンチョーと仕込みなぞをしつつ、おもむろに水を向けてみる。
———ワシはいつになったら東京に戻れるのカネ?
———うーん…代わりに動ける人が居ないとねぇ。
———どっかに居らんかな、ちゃんとしたフリーター。
———ちゃんとしたフリーターって、ちゃんとしちゃってるからなぁ。
———ちゃんとしたらダメなのになー、フリーターなんて。ワシはさっさと“ちゃんとしたフリーター”から足を洗って、日雇いで“テイのいい無職”に戻りたいわー。
———まぁ、もうちょっとヨロシク。
などというぼんやりとした会話をしているが、完全にテキのペースに乗せられている感も無くもない。
後日、私が勝手に営業中のカウンター越しにスカウトした女性客が仕事の合間に仕込みの手伝いに来てくれた時に「どっかに居らんかな、ちゃんとしたフリーター」と彼女に話を振ってみたところ、ついその雑談に花が咲いてしまい、
———ちゃんとしたフリーターですかー。私の周りだと結構家庭を持っちゃってる子が多いからなぁ。
———こーやって彼はね、ずっと“ちゃんとしたフリーター”を探しているんだよ。
———ワシ的には日中動ければ良いだけなんだよ、ちゃんとしたフリーターは!アナタの身内とかに居らんかね?
———身内のフリーター…うちのおばあちゃんは一応フリーターですよ(笑)
———じゃあ彼の代わりに採用しますか、フリーターのおばあちゃんを(笑)
———ちょっと待て!それを言ったらうちのばーさんだってフリーターだぞ!
しかし足が不自由だから平日でも帰宅困難者にはなるだろうけど。いや、通勤すら危ういか…
———それは採用できないなぁ。
なんて事を話しながら、結局は私が考える『天然物のフリーターと養殖物のフリーターの違い』などについて熱く語って、そうして肝心の物事は一歩も進んでいない。これが平和な日常というものかしら…とつい安心しそうにもなるが危ない危ない、私の希望はあくまでも“テイのいい無職”なのであるから。
———ところでテンチョーや、
———ん?
———厨房でワシの一番好きな名前の器具は、『シーズラー』なんだね。
———好き、とかあるの?
———あるある、でもあくまで名前だけのお気に入り。形状として好きなのは、あの、チーズおろす、半鐘みたいなヤツ。名前はわからんけど。
———あー、あれの名前はね…
———言わんでくれ!
———なんで?
———聞いたらオジャンになるから。
———意味がわからん。
そんなこんなで日々を過ごしているうちに、私の名札にはアルバイト生の指摘により『副店長』という肩書きがついた(私がエラソーなのでお客から「どっちが店長?」といちいち聞かれるのが面倒だとのこと。店長了承済み)
“テイのいい無職”サイドとしては、いくら流れであるとしても『居酒屋の副店長』ということになっていることが娑婆や同業者に対してどうにもこうにも恥ずかしくてならない。
〈ファイト! 吉田拓郎〉

