東京砂漠のゴジラちゃん -12ページ目

東京砂漠のゴジラちゃん

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「ボクがキミのサポートしたいって言ったらどうする? るんるん?」




「はい?」




「ボクがなるよ! ボクがしたいよ! キミのスポンサー!」




ヤゴの目はランランと輝き、ゴジラの肘から手首までの肩幅で、わっしょいわっしょいと言わんばかりに、肩を震わせている。ようするに、一人で興奮していた。





「あのさ、どっからどうしてどうなったら、そんな話が出てくるわけ?」




「だって、キミィ、今のままじゃ大変でしょ?」




この頃には、ヤゴにえせ霊能者の話はしてあった。なんつったって、ヤゴを笑わすには最高のネタだからな。





「あのね、大変なのは当たり前なの。自分で蒔いた種なんだから。でもね、何とかやってるからいいの! それにね、もう誰からも借金はしたくないの! こりごりなんだからね、もう!」





「違うよ! お金を貸すとかの話じゃないんだから、誤解しないでよォ、それにさ、もっとさ、たくさん書く時間がとれたらいいんじゃない?」





数ヶ月前から、ゴジラちゃんはえせ霊能者のことをノンフィクション小説にするため、時間を見つけては書いていたのだ。




「お気持ちだけいただきまっす。でも、ご遠慮させていただきまっす!」







・・・・・・・・・・・ 数日後 ・・・・・・・・・・・・・・






「やっぱり、ボクにさせてもらえないかな~、キミのサポート……」




「ま、まだ、言ってんのぉ~?」




「だってさ、キミを見てると、事務職なんて全然あってないんだよね~♪」





1か月前、デスクの頭上まであったパーテーションが胸あたりまで下げられてしまう、という悲劇的な事態が起きていた。そのため、ゴジラの食っちゃ寝の極秘事項があらわにされる羽目になる。




「もう、ゴジラちゃんさぁ、寝るときはさ、書いてるふりとかして、ごまかして寝てよォ~」





すでに部署のお笑い担当となってしまっていたゴジラは、女子たちによく言われていた。真っ直ぐ前を向いたまま大口をあけ、ヨダレというご丁寧な付属品までくっつけてるゴジラズ姿が、遠くからでもよ~く観察できるというのだ。珍しく寝てないな、と思ったら、何かムシャムシャやってるし……と。

くそ~! 何度も命拾いしたパーテンションが、今度はゴジラを陥れにかかろうとしていたのだ。

そして、ヤゴもそのゴジラズ姿を何度も垣間見ていた。





「ちょっと、事務職が合ってないって、それ、どうゆう意味ざんしょ?」





ゴジラがヤゴを本気で睨む。てめえ! チクッたらただじゃおかないからな! そんなこともししやがったら、毎月の30万、弁償しろよ! の意をこめて。




「ち、ちがうよ、寝てるからとかじゃなくて……、そのぉ、キミには事務職は地味すぎるってことだよォ~」




オ、オヌシ、勘がいいでござるな、確かに事務職をやってつくづく思った。つまらん……。1日から月末まで、毎月同じことの繰り返し。でもね~、もっとつまんないのはね~、ヤゴクン、アータとの、この時間ですからぁ! 




「キミさ、バーとかさ、接客業とかが向いてるんじゃないの?」





おっ! ますます勘が冴えとるじゃないですか! 昔、クラブのママをやってたことも、保釈金ネコババしたことも、(それはこの場合関係ないし、誤解されるからやめなさいね) この男には言ったっけ??? どうだっけ???





