東京砂漠のゴジラちゃん -11ページ目

東京砂漠のゴジラちゃん

ブログの説明を入力します。


朝起きると、ゴジラちゃんの携帯にヤゴからのメール。時刻を見ると、夜中の3時に送信されていた。





「心臓がドキドキして、息が苦しくて、頭が割れそうにガンガンして、眠れない……」





「なんじゃこりゃ??? 動悸? 息切れ? めまい? 救心?」





慌てて電話する。

なんと、ヤゴは後悔していたのだ。あの36万の家も小料理屋も……。そして、その不安にさいなまれ、地獄の底で悲鳴をあげていた。




オオオオオヌシィ~! どどどうすんだぁ!!!




しかし、数時間後、目の前に現れたヤゴを見て、ゴジラちゃんは絶句した……。

くくくらい……、暗すぎる……。以前の真黒な雲が入道雲になって、ヤゴを包み込んでいた。

背丈も肩幅も、10センチは縮んで見える。もともと長く大きすぎる顔が、疲れ切ったモアイ像のようだ。

ヤゴ……、チミはいったいどうしちゃったの? 悲壮感が、悲壮感が、前よりもぉっと、すごいですぜ!





ゴジラちゃんはヤゴを喫茶店に残し、ひとり、鈴の助に頭を下げに走る走る、コナンに詫びの電話を入れ、ごめんねごめんねを繰り返す





しかし、ヤゴはそれで終わりにしなかったのである。この後、今度は本当にゴジラちゃんが怒ることをしでかしたのだ!





(つづく)


あれは、ゴジラちゃんと娘が住む部屋探しが始まった初日だった。ヤゴと出向いた先は、麻布のゴジラちゃんの仲良くしてた不動産屋の赤胴鈴の助がいる店だ。

髪を真中分けにし、凛々しい瞳が印象的な、がっしりとした体つきの誠実な青年に、ゴジラちゃんがそのあだ名をつけた。 





「ゴジラちゃん! お帰り! 帰ってきたんだね!」





「おお! 鈴の助! 会いたかったよ~!」





鈴の助とゴジラは抱き合うことはなかったが、熱いアイコンタクトで想いを交わした。ただ、ゴジラのとなりでポッチリたたずむヤゴに、「だだだれ???」 と不可思議な視線を、鈴の助がチラチラちらつかせていたのにゴジラは気づいていた。





「紹介するね! こちら、ゴジラのサポーターに立候補したヤゴさん! トンボにはなれないけど、ゴジラのサポーターにはなるっていう、怖いもの知らずのヤゴさんだよ! よろしくね!」





その後、3人で物件の資料を見つめる中、いきなりヤゴが言った。





「ここにしよう!」





「ええ? だめだよ! だって家賃36万だよ、何考えてんの? ヤゴさん。高過ぎるよ、ダメダメ!」





しかし、ヤゴの意思が妙に硬い。なぜか……、そこは麻布十番の駅から徒歩5分の、メインストリートからちょっと奥に入った一軒家だった。1階を小料理屋に、2階をゴジラたちの住み家にする、とヤゴは言うのだ。確かに立地的には今流行りの隠れ家的小料理屋にはちょうどよく、値段も麻布ではかなり安い方だった。






「でも……、初めて飲食業をされる方に、この家賃はきびしいですよ」





鈴の助は今までだって、損得なしに親身にゴジラの相談に乗ってくれた本当にいい奴だ。鈴の助とゴジラが首を横に振り続けるなか、ヤゴの決意はどんどこ硬くなっていく。結果……、ヤゴは申し込みをし、1階の改装を急ピッチで進めたいと大家に大至急伝えてくれ! となぜだか偉そうに胸を張ってみせた。






「ここの大家さんはかなりうるさい人ですから、キャンセルとかされちゃうと、ウチも困るんですが、その辺は……ヤゴさん大丈夫ですか?」





鈴の助がキリリとした眉と目をヤゴに向ける。ヤゴは、何言ってんのよ~、笑っちゃうよ~とでも言いたそうなぐらいの余裕シャキシャキで 「ハハハ、大丈夫ですよ!」 と言った。

