ゴジラが小料理屋の女将さんになるというヤゴの夢は、鈴の助とコナンに多大なる迷惑をかけた末、幕を閉じた。
鈴の助もコナンも、逆にゴジラに同情してくれた。キャンセル料が出ないようにとコナンは取り計らってくれたが、二人のちつかってきた業者や大家との信頼関係に溝ができたのは否めない。ホントにごめんよ……。
とにもかくにも、ゴジラはヤゴが心配だった。あの自信満々の姿から、わずか4日後には人が変わったような姿……。コナンが言っていた 「年寄りの冷や水」 なのだろうか……。
今までヤゴの過去の話を聞いても、そんな失態があったことなど聞いていない。しかし人間は失敗する生き物だ。ゴジラちゃんの失敗だって、思い出しただけで生きているのが申し訳なくなる。地道にサラリーマン街道まっしぐらできたヤゴは、舞い上がってしまっただけなのだろう……。
「なんだか、急に不安になっちゃったんだ……」
ヤゴが言っていた通り、ただそれだけなのだ……、きっと……。
・・・・・・・・・・・・・ 数日後 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ねえ、ボクの知り合いに昔銀座でクラブをやってたママがいるんだけど、会ってみない?」
「なんで?」
「彼女と一緒にバーをやったらどうかな? って思ってね! もちろんキミがママで、彼女がチーママさ!」
「ねえ、ヤゴさん、もう先日みたいなことは困るのよ。それに……もういいよ。」
「お願いだ! そんなこと言わないでくれよ。頼むよ……」
仕事をすでに辞めてしまっていたゴジラちゃん、友人や高金利金貸し業者の借金の500万はこの一年で何かとか完済したものの、身内からの借金500万はまだ残っている。何かはやらなきゃまずいのだ。それに、天中殺だしな。
流れに逆らうことは、マジでしたくなかった。ヤゴのしつこさは並みじゃなかった。それを断れば断るほど、波に逆らうことになる。ヤゴのサポートに了解した時点から、ゴジラはその波に乗り続けなければならない。
いや、それは今思うと後からくっつけたもので、ゴジラちゃんが切り捨て御免ができなかったのは、ヤゴの悲壮感だ。えもいわぬほどのものがあった。
「ええ~? ホントはサポートの話にゴジラ、ヨダレ垂らしてたんじゃないのぉ~!」
「なななにぃ~! んなものあるか! ゴジラはね、自分は信じてないけど、自分の運だけは信じてるんだ。このままでは絶対に終わらないってやつだよ。あんだけの思いをしたんだからな、次にやってくるのはそれに見合ったほどの大きな幸せなのじゃ! 目の前にぶら下げられてるのが人参だとわかって、それに飛びつくほど心は腐ってないぜ!」
「だから、その大きな幸せが、ヤゴのサポートだって、心のどっかで思ってたんでしょ~♪」
「んんん……、全否定ができないから苦しいでごじゃる。だけどね、それはほんの鼻くそぐらいだよ。それに、大きな幸せを金と思ったことはない。
最初はね、人生一番の最悪で、世の中から抹殺されたような生活を送っているゴジラを必要とするヤゴに、こんなゴジラでも誰かの役に立つことができるのなら、って思ったんだ。
だけど、楽しそうにする姿と悲壮感いっぱいの姿を繰り返すヤゴに、気づいたらゴジラちゃんがその渦に巻き込まれていってた、ってことだな。渦の大きさは世界一と言われてる、鳴門海峡に小さな木船で航海にくりだした、きれいなお姫様ってとこだな、ゴジラちゃんは……」
「あんたってさ、なんでそうやって……、いや、いつもそうだよ。自分を正当化するのにかけちゃあ、天下逸品だな」
その数日後、ゴジラちゃんは知り合いの青山のバーのママに有名女流作家を紹介していただき、高級赤ワインをしこたまご馳走になり、珍しくひどく酔っ払っていた。えせ霊能者との話にママが興味を持ち、その作家にネタを提供すれば? との話だった。
既に自分の文章力に自信をなくしていたゴジラちゃん、どんな形でもこれが世の中にでることを優先し始めていた。しかし、女流作家に話すうち、これは体験した者じゃないと分からないな、と痛く実感することとなる。
そうこうしてるうち、ヤゴがその女を突然と店に連れてきた。しかし、その時のことは殆ど覚えていない。ヤゴがやたら嬉しそうだったのだけ覚えている。
・・・・・・・・・・・・ 三日後 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
「バーの話だけど、あの女性とは上手くいかない気がするのよ。」
「そっか、分かった!」
ムムム……? なぜか、あっさりしすぎてる。こやつ、何か隠してやがるな!
「ちょっと、ヤゴさん、アータ、なんか隠してるでざんしょ!」
「えっ? 何にもかくしてないよ~!」
ジーッとヤゴの目の奥を見つめること1分。
「彼女のお店、出してあげることにしたんだ……」
「ヒャア~???」
(つづく)