「でもね……、そう見られるんだけど、実はそうでもないのよ。私、なんでも真剣になっちゃうからさ、酔っ払い相手はしんどいの……(チミも十分しんどいのよ……ヤゴクン)」




「そうなんだ……、じゃ、小料理屋の女将なんかは? るんるん!」




「んん……、お料理作るのあんまり好きじゃないしね……」





「じゃ、接客だけやればいいじゃん!」




「まあね、それならありかも……って、ちょっとぉ! どこに向かって喋ってんのよ!」




「だってボク、キミの夢を一緒に叶えたいんだよ……」




「はあ~? なんで~?」





「だって、もうこのまま年をとっても、なんの楽しみもないし……、棺桶にお金を持って行くわけにはいかないし……、キミといると、本当に楽しいんだ!」





このお二人さんには絶対に不釣り合いな、テーブルの上のキャンドルがヤゴの瞳に反射し、キラキラと不気味なほど輝いていた。このままこのキャンドルを、ヤゴの顎の下に移動させれば、「ザ・亡霊大会、どれが一番気持ち悪いでしょう!」 で間違いなく優勝できるぞ! と確信した。気が狂いそうなぐらい、ヤゴにそれを言いたくなったが、シャレにならんのでやめといた。





その後も、ヤゴからのアプローチつづくつづく……。




〈今日の報告事項〉


また、昨日のカワイコちゃんから、ヤゴがしつこいと、泣きの連絡入る。

ゴジラちゃん、「やめてあげてくれ」 のメールをヤゴに送る。

ヤゴからカワイコちゃんに、そんなつもりじゃないのに……さようなら、と悲しんでるメールくる。

ヤゴからのメール攻撃、また復活するな、の覚悟体制にゴジラ入る。

部屋の中、もっか漏電中。

モップ犬、餌が少ないと、キレまくる。

ゴン、缶詰食わせろ! とゴジラを噛みまくる。

ゴジラ、ゴンにおびえ、宝くじ売り場に走る!

スクラッチ一枚だけ買う。

おお! 3千円当たった! マジだよマジ!

運が向いてきたぜ! と涙目になり、売り場のおじさんに気味悪がられる。

以上。

その後、月に2回が週1回のペースになり、ゴジラはヤゴと夕食をともにする。

毎晩、味もそっけもないコンビニのお弁当を、ひとり寂しく食べるヤゴに同情した。その分、テレクラのさくらという大切な収入源は減るが、ゴジラちゃんにはそっちの方が大事だった。





ヤゴとの夕食の後は毎回終電ギリギリで帰り、体はなぜかヘトヘトだった。話題もなく、話しててちっとも楽しくないヤゴとの時間は、ゴジラちゃんのお笑い劇場と化していたからだ。

ヤゴに何とか元気になって、妻の看病を頑張ってほしい、その気持ちが強すぎた。ヤゴは始終笑いこけてくれたしな。





ヤゴ……チミはどうみても女にもてるとは思えない。こう言っちゃなんだが、最ももてない部類だろう。いや、もてないどころか、目の端にすら入れてもらえないのかもしれない……。でも、こうして今、ゴジラちゃんがチミを目のまん真ん中にいれているではないか! 少々きついぞ、オヌシ……。




ヤゴ……、ましてチミは、トンボになって空を悠々と飛ぶこともできない。しかし、たくさんの卵の中、ふ化ができ、弱肉強食の中、襲ってくる外敵から何とか逃れ、立派にヤゴとして、いま生きているではないか!





ヤゴ……、ヤゴ……、ヤゴ……、ああ~、もう嘘はつけない! 





ヤゴ! なぜにチミは、そう悲壮感でいっぱいなのだ!



そう、ヤゴは伝染病のように悲壮感をばらまいていた。そこにヤゴがいるだけで、なぜか同情してしまう。なぜだ! その原因はなんなんだ!




ってなわけで、数ヶ月こんなことをやってたわけだ。で、ある日の夕刻……。場所はとある喫茶店で、それは起きた。




(つづく)

〈今日の報告事項〉を前のブログに載せるの忘れてたから、このブログの最後に載せるね! 

ゴジラ、フフフッ、いい作戦じゃないか、最後まで読ませようって魂胆だな……。それには、おそらくどこのドイツも気づかないさ、その調子だ! 落ちたランキング、取り戻せよ! えっ! ゴジラ! わかってんだろうな、今、おまえは崖っぷちなんだぞ! ←だれ?

はじめます……。





「もう、ゴジラさんって会社にいるときと全然違うんだも~ん! 昨日びっくりしちゃったぁ~」





翌日の午前中、同じフロアの女子たちからの同じ言葉に愛想でかわし、ゴジラちゃん、パーテーションの中で何かをしてた。(仕事と言いなさいよ) すると、前に座る女子が腰を浮かし、ゴジラちゃんにニヤニヤと視線を送る。同時に背中に殺気を感じ振り向くと、なんと、そこにヤゴ発見! というより、ゴジラちゃんの背中にピタリと寄り添うように立っているではないか




「な、なんですか?」




「何か分からないことがあったら、何でもボクに聞いてください」




「は、はい、ありがとうございます……」




「では、失礼」




「はあ……」





ヤゴが去る。ゴジラの周りの女子どもが吹きだす。昨夜のステージ上で歌うゴジラに、踊るヤゴの図が思い出される。まるで、メオト漫才じゃないですか、オエッ!





「ヤゴさんさ、下のフロアの人だよ。わざわざ、ゴジラさんにあれ言うだけに来たんだ~」




「ヤゴさんって、あんな人だったんだぁ、ゴジラさん、好かれちゃったんだよォ~!」




「きゃ~! がっはっは!」





暇な女子どもめが……。しっかし、変なやつ……。ムム、メール着信のお知らせ。イヤ~な予感……。





「ヤゴです。先ほどはどうも。(おい! 今しがただろっ!) 本当に何でも聞いてください。ゴジラさんたちと営業マンが連携プレーを取ることが、一番大切なんですから。ボクでお役に立つことでしたら、何でもやりますから」





それからの一か月間、ヤゴからのメールが何日か置きに、ゴジラちゃんのPCに届くこととなる。内容は全てに夜の食事の誘いだった。

用事があって行けません、を繰り返していたゴジラちゃん、それでもなお届くメールにはっきりと断りを入れることにした。





「ヤゴさん、御誘い頂き有難いのですが、ゴジラは七夕のように、年に一度しか、ひこぼし様とお会いすることができません。ある事情のため、それ以外ずっとゴジラに時間はありません。

残念ながら、ヤゴさんはゴジラのひこぼし様ではございませんので、恐らくこの先、ヤゴさんと夜の食事をご一緒することはできないのです。あしからず……」






ヤゴは上司でもあり、この会社はゴジラの一番の収入源だ。残業含め、月に30万頂いてた。ヤゴとの関係を悪くして、面倒なことになるのはご免だ。ヤゴの気分を損ねないよう考えたメールを送る。





「分りました。残念ですが、諦めます。では、ランチはどうでしょう。ランチなら時間、取れますよね? 近くに穴場の場所があるんです」




――― ガーン!






ヤゴがアジアナンバーワンの営業マンだというのを忘れてた。この戦法だったのか……。ランチを断るのは難しい。だって、同じ職場なんだからさ。

ゴジラちゃんはお弁当組だった。でも、中身を誰にも見せられないお弁当です。ひとりで、秘密の密室でこっそり食べてます。

お弁当が腐りそう……、体中がかゆくて……、椅子にアロンアルファーが……など意味不明ないい訳で、何とか意志表示したものの、ヤゴには通じず、翌月ゴジラちゃん、ヤゴとランチすることとなる。





料亭のような店構えで、廊下の両端に個室が並んでいる店だった。靴をぬぎ、その中の一室に入る。上座にヤゴが座っていた。ヤゴの背中めがけ窓からの日差しが当たり、水辺の葉っぱでふ化をじっと待つ、本物のヤゴに見えた。




「今日は、お誘いいただき、ありがとうございます」




「あっ、どうも、お越しいただき、ありがとうございます」





なにを注文したのかと思いきや、一番安い定食だった。6種類ほどの料理が並ぶお膳が前に置かれる。半年ぶりの外食に、ゴジラの腸が音をたて、胃袋が舌舐めずりする。

気がつくと、あっという間に食べ終えたゴジラちゃん、ヤゴを見ると、殆どがまだ残っていた。ゴジラちゃんの食いじがはってただけでなく、ヤゴは驚くほど食べるのが遅かった。





大きな口を開けモグモグモグモグ……、お箸で皿の上の料理をかき寄せるかき寄せる。モグモグモグモグ……、かき寄せるかき寄せる、モグモグモグモグ……。どうやら、咀嚼に時間がかかっているらしい。まるで、冬眠に入る前の無心に食べものを頬張る芋虫みたいだ。

モグモグモグモグ、モグモグモグモグ……、あっ、口を開いた。何か言おうとしてる。



ちょっと、待ったあ! 口の中のもの飲み込んでからにしてくれよ、もしこっちに飛んできたりでもしたら、許さんからな! 






「ゴジラさん、なぜ、夜は忙しいんですか?」





次回のサザエさんは! のように喉を鳴らし、口の中のものを飲み込み、ヤゴが喋った。

よし!





「まあ、それは……色々とありまして。ヤゴさんにお話するような話じゃないんですよ。別に、私の話はいいですから……」






えせ霊能者と一緒にいて全財産失って、通販で買った4枚セットのパンツの1枚が風に吹き飛ばされ、もう1枚はカラスに取られ、あとパンツ2枚しかありましぇん、なんて話、勤続何十年のサラリーマンに話したところで到底理解できる話ではないし、たった今はいてるパンツを透視でもされたらぶっ飛ばすし、ましてや同情なんてされたら、もっと最悪だ。






「そうか……、聞きたいなあ~。ボクの話なんて、面白くないし……」






そりゃそうだろう。さっきから、モグモグモグモグ、モグモグモグモグとやるばかりで、気のきいた会話などない。ゴジラが気を遣って話してるだけだ。しかし、ここで流れが変わった。






「ボクの家内ね、鬱なんだよ……」





「えっ?」





「もう、7年寝込んでる」





「……」





「だからね、夜はお弁当買って、家で食べてるんだ……」






ヤゴは、それでなくとも悲壮感でいっぱいの顔を、さらに暗くしている。その後、ヤゴのその話でランチは幕を閉じた。

ヤゴの妻は7年間、家では寝たきりの鬱患者だった。ただ、病院には一人でタッタッタッタと通っているという。風呂に入れたり、朝ごはんを作ったり、ゴミを出したりはヤゴがやっているらしい。子供もいるが、皆社会人で忙しく、独立してるのもいて、ヤゴが全部やってるとのことだった。

かわいそう……、途端に、ゴジラちゃんの中でヤゴに対する見方が変わる。





ゴジラちゃんの友人で、重度の鬱の身内を抱え、大変な苦労をしてる人が何人かいた。皆一様に苦しんでた。大切な身内の生死に関わることなのだから、心中察しただけでこっちも辛くなる。

ゴジラちゃんにも幼いころからの唯一の親友を、自殺という悲しい形で失った経験が数年前にあった。他人事ではなかった。





そしてゴジラちゃん、その後、ヤゴの夜の食事にお伴することとなる。




〈今日の報告事項〉


ゴジラちゃんの後輩のカワイコちゃんに (ヤゴと同じ職場のOL) ヤゴが食事の誘いのメールをしつこくしてくると、カワイコちゃん、本人から報告受ける。

だからか、ヤゴからのメール、今日ゼロ。

ゴジラんち、もっか漏電中。

暗闇の中、日に日にゴジラと娘の視力が野生化してることに、二人で競い合う。


むすめ

「ね、あのカレンダーの字、見える?」


ゴジラ

「見えるなんてもんじゃないさ! じゃあ、あの奥の棚の金無垢のローレックス見える?」


むすめ

「えっ? ママ買ったのヾ(@°▽°@)ノ? (ウチにお金あるようになったの?)」 


ゴジラ

「ねっ、じゃあ、あの棚の上に積まれた札束見える?」


むすめ

「ええ~! TOTO、とうとう当たったのお?o(〃^▽^〃)o」


ゴジラ

「モップ犬のご飯、明日から半分の量で、あげといてね……」


むすめ

「……」 


ゴジラ、宝くじの前うろつくが、今日は買わず……。





(つづく)