ただ、真面目を絵に書いたようなヤゴの風貌と、ヤゴの務める会社の信用度と、ヤゴがサイドビジネスで理容院のフランチャイズを3年前から経営していたのもあり、鈴の助はそこまでおっしゃるならと了解した。





しかし、ゴジラにこの時イヤ~な予感が走る。何かが変だ。でもそれが何かが、この時は分からなかった。その日の帰り、改札を浮足立ちで入っていくヤゴの後ろ姿を、ゴジラちゃんは柱の陰からそおっと睨むように見つめ、すぐさま弟分でもあり、最も信頼する7歳年下のコナンに連絡を入れる。





「かくかくしかじかくかくすけさん……でね、コナン、悪いんだけどさ、明日、時間作ってくんない?」





彼は宮崎駿の 「未来少年コナン」 のコナンに醸し出す雰囲気がそっくりだったから、ゴジラはそう呼んでいる。数年前に結婚して、妻と一人娘とホンワカ家庭を築き、レストランなどの店の立ち上げの際のコンサルの会社を経営する、超イケメンだ。(ゴジラちゃん、自然とイケメン好き。中途半端なオカマはもっと好き)






「明日か~、明日アポ入ってるんだよな~、でも……ゴジラの頼みなら断れないな。分かった、何とかするよ! で、小料理屋立ち上げの設備費用、人件費等の内訳やらなんやら、持っていけばいいんだよね? で、ゴジラのサポーターって言ってたけど、店はやらない方がいいなって俺が思っても、その……トンボ? あっヤゴさんか……に、言わない方がいいの?」




「なにそれ???」




「彼がお店をやらないことが、ゴジラにとって不利にならないのか? ってことだよ。もしそうなら、俺言わないよ。開店進める準備にすぐ入っちゃうし……」




「ありがと、コナン。コナンの気持ちは嬉しいけど、彼にとって大丈夫かどうか、コナンのプロの目で判断してほしいんだ」




「了解! じゃ、明日1時に麻布だな。じゃあな」





帰宅後、ゴジラは今日鈴の助から渡された36万の家の間取り図や、1階の細かい平米数の書かれた紙をコナンにFAXする。

翌日、コナンは昨晩遅くまでかかったであろう、カラーで丁寧に作った資料を持参して、ゴジラとヤゴの前に現れた。





結果、コナンはやめた方がいい、とヤゴに言った。夕食を3人でした店でも、その後のバーでも、コナンは一貫してそれを言い続けた。鈴の助と同じ、初めて飲食をやる人間が、1000万以上の設備投資をし、シェフをやとって経営するのは無謀過ぎると……。今までの失敗例など、こと細かく話してくれた。その後もゴジラとコナンで、ヤゴを説得する。




「コナンさん、大至急、お知り合いの安く厨房機材を売ってくれる業者の手配をお願いします。さっき言った、そのオーダーメイドのもぜひ!」




「あのね~、ヤゴさん! 本当によく考えなね。今までサラリーマン頑張ってきて、あとは余生をゆっくり楽しめるんだよ。70才まであっという間だよ。薄くなった頭のてっぺんの領域もどんどん増えて、歯は総入れ歯になるんだよ。身長だってどんどん縮んでいくんだよ。お婆ちゃんが言ってたよ。あたしゃ、そのうち見えなくなっちゃうんじゃないだろうかね~、って、ヤゴさんには、それがホントに起きるんだよ。肩幅だってそうだよ。今は吉川浩二顔負けの大きな肩パットをスーツの背広に入れてゴマ化してるけど、セーターやシャツに肩パット入ってるのなんて売ってないんだからね。それにその髪型だよ。サラリーマンぽく見られたくないからって言ってたけど、スダレのような前髪さ、それ、むっつりスケベのカッパみたいだよ。全てにおいて、あんまり思いきったことはやめた方がいよ。ねえ?」





「大丈夫だよ~、そんなにボクは信頼がないのかな? ホントに大丈夫ですよ!」




またもや余裕シャキシャキだ。そこまで言うならと、コナンは了承し、厨房業者へ機材などの注文を始めた。






・・・・・・・・・・・・・・ 4日後 ・・・・・・・・・・・・・・・






(つづく)




〈今日の報告事項〉


今日から再び、「被害者2000万円の会」 からのメール、復活する。

内容が若干、悲鳴化してきている。

ゴジラの体の右半分がおも~くなり、右腹にシクシクとした痛みが走る。もしかして、ヤゴの念か?

モップ犬、腹が減っているのか、床を気がふれたように舐めはじめる。

ゴン、ゴジラの食べていたツナスパゲッティの中に飛び込む。

部屋の中、もっか漏電中。

ゴジラの 「トイレットペーパーの上手な使い方」 の講義始まる。客、娘ひとり。

以上。

ヤゴからのサポーター要請が続くなか、ゴジラちゃんもだんだんとその気になってきた。遠くをみつめる黄昏れTIMEが増え、一年前を懐かしむ余裕すらでてきた。





去年の9月、驚愕の事実に唖然とし、泣く暇も与えられぬまま馬込に越し、かわいい娘っちとも離れ離れの働きずくめの毎日……。

大みそかは辛かったな~、仕事帰りの駅から自宅への道すがら、あちこちの家に灯る温かい灯、家族団らんの笑い声……。ゴジラちゃんには一生縁の無いもののように感じた。家族の笑顔が浮かんだ途端、それがジグソーパズルをひっくり返したように、バラバラと音を立てて崩れてく。





疲れ切った体に、涙のタンクも枯れ果てて、もう流す涙も出てきやしない。それでも、娘の名前を呟くと、顔じゅうがクシャクシャになる。頭をふって、顔をあげて、前を向いて歩く。大丈夫、しっかりしろ、おまえは強い、負けるな、自分に負けるな! 






――― よく頑張ったな……ゴジラ……。





あの頃は神を恨んだ。だが、捨てる神ありゃ、拾う神ありなのか……。ヤゴがサポータ志願してきてる。世の中には変な奴がいるもんだ、と初めは思ってたけど、これも神の計らいなのか、とだんだん思うようになってきた。流れに逆らっちゃいけない天中殺にこれだもんな~、キッヒッヒッヒ! 断りたくても断れないじゃ~ん!

ようするに、ヤゴの要請を受け入れる都合のいい訳がゴジラの中にも芽生えてきたって訳だ。



「でね、会社やめてさ、キミ、バーか小料理屋の女将やったら、時間自由に使えるでしょ?」





「あのさ、ヤゴさんって、もしかしてゴジラを上手いように使おうって魂胆じゃないでしょうね? どうよ!」




「なに言ってんだよォ! ボクは純粋にキミの夢を一緒に叶えたいだけなんだよ!」





「ふ~ん、変わってるね。まあいいや。でもね、その夜の仕事だって、書いてる小説だってヒノメを見るかどうかなんて、分からないんだよ。まっ、小説は絶対に出すけどさ♪ ただ、いつモノになるかなんてのも誰にも分からないんだからね。その無謀な挑戦への覚悟はアータ、できてるんでしょうね? あとで泣いたって知らないよ! 

アッシの人生はねぇ! 山あり谷ありでねぇ、楽しいばかりじゃぁねえんだよォ! 分ってんだろうなぁ!





「別にキミのスポンサーになるわけじゃないんだからさ。どんなことがあったって、キミに迷惑はかけないから! じゃ、決まりだね! 

今日からボクはキミのスーパーマンだ!





この時、ヤゴをウヨウヨと漂う真っ黒の雲のような悲壮感が、霧が晴れたように取り払われて見えた。ヤゴは超ご機嫌だった。もちろん、ゴジラも……。

しかし、スーパーマンとは自分のことをよく言ったもんだ。ヤゴくん……チミはスーパーマンというよりも……、スッパマン? そう、スッパマンではないだろうか……。そうだ! スッパマンだ!





スッパマン! スッパマン! スッパマンマン♪  みんなで一緒にスッパマン♪ マン♪♪♪





そして2007年10月、ゴジラちゃんは鼻歌持参で、麻布に舞い戻ったのである。





ちょちょちょちょっと、まったあ!!! その前にぃ、忘れちゃいけねぇことがあるんでえ! ヤゴのオッサンがとんでもねえことをやらかしちまったのさぁ! (←だれ?)




(つづく)