対領空侵犯措置とは、わが国の領空を侵犯するおそれのある航空機や、領空侵犯した外国の航空機に対して、要撃機を緊急発進させ対応しつつ、領空からの退去を警告したり、最寄りの飛行場へ強制着陸させるなどの一連の行動をいう。
こうした活動は、国際法や国際慣行に準拠した行動であり、自国の安全保障上、世界のどの国にも認められた一般的な活動である。
わが国では航空自衛隊のみがこれを実施できる能力を有している。
領空を守るためには、24時間365日、常続的にわが国周辺の空域をレーダーなどによって警戒監視しなければならない。
また、国籍不明機などを発見した際には、領空へ侵入されないよう、いち早く、駆けつける必要がある。
南北に長大で、大小6,000を超える島々からなり、広大な領空を有するわが国において、こうした絶え間ない警戒監視をし、現場にいち早く駆けつけることができるのは、航空自衛隊以外にないのだ。
領空侵犯とは、国家がその領空に対して有する権利を侵犯する行為のことであり、具体的には他国の航空機・飛行物体が当該国の許可を得ず、領空に侵入・通過する国際法上の不法行為を指す。
領空侵犯に対して、当該国は対領空侵犯措置を取ることができる。対領空侵犯措置は以下のとおり段階的に定められている。
- 航空無線による警告
- 軍用機による警告
- 軍用機による威嚇射撃
- 強制着陸
- 撃墜(ただし無防備な民間機への攻撃は原則禁止)
国際法において、国家が領有している領土・領海の上に存在する大気の部分を領空(または空域)とし、領海と共にその国の海岸線から12海里までのエリアを領空と定義している。
1967年発行の「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」(通称「宇宙条約」)第2条において、月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない。 としているため、領空は大気圏までとなっている。
領空侵犯とは、この領域を許可なく侵す行為であり、国際法違反の行為となる。
ただし、領空の範囲は大気圏に限られるため、高度100km以上の宇宙空間(衛星軌道など)を移動する人工衛星や国際宇宙ステーションなどは領空侵犯に当たらない。
領空侵犯機に対しては、その国の空軍などが対処する場合が多い。
戦闘機で目視確認がとれるまでは、航空用語で未確認飛行物体(UFO)とされる。
「領空を侵犯していると警告し、速やかに領空外への退去を促す」という対応が一般的である。
これに従わなかった場合は、強制着陸やミサイルなどによる撃墜といった措置が取られる。
しかし、1983年の大韓航空機撃墜事件ではソ連軍機が適切な手順を踏まずに撃墜したことで、国際的な非難を浴びた。
この事件を契機に、国際民間航空機関(ICAO)はシカゴ条約の改正議定書を1984年5月10日に採択し、同条約に「第3条の2」を追加した。
これにより、各国が領空を飛行する不審な航空機に対しての強制着陸指示等の権利及び民間航空機はその指示に従うことの義務が確認され、同時に各国は民間航空機に対する要撃において、武器の使用を差し控え人命・航空機の安全を確保することが明示された。
日本においては自衛隊法第84条に基づき、領空侵犯に対しては航空自衛隊が対応している。
防空識別圏における識別不明機に対する対応手順は以下の順となっている。
1.レーダーサイトが、防空識別圏に接近している識別不明機を探知する。
2.提出されている飛行計画との照合する。
3.レーダーサイトが当該機に航空無線機の国際緊急周波数121.5MHzおよび243MHzで日本国航空自衛隊であることを名乗り、英語または当該国の言語で領空接近の通告を実施する。
戦闘機をスクランブル発進させて目視で識別する。
- 戦闘機からの無線通告をする。
- 「貴機は日本領空に接近しつつある。速やかに針路を変更せよ。」
- 領空侵犯の無線警告と、当該機に向けて自機の翼を振る「我に続け」の警告を見せる。
- 「警告。貴機は日本領空を侵犯している。速やかに領空から退去せよ。」
- 「警告。貴機は日本領空を侵犯している。我の指示に従え。」
- 「You are approaching Japanese airspace territory. Follow my guidance.」
- 「トリィ チェピーリ ボジューノ イジーイズ ゾーナ イポーニ」(ロシア語)
4.警告射撃を実施する。
5.自機、僚機が攻撃された場合、国土や船舶が攻撃された場合は、自衛戦闘を行う。
ただし、自衛隊法第84条には「着陸させる」か「領空外へ退去させる」の二つしかなく、軍用機による侵犯行為であっても、それに対する攻撃について明確な記述はない。
ただし、自機や国土に対する正当防衛の観点から、スクランブルの際に2機編成で対処中に1機が攻撃を受けた場合、もう1機が目標に対して攻撃を加えることは可能である。
その一方で、侵犯機がスクランブル対処機以外の航空機や海上の護衛艦、地上の部隊等に攻撃を加えた場合、パイロットの判断でこれを撃墜することは難しい。