「スタンスタイプ」と乗馬 | 馬術稽古研究会

馬術稽古研究会

従来の競技馬術にとらわれない、オルタナティブな乗馬の楽しみ方として、身体の動きそのものに着目した「馬術の稽古法」を研究しています。

ご意見ご要望、御質問など、コメント大歓迎です。



  
   乗馬というのは、上手になるのにとても長い時間がかかるものです。

  その理由の一つとして、身体各部の動きというものが互いに連動しているために、一部分だけを意識して修正しようとしてもなかなか上手くいかない、ということがあるのだろうと思います。


  全身の調和のとれたバランスの良い動きを完成させるためには、多くの試行錯誤を重ねながら自身の身体の使い方を吟味し、「自分にあった動き方」がどういうものか、ということを知る必要があります。
  

   数年前にはしばしばTVなどでも紹介され、スポーツ界を中心に様々な分野で注目されていた運動理論に、

廣戸聡一氏の『4スタンス理論』といわれるものがあります。

  その考え方によれば、普段立っているときの体重軸のおき方や、動作を行う際の運動軸のあり方など、それぞれ「やりやすい方法」というのが人それぞれだいたい決まっているとされ、

それをいくつかの「スタンスタイプ」として分類しています。

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・「つま先型」と「かかと型」

「スタンスタイプ」の分け方の一つは、立っているときや運動するときの「軸」の前後位置によるものです。

  例えば、
足裏の足先近くの上に重心を置いて立ち、運動時には進路に対して前側になる方の片脚に運動軸を置くような人は「Aタイプ」、

  足裏の踵近くの上に重心線をおいて立ち、運動時には、進路に対して後ろ側の片脚に運動軸を置く方が動きやすい人は「Bタイプ」

というように分類されます。


  それぞれのタイプごとに、手や指の使い方にも特徴があらわれるとされ、「Aタイプ」の人は、物を持つ時などには主に指先に力を入れるようにして使い、「Bタイプ」では、主に指の付け根や掌の中心部分を使う人が多いのだそうです。

 


・「運動軸」の作り方

  人が運動するときには、
身体の中にその動きの「軸」をつくることが重要なことはお分かりだと思いますが、

「4スタンス理論」では、この「運動軸」の基点となる部位として、

首付け根

みぞおち

股関節


足底

の5箇所を「メインポイント」、

そして、その機能を補完する「サブポイント」として、



手首

の3箇所を挙げています。


  そして、「Aタイプ」では、

足裏の足先側寄りの部分の上に、膝、みぞおちを揃えるように運動軸を作り、

股関節や首の付け根の関節を柔軟に動かしながら、

手を使うときには、どちらかというと固定した肘より先を動かして、手首を柔軟に使うようにして動作を行う方が動きやすく、



「Bタイプ」では、

首付け根、股関節を、足裏の踵近くの上に揃えるように体重軸を作り、

膝やみぞおちを柔軟に動かしながら、

手を使うときは、手首のスナップはあまり使わず、肘を動かすようにして、肩周りの筋肉を使って動作を行う方がや動きやすい、

というように、

それぞれのスタンスタイプによって、スムーズに力強く動きやすいと感じる構え方や動き方が違う、とされています。

  
  例えば、団扇や扇子を使って顔を煽ごうとするとき、

Aタイプの人では、指先を使って団扇の持ち手の先の方を持ち、脇を締めて肘を固定し、手首のスナップをきかせるようにして団扇を動かすのが使いやすく、

Bタイプの人は、団扇の持ち手の付け根の、煽ぐ面に近いところを掌で挟むようにして持ち、脇を開けて身体から離した肘を動かすようにして煽ぐ方がやりやすい、

というような感じになるわけです。
 


  乗馬で言えば、

Aタイプの人は、
足先の上にみぞおちを揃えるような感じで軸を作り、

股関節や首の付け根の関節を柔軟に動かして随伴しながら、

主に指先を使って手綱を握り、脇を締め、肘を上体につけるように固定しながら、手首のスナップや、指先を使って手綱の張り具合を調節する感じの方がコントロールしやすく、


それに対してBタイプの人では、
首の付け根や股関節を、土踏まずから踵辺りの上に揃えるように軸を作り、

みぞおちや膝、足首を柔軟に動かして馬の背の動きを吸収しながら、

脇は締めずに肘を自由に動かし、指の付け根に近い部分で握った手綱を、背筋を使って肘を動かすようにして操作する方がやりやすい、

というような違いが現れてくることが考えられます。
 



・「内側型」と「外側型」

  「4スタンス理論」ではさらに、
もう一つの分類法として、
足の内側を中心に荷重を支えてバランスを取るタイプを「タイプ1」、

足の外側を中心に使うタイプを「タイプ2」、
とする分け方があります。

  こちらもタイプごとに手足の指の使い方に特徴があらわれるといい、

「タイプ1」は人差し指、中指を中心に使い、

「タイプ2」では中指、薬指を中心に使う、
とされています。



  乗馬の場合で考えると、

手綱を持つときに親指と人差し指を中心に力を入れて持つか、

中指や薬指を中心に使うか、


あるいは、鐙を踏むのに、股関節を内捻して足の拇指球側で踏むのがいいか、

膝を楽にして、足の外側のエッジを中心に使って踏む方がいいか、といったような好みの違いが、これにあたるかもしれません。



  上記のような分類の組み合わせによって、人の身体の使い方の傾向を、

「A1」、「A2」、「B1」、「B2」という4種類のタイプに大別することが出来るというのが、この理論が『4スタンス』理論といわれる所以です。



・クロスとパラレル

  さらに、廣瀬氏によれば、運動時の「体幹部の使い方」についても、

「A1」と「B2」のタイプは、身体を捻って斜対の肩と股関節を対角線で連動させする方が力が入りやすい「クロスタイプ」、


「A2」「B1」は、身体を捻らず、同側の肩と腰を連動させる方が得意な「パラレルタイプ」、
というように分類出来るのだそうです。



  「4スタンス理論」はこのように、タイプの見分け方やタイプごとの動き方などを示すことによって、各人が自分にあった構え方や動き方を知り、

それを意識しながら練習を行うことで、その人が持つ本来の能力を最大限に発揮できるようにしよう、という理論なのです。

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・スタンスタイプと騎乗スタイル

  そこで、この理論を基に、それぞれのスタンスタイプごとに、どのような騎乗スタイルの傾向が現れてくるのか、というようなことを考えてみました