なかったコトとして | 犬獣戯画

犬獣戯画

下町のロビンソン・クルーソー。
『最後の秘境は他人』がモットー。

 あっという間に年も押し迫り、ここ最近は日も夜もなく忙殺されていた。

 “師走”とはよく言ったもので、私なんぞでもそれなりに忙しい。お金がないから働いて、独居だから家事全般もあれこれこなして、その上大掃除まで重なると余計な動きを取る時間も労力もない。

 だが、おかげさまで何とか年も越せそうで、大掃除も目処がついたので今現在は少々ほっとしている。

 

 大掃除の合間にふっとこの一年を振り返ってみると、今年も実に様々なことがあったなぁとしみじみ思う。

 だいぶボリュームと時間を食ったのが家のこと、それに付随して夏休みの子育て、酔って暴れた友人から肋骨を折られちゃったり、親友の子供が生まれた初日に面会に行って「ようこそ地球へ」という声かけをしたり。

 ちょっと番外っぽいもので言えば、昔遠隔地に住んでいた頃に馴染んだおっぱいパブの女の子から「犬スケ、労働基準法とか詳しい?」っていうメールが来たりもしたなぁ。果たして風俗に労基が入れるような厳密な雇用契約があるものかしらん。

 天気に吉凶がないように、これらの出来事も後々になってみないと経験としてどのような役に立つのかはわからないが、少なくとも何もなかったわけではないという意味では充実した一年であったように思う。

 

 来年年男の私(ちなみにハンドルネームの“犬”は実は干支から来ている)の同級生などを見渡すと、みんなずいぶん安定しているもんだな、と友がみな我より偉く見ゆる気持ちになる。

 結婚し、家庭を持ち、子供を育て、二台目の車を購入し…実に様々なローンを組んでいるところを見ると、どうやらヤッコたちはもう少し長く生きるつもりであるようで、まさしく人生に於いての“正社員”といった趣がある。

 それに比べて私なんぞは一年ごとに状況をくぐり抜けて生存を継続するのが精一杯で、所詮人生の“契約社員”であろう。だからこそ年末の「今年も生き延びられた」という感慨がひとしおである。

 

 つい先日は祖母から電話がかかってきた。

 「おかげさまで年が越せそうだよ」と言う私に、祖母が「正月は、来んのか?」と言うので、内心『あれー?この間電話した時に、じーさんが御機嫌斜めだから年末は帰らないと伝えたはずなのになー。ま、ばーさん忘れちゃったかな?まぁしょうがないよね、そこには触れずにもう一度伝えよう』というオモイヤリの気持ちで「いや、正月は帰らない。こっちで色々済ませたいこともあるし」と伝えたところ、祖母がこう言った。

 「違ェだよ、オメーにも正月なんてもんが来るのか、って・こ・と」

 そう言って祖母は「ヘヘッ」と笑った。

 私は『ぎゃふん、って言葉はこういう時に使うんだろうな』と微苦笑しながら、祖母の小さな裏切りが愛おしくて堪らない気持ちになった。

 

 自分にとって嬉しいことも嫌なことも盛り沢山な一年ではあったが、まぁ無事に越年できるなら気分一新、年が明けたら全部なかったコトとする。

 

 皆さまもどうぞ良いお年をお迎え下さい。

 

 

【なかったコトにして】

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馬が走るのは己が何者かを知るためだろう。