———えー、酒は百薬の長、などと申しますな。チョウなんてずいぶん偉そうなもんですが、つまりはバタフライなんですな。ですから、チョウに出世する前は毛虫かなんかであったワケでして。つい先日居酒屋で“酒の毛虫”とばったり出くわしましてね、そんでもって毛虫の野郎に「お前さんの兄貴の“サナギ”は、ありゃどういうワケでピクリとも動かねェんだい?」と聞きましたところ、毛虫が言うには「あぁ、兄貴のアレは二日酔いで…」なーんて。
ここで一呼吸置いて、
———こんなマクラを考えたんだけど、最後に「まぁ私も酔っ払ってましたから、どうやって毛虫なんかと口を聞いたのかはさっぱりワカラナイ」と付け足したらちょっとクドイかしら?
と聞くと、
———そうねぇ、ちょっとクドイかもしれないわね。
と応えてくれるのが、いわゆる私の個人秘書であるフライデーである。
以前から彼女の事を紹介しようと思いつつ、そうして私のブログにも頻繁に“個人秘書”として出てくるにも関わらず、ようやく少し立ち止まって彼女の存在について言及してみようという気を起こした。理由などなく、ただ本当に気分が向いただけなのではあるが。
フライデー(御年半世紀以上)とは某SNSで知り合ってから、早数年が経つ。厳密に覚えてはいないけれど、四年くらいは経つのかしら。いや、もしかしたら五年目かもしれないし、もしかしたら前世でなんらかの関わりがあった可能性も含めると思い出すのも野暮な話ですらある。
その間、二次元三次元の境なく彼女とは懇意にしていて、彼女の娘さんなど二十歳の頃には就職活動で拙宅に一週間程度居候していたりして、どうにも不思議な間柄である。もっと言えばその頃にはまだフライデーとは直接会ったこともなかったのだが、娘さんの就職・引越が決まって上京してきた際に初めてフライデーと会うことができた。
初対面の時の話は今でも語り草で、フライデーの身体が空いた時間で拙宅の近辺の散策兼食べ歩きデートなどをし、最後に私の行きつけのショットバーに入った際に、私はずいぶん呑んだくれてしまい案の定記憶がほぼ飛んだのだが、私のおぼろげな記憶の中の美女(御年二十歳)とフライデーの証言を組み合わせると、
———アレ?あっちにエライ可愛い子が居るなぁ、ちょっと声かけてこよう。
———なぁに、アナタ、隣に一応女性が居るのにナンパしに行っちゃうワケ?(苦笑)
———だってアナタはまつ毛が長いじゃナイカ!(名言入りました!)
そうしてその日はフライデーを駅に送り届けてからの記憶が曖昧で、翌朝LINEに知らない美女(昨晩の収穫)が登録されて居るのにふと気づき、私はフライデーに「よく考えたら二十歳の女の子と話すことなんか何も無いんだよねー」と愚痴ったりもした。
その手の私の身勝手さは指の隙間からこぼれ落ちる砂塵の如く数多あるけれど、大抵のことはフライデーは笑って済ませてくれる。ありがたやありがたや。
子猫が獲物を飼い主に見せるが如く、私は日々仕入れたイイ話を彼女に話したい。
思いついた冗談やネタなどがあれば、まずは彼女の反応を見てから推敲をしたい。
彼女と話す中で私が勝手に作ったり思いついたりした数々のネタやキャラクター、例えばそれは愛想のいい人面瘡だとか、「夢は紅白出場!(苦節三十年)」のムード歌謡歌手の轟さんだとか、横浜は黄金町のピンクサロン『ヌッキーマウス』のNo. 1嬢・櫻子さん(現役・大正生まれ)だとか、数え上げればキリがないのだけれど、これもひとえに“善悪”だとか“下品”だとか“差別用語”だとかいうツマラナイ尺度を持ち出さないフライデーのおかげであろう。
現実の彼女はずいぶん年上の苦労人で、既婚者で、遥か遠方に住んでいて、私の恋愛相談にもずいぶん乗ってくれるが、なんとなーく彼女の存在がなければ私の生活もずいぶん褪せてしまうようにも思う。
そう考えてみると、結局のところ私は彼女の掌と寛大な心の中で遊んで居るだけなのかもしれないが、別にそれはそれで構わないし、むしろ此方も都合が宜しい。
ちなみに“フライデー”という仮名は、『ロビンソン・クルーソー漂流記』の中で初めて見つけた人間のことで、下町のロビンソン・クルーソーとしての私の相棒的な意味合いであって、別に本名が“金曜日子さん”とか言うワケではないので誤解のないようお願いしたいことと、先日久々にテレビ電話をしたところ、やっぱり彼女のまつ毛は長かったので、酔った私の発言も別に言いがかりでないことも追記しておく。
追記;
以前から私とフライデーは、彼女の娘の悪口(基本的に私は好意を持っている人のことしか悪口を言わない)を事あるごとに言っていたのだが、彼女のキャラを虫歯菌に例えて「だから、あの、名前はワカラナイけど、北海道で牛に飼い葉とかをやる、あのでっかいフォークみたいなヤツを送りつけてやろうかな」という話の中で「ところであのでっかいフォークみたいなヤツ、あれ、何て名前なんだろうかね?まぁ知りたくもない、というか、知ってしまいたくない、とも思うんだけどねぇ」と言っていたが、つい最近仕事の最中に実物を見つけてしまった。
私が少々落ち込みつつフライデーに報告したのは言うまでもない。
