名前のない人 | 犬獣戯画

犬獣戯画

下町のロビンソン・クルーソー。
『最後の秘境は他人』がモットー。

 最近どうにも天災が目立ちますな。

 関西の大きな地震や、どこだかの噴火、その上今は中国・四国地方の大豪雨ですか、日本中に知友が散っている身としてはなかなか心休まらない日々が続いていて、いちいち安否確認したい気持ちもあるけれど、もし無事なら当人たちもあちこちへの返信が大変だろうし、実際何かあったら返信どころではなかろう。思いやりや心配の形にもいろいろあって、私なりに気遣いはしているつもりなのだけれど伝わりにくい形であろうとも思う。

 

 地元での私の近辺でも平和な日々が続いているかというとそうでもなく、先日友人のY田の父君が亡くなり(これは“天災”ではなく病気)、テンチョーに相談の上でランチタイム営業が終わってから夜の営業までちょいと暇をもらってお通夜に行くことにした。

 店を出た後、お通夜にまで少々時間があったので祖母の施設(通称“メッカ”或いは“エルサレム”)に足を運んだところ、祖母はテレビで例の大豪雨の様子を涙を流しながら観ていた。“地球国王(ばーさん※もちろん私が勝手に決めた)”たる者、名前も知らない人々の苦しみを慈悲の目で見ているのだなァ、とまたも一人合点していると、地球国王からお声がかかった。

 ———ボートで逃げてる人も居る…可哀想になァ…

 ———うん…だっけん(だけど)、こればっかりはねェ…

 ———ニシャ(お主は、の訛り)仕事は終めェか?

 ———いや、お通夜が入っちゃったからちょいと抜けてきた。また夜から店に戻るよ。

 ———誰が死んだ?

 ———友達のお父っつぁん。

 ———ヘェ。

 さすが地球国王たる者、遠くの大災害には心痛めても孫の知り合い程度の一体や二体の死にいちいち大仰な反応はしないものと見える。

 私は微苦笑しながら「じゃあ、そろそろ行くよ」とメッカ(或いはエルサレム)を後にしようとしたら、たまたま七夕のイベント用の短冊が飾られているのを発見した。つい反射的に昨年の如くイイ願い事をチラチラ探していたら、やはり昨年の如く施設の人に「只野さんのを探してらっしゃるの?」と声をかけられ昨年の如く肝を冷やした。

 今年目立った願い事は「お金がほしい」という物。昨年はそこまで気にならなかったことを踏まえると、やっぱり不景気なのかなぁと思ったり。あと「今年こそ痩せたい!」というのもあったな、年寄りが急に痩せたらいろいろ心配であろうに、と思わないでもないが。

 で、今年のナンバーワン願い事は「一獲千金」というもの。夢があっていいですなァ。“千金”の使い道云々まで掘り下げるほど野暮じゃアないが、果たして施設の中にも“一獲”のチャンスが訪れるものか。遠目から健闘を祈りたい。

 

 そんなことを考えながらY田のお通夜の会場に辿り着いたのだが、まだ時間がちょっと早い。一応18時〜とはなってはいるものの、仕事に戻らなければならない都合があり、事前に会場に電話連絡をして親族揃うのが17時頃だとは聞いてはいたが、やっぱり17時すぐすぐには当日の説明などでお忙しいのではないかしら、とやっぱり伝わりづらい気の揉み方をして、半ば自棄を起こすように思い切って会場入りしたのが17:15、そうしてY田家式場に辿り着いた私を待っていた現実は、皆が“Y田”であるということ。

 受付の女性が「誰関係?(的な内容)」の言葉をかけてくれたのだが、ハテ、よく考えたら私は友人・Y田の苗字しか知らない。

 ———あのー、Y田の友人でして…

 ———Y田、Aですか?B?C?

 ———えーと、何処其処のY田、なんですが…

 ———みんな何処其処のY田なんですが…

 と素っ頓狂なやりとりをしていると、私の友人のY田が受付の騒ぎに気づいたようでこちらにやってきた。私はもうすがるような目でY田に手なんか振っちゃったりして、いやはやどーも。

 ———只野!来てくれたのか!?

 ———東京から、では無ェんだけども、たまたま今こっちに居ててよ!説明は省く!

 そうしてY田とがっちり握手をした後で、

 ———…大変だったな…

 ———うん…只野…正直、キツイ…キツイよ…

 涙ぐむY田の肩をがっちり抱いて、

 ———おっさえ…人が死ぬ、っちゃあ只事じゃあねェよな…。今日もこれからいろんな人が来るんだろうから、今のうちに泣いとけ泣いとけ。あーんも恥ずかしいこっちゃねェど。

 ———只野…ありがとう…ありがとう…

 ———ところでY田…

 ———ん?

 ———オメー、名前なんてェんだ?

 ———…○○…

 毎度のことながらどうにも間抜けで締まらない終わり方になってしまったが、これらの原因は幼少期に地球国王からのエリート教育で見た『男はつらいよシリーズ』の影響であると思われる。

 

 ちなみにY田の父君の名前も、更に聞いたはずのY田のファーストネームもすでに覚えていない。

 だが、仮にそれが名前のない人だったとしても私は私なりに悼んでいるつもりではある。

 

 

[A Horse With No Name - 名前のない馬]

 
果たして人生最後のチャンスは来るのか?!