テレビ朝日のサッカー情報番組『やべっちFC』で、各国のスター選手に宿題として出されたリフティング技を司会の矢部浩之が挑戦する毎年恒例のコーナーがある。
ある年のそのコーナーで、スペイン代表のフェルナンド・トーレスに出された宿題のリフティング技であるボール回しというものに挑戦していたことがあった。
ボール回しとは“ローリング・リフティング”、“アラウンド・ザ・ワールド”といった呼称のあるフリースタイルの登竜門的なテクニックで、矢部浩之はそのボール回しのインサイドバージョンとアウトサイドバージョンを連続しておこなう技に挑戦していた。そして矢部浩之はなんなくその技を成功させていた。
きっとテレビの前のリフティングに詳しくない人たちは『お笑い芸人の矢部浩之にできるくらいなのだから、ボール回しというのはメチャクチャ簡単な技なようだな』といった印象を受けたものと思われる。
しかし、それはとんでもない誤解である。
ボール回しとはたしかにフリースタイルの世界では初歩的なテクニックではあるし、1回マスターしてしまえば何度でも簡単にできるが、そのマスターするまでのプロセスが想像を絶するいばらの道なのだ。私などは練習中、『なんでこんなとてつもない技をフリースタイラーたちやプロサッカー選手たちは何事もないようにできるのだ?』と疑念の宇宙を彷徨ったものだった。そしてようやくマスターできてからは、『よくぞサッカーボールでこんな技ができることを発見したものだなぁ』と、ボール回しの考案者の人にこのうえない崇敬を抱いたものだった。そんな超テクニックであるボール回しを、矢部浩之はインサイドとアウトサイドの2種類こなすことができるのである。
矢部浩之という人はコメディアンなため、普段はおちゃらけた言動ばかりをとっているが、まれにみる、たぐいまれなるリフティングセンスの持ち主といっていいだろう。
ところで、そのボール回しをマスターするまでには3段階が存在する。ボールをまたぐ感覚、またいだボールをトゥーにかすめる、またいだボールをインステップで拾う、この3つだ。
まずはボールをまたぐ感覚。ボールをまたぐにはインステップでボールをこすりあげなくてはならないのだが、その感覚は“すっ”という感じではなく“すぅぅぅぅぅっ”という感じでこすりあげる。これを何度もくり返してボールをまたげるようになるのだ。
ボールをまたげるようになってきたら、次はまたいだボールをトゥーでかすめられるようになる。ボールをトゥーでかすめられるようになる段階に達しよう。
そしてようやくそれが簡単になってきたら、またいだボールをインステップで拾ってボール回しを完成させる。このように段階を区切って練習していけば、雲をつかむような技であるボール回しも修得へのゴールをぐぐっと近づけることができるようになるはずだ。
余談だが、矢部浩之はセレッソ大阪の乾貴士に宿題として出された技に2年連続して手こずり、苦笑まじりに『乾くんはアホちゃうか?』と乾貴士の桁違いのテクニシャンぶりを絶賛していたが、それは謙遜である。
もしも年齢が20歳若く、練習時間のない忙しい芸能人ではなく普通人としてサッカー一色の生活をおくっていたら、乾貴士に宿題として出された技など矢部浩之なら朝飯前だったことだろう。