最近、酒を呑むと記憶を無くすことが多い。
ひとつには、私は晩酌的な少量を日々過ごすことをせずに、呑むときにはがっちょりと呑むため、都度ごとの酒量が少なくなく、同じ酒量を居酒屋などで呑むと考えるだけで身震いするくらいの金額を試算して、故に自宅でしか呑まないから、という風には考えられる。更に酒量が過ぎても自宅には終電も外敵も居ないから、安心しきってべろんべろんになってしまう、と考えると得心もいく。
ただ困るのは、“携帯電話”という存在で、私は酔っ払って時折寂しくなるのか、誰彼構わずに電話をかけてしまうという悪癖がある。そうして、だいたい翌日に発信履歴を覗いては案の定記憶にまったくないということが少なからずあるから、記憶のない間にひどい言葉や人を傷つける言動、また無神経な何らかをやらかしていないだろうかと考えると、やはりちょっとこわい。
酒と女は五号まで、と自戒したいところである。(この場合のツッコミどころは「お前にはまず“一号”となる女性が居ないじゃないか!」という部分である。酒は五号くらい仕方がない)
つい先日、中学校の自分に大変お世話になった某先生の退職祝いが地元であるというので、約半年ぶりくらいに帰省した。
ちょうど桜も満開で、某先生を会場に連れていく途中でも「桜もちょうどいいね。お互いあれから二十歳も歳経ったけど、まぁ何度重ねても春は春だモねー!」「まァ、とにかくオマエが無事に生きてりゃア、それだけでオレは安心だよ!」と二人で二十年の歳月を感慨深く感じていて、実際一次会(退職祝い)自体は大変盛り上がったし、私もおおよそは皆の許容範囲でしか乱れずに居たように思うが、終盤、代表して先生にお祝いの一言という場面で自分が何を喋ったのか、あんまり覚えて居ない。こわい。
その後、新幹事(チンパンジー、みたいな語呂だな)のTという男が二次会で花見の席を押さえておいてくれた場所に移動したらしいのだが、移動中も記憶がない。果たして私は歩けたのだろうか。こわいこわい。
そうして何故か私は翌朝、長いこと冷戦状態であった祖父のベッドで目が覚めて、案の定二次会の記憶がすっぽり無いのである。こわいこわいこわい。
事の内容を確かめたいが、肝心のTからのLINEでは「犬ちゃん、頭大丈夫?身体痛くない?」という労りの言葉しか出てこず、直接ゆっくり話せるまでに三日ほど時間を要すとのことなので、私はその三日間を恥じ入り恐れながら一日千秋の思いで過ごした。
三日後、
———そんで、オレ、なにやらかした?まったく二次会の記憶がないんだけど。
———そりゃ犬ちゃん記憶がないはずだよ、ずーっと寝てたもん。
———へ?
どうやら私は二次会の席に着くなり、美女を呼び寄せ、その膝枕で最初っから最後まで高いびきで眠っていたらしい。そりゃあ記憶のないはずである。ただ、美女の胸とか尻とかを触ったり顔を埋めたりしていたというのはまだご愛嬌で済む範囲だから、まァええとして。※むしろそのような行為に及ぶのであればちゃんと起きていれば良かったとさえ思った。
———でも、頭大丈夫?とか、身体痛くない?っちゃあ、ありゃなんだだ?
———それがさ…
二次会の夕方五時くらい、川沿いに冷んやりとした風が流れて来た頃、まだ理性を失っていない連中は「ちょっと寒くなってきたから三次会に行こう!」となったらしく、さぁ問題は私の眠るブルーシートの撤去だという話になったらしい。
そこで、気の利いた同級生が近くのテーブルの脇に私一人が眠れるサイズに一度ブルーシートを敷き、そこで仮眠をさせる間に他の片付けをしようという算段をしてくれたらしいのだが、移動のために起こした私が突如テーブルの上にかけ上がって胡座をかき、一座を見回して「お前らなぁ、一言だけ言っとくぞ!」というなり宙に寄りかかるようにテーブルから転落、頭から落ちた上に、ちょうどいい勾配の下り坂をそのままの姿勢でごろんごろんと転がって行ったんだと。
———わはは。オレ、それ見たかったなー。ちゃーんとバチ当たってんじゃん。オレ、おもろいわー!(無反省)
———いやいやいや!打ち所が悪かったし、あちこちぶつかってたから!みんな超心配したのに!(苦笑)
———いや、酔ってる時のダメージは、オレ、ノーカウントだからさ。
———もー!心配させないでよー!
———でもな、T、ひとつだけ言わせてくれ。
———うん。
———今さら、オレに、反省なんかさせないでくれよ?これで反省しちゃったら、三十五年分のやらかしてきた数々の重みで、オレ、自殺するしかなくなっちゃうだろ?
———…わかった。
そうこうして、結局私は無反省のままで、みんなに心配をかけながら、でも何故か祖父と和解して帰ってきたので、まま、人生は楽しいものだと改めて思った。それに、春だしね。季節の変わり目は頭のおかしい人が出てくるもんです。(前向きな自己弁護)
話は戻って、祖父のベッドで目覚めた後、帰省の主目的である祖母に会いに行った。
施設(聖地・私のエルサレム)の入り口に立つと、祖母から携帯に着信が入った。
———もしもし?
———今、どこに居る?
———いや、ちょうど中に入るところだよ。
———そっかエ。
電話を切った私は、以前のブログで書いたように『やはり濡れおかきが反応したか…』と非現実的だけれども十分な説得力を持った自説を思い出した。
自動ドアを入って、遠目に祖母が見えた時、祖母は無言で右手をゆっくりと差し上げた。まるでインディアンの酋長が「ハーオ」と挨拶をするような動作だったが、何故かその瞬間に私がここ数週間悩まされていた花粉症の症状がピッタリ止んだんだよね。でも今さら祖母の奇跡のいちいちに立ち止まっては居られない。
車椅子を押して個室に入るなり、祖母が「冷蔵庫にお菓子が入っているから、お食べなさいよ」と言うので冷蔵庫を開けてみると、そこにはまさかの“おかき”だけが有った。振り返ると祖母がニヤリと笑ったように見えて、やっぱり私の頭の中にGPS機能付きの濡れおかきを仕込みに来ているのだな、と思ったけれど、もーどーでもよくなっちゃって。
そうして会話もそこそこに半年ぶりに祖母の手を握ってみると、自分の背中の方からコールタール状の何か(疲労・ストレス・負の感情など、人体にとって有害なアレコレ)がドロドロと流れ出していくのを本当に感じた。こんなことってあるんだ?と思いながら、心の中のバカボンのパパが「これでいいのだ!」と言っているような気もするし、まぁ非常に有意義かつ穏やかな時間を過ごした。
———そろそろ、行くよ。
———ああ、達者でヤレ。
そうこうして私は故郷の春の風を受けながら、私が何者であるのか、どのような存在であるのか、というような事はもうどうでもいいように感じた。我を馬と呼ばば我は馬と成らん、と“道(タオ※この場合は祖母)”の個別指導を受け、私は心よりそのような気分になった。
だからこれからも前向きに開き直って生きて行こうと改めて思う決意の春なんだね。
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※追記※
この度は私が長年目をつけ、かつイジリ続けていた加山雄三船長の愛船・光進丸が多大なご迷惑をおかけし、船長に代わりお詫び申し上げます。
なお、表向きは現状原因を調査中となっておりますが、原因に関して個人的におおよその見当はついております。
但し、その件についての答弁は差し控えさせていただきます。
【春だったね 2014】

