「うねり」と「つながり」 〜身体操法研究会(後編) | 馬術稽古研究会

馬術稽古研究会

従来の競技馬術にとらわれない、オルタナティブな乗馬の楽しみ方として、身体の動きそのものに着目した「馬術の稽古法」を研究しています。

ご意見ご要望、御質問など、コメント大歓迎です。

  前回の続きです。


・「仰向けチェストパス」

バスケットボールの技術で、
「チェストパス」というのがあります。



  胸の前で両手で持ったボールを腕を伸ばして突き出すようにして飛ばすという、パスの方法の一つですが、

学校の授業などで一般的に教えられてきたような方法では、実際にはなかなか思うように速く、強いパスを出すのは難しいようです。

  今回の研究会主催の先生によると、床に仰向けに寝た姿勢から、真上に向かってチェストパスを飛ばした場合、
女子のプロ選手〜高校生の選手で、ゴールのボードを1m超えるくらい、
中学生でも、ゴールのリングを超えるくらいの高さまで飛ばせるのが理想だと言いますが、

先生が普段指導されている中学生チームの選手にやってみてもらったところ、ほとんどの子がゴールのネットに届がなかったのだそうです。



  チェストパスやオーバーヘッドパスを出す時の方法として、一般的には、
予め上体を丸めたり反らせたりして反動をつけ、そこから足で床を蹴って踏み出すとともに、手首や指でスナップを効かせてボールを弾くようにして飛ばす、というように教えられることが多いようです。


  ですが、これでは予備動作が大きくなるために気配を読まれやすくなりますし、そうした反動をつけるスペースや時間がない場合には強くボールを飛ばすことができないということになります。

  試合中に瞬時の判断で相手が反応できないような鋭く長いパスを出せるようになるためには、

前述したような仰向けの姿勢からでもしっかりボールを飛ばせるような身体の使い方が出来たほうが良さそうです。


・追い越し禁止

  素早く、強くボールを飛ばすための身体の使い方としてポイントになるのが、

「追い越し禁止」
「先端から動く」

という身体の使い方です。


  一般的なパスの方法では、上体や下半身でタメを作り、足で床を蹴って、それから腕や指のスナップを利かせてボールを押し出す、というような、
ボールに直接触れている指先から遠い部分から順に動き出していくような一連の「うねりの動き」の中で、

引き伸ばされた筋肉が反射的に縮もうとする反応(SSC=ストレッチング・アンド・ショートニングサイクル)の連鎖によって、ちょうどムチがしなるような感じで指先を急加速させようとするわけですが、

これでは予備動作が大きく、先端が加速されるまでに時間がかかってしまうめに、パスのタイミングや方向を読まれやすく、動作の途中で邪魔されるとあっさりと止められてしまいますし、

ボールを急加速しようと力んだ(前編の『色』の話でいうところの赤色の状態)拍子に、指や腕、肩、あるいは腰や下肢などを傷めたりということも多くなりがちです。


  そこで、上記のような、ボールに触れた指先をその手前の手首、肘、肩、胸といった部分が「追い越して」先に動くような加速運動ではなく、

目の前にある仮想の壁を手刀で突き刺すようなつもりで、「指先から」腕を伸ばすようにしてボールを飛ばしてみると、

指先から体幹部までの関節が順序を守って整然と並んだ状態で協調的に働くことで、
身体各部が負荷を分担しながら身体全体でボールを押し出すような動きが引き出されて、

より素早く、効率的にボールを押し出して強く
飛ばすことが出来るようになり、

助走や上体の予備動作を使えない仰向けの姿勢からでも、ボールをある程度の高さまで飛ばすことが可能になるのだろうと考えられるのです。






  乗馬で、チェストパスのような身体の使い方が必要になるような場面というのはあまりなさそうな気がしますが、

例えば、洗い場で馬を押して横に移動してもらいたい、というような場合に、

爪先で地面を蹴りながらグイグイ馬のお腹を押したり、反動をつけて叩いたりするのではなく、

「追越し禁止」で身体を使いながら手の平や指先が僅かに馬体に触れたところで止め、手先から足裏までを繋げるようにして、
押し返してくる馬の力を全身で受け止めるようにしてやると、

馬に「壁」を意識させやすくなって、
そうしているうちに軽く触れるか、触ろうとしただけでも動いてくれるようになるでしょう。


あるいは、乗馬しようとする人の足を持って補助するような場合にも、

手で足を掴んで腕力で持ち上げようとするのではなく、
肘のあたりに載せるようにしながら膝を曲げて腰を落とし、重みを全身で「着る」ようにしながら、「追越し禁止」の意識で全身を繋げながら下半身の力で持ち上げるようにすることで、

腕や腰などを傷めるようなことも防げるのではないかと思います。



  説明すると難しいようですが、

実はこのような身体の使い方は、多くの乗馬の初心者の方が無意識に「やってしまっている」ことだったりします。

  それがよく見られるのは、速歩を座ったままで乗る「正反撞(せいはんどう)」の時です。

「いい姿勢」を保とうとして、あるいはお尻の痛みに耐えるために身体に変な力が入って固くなることによって、
反動を抜くのに有効な「うねりの動き」が消え、

頭から坐骨までが棒のように繋がった状態で「タイミングよく」力を入れて鞍を弾いてしまうことで、
それこそボールのように高く跳ね上がってしまったりするわけです。

(その意味で、『キャプテン翼』の立花兄弟の必殺技『スカイラブハリケーン』は、「最高の反面教師」と言えるかもしれません。笑)





  場面に応じて「追い越し禁止」で身体を繋げて力を伝えたり、柔らかな「うねり」の動きによって時間差を作って吸収したり、というように、
身体の使い方を自在に変化させることも、

馬との良好なコミュニケーションを実現するために重要な「コツ」の一つである、
ということは言えるのだろうと思います。