アマチュア無線では、無線局運用規則に定められた標準的な欧文フォネティック・コード以外に、様々な言い換えフォネティックコードが用いられています。長年やっていらっしゃる方が変わったコードを用いると、ビギナーの方は戸惑いを覚えることもあるようです。
最近、SNSで古いアマチュア無線の入門書に掲載されていたというフォネティックコード表をみかけました。そこにはまさに、現在でも慣用的に使われている多様なフォネティックが載っていました。そこで、ほかの資料も参考にしながら、これらのフォネティックコードがどのような背景で用いられてきたのか、過去に用いられていたフォネティックコードを元に整理してみました。それを表1に示します。
表1 さまざまなフォネティック・コード一覧

出典: Wikipedia "NATO phonetic alphabet" ほかを元に再構成
表の一番左の列が現在定められている ITU規則および日本の省令(無線局運用規則)に定められている標準フォネティックコードです。それ以外にいまでもよく用いられているものに赤または緑の色を付けています。"JA慣用" はその当時(昭和34年/1959年)によく用いられていたものと考えられます。(注:ここで赤色を付けたものは1945年以前を含む過去のコードに使用されていたもの、緑色をつけたものは出典が見当たらないものです。後者はJA独自の慣用かもしれません。)
一方、日本の旅行業界でよく使われる「エーブル・ベーカー」式のフォネティックコードというものがありますが、これには旧い時代のICAOのコードが関係していそうです。ICAOのコードは1940年代から1950年代にかけてめまぐるしく変遷していて、いまではまったく使われていないフォネティックも多く存在しますが、どういうわけか旅行業界には1945年前後に用いられていたICAOのコードがほぼそのまま残っているようです。
ともあれ、無線通信の世界では、ITUに定められた標準フォネティックコードは世界共通のコードとして使えますので、まずはこれが基本になることは言うまでもありません。しかし、無線局運用規則にもある通り、アマチュア無線ではこれを使う事が絶対的なものとはされておらず、「なるべく」使用するものとする(第十四条4項)とされていますので、状況に応じてほかの言い換えも使って構わない訳です。
長い年月の間に生き残ってきた"旧い"言い方にはそれなりのメリットもあるが故と思われますから、そのあたりはアマチュアらしく、柔軟に考えればいいのではないかと思います。ただし、フォネティックは相手に通じなければ全く意味がありません。外国局を相手とするときは、正しい発音やアクセントも重要な要素です。初心者の方は特に、ベテランオペレータの慣用フォネティックを安易に真似することなく、「なるべく」標準のフォネティック・コードを使われることをお勧めします。
(付記) JJ1WTL 本林氏のブログに、同様のテーマの記事があります。歴史的経緯などがより詳しく書かれていますので是非ご参考に。
(2024.7.22 追記) 数字のモールス符号について調べていて、初代の無線局運用規則(1950(S25)年6月30日官報)をみる機会がありました。そこには、あの(ITUフォネティックコードに改正される前の)欧文通話表(Amsterdam, Baltimore,...) がありました。もう一つ気づいたのは、数字の2。この表では「数字のフタ」となっています。現在の規則では「数字の に」ですが、実際には、いまもあちこちで「フタ」が使われていますね。こんなところにちゃんと"源流"がありました。なお、大きく変わったのは1959(S34)年の規則大改正のときで、それ以降、今の形に落ち着いたのだそうです(本林氏の記事による)。
(国会図書館デジタルアーカイブより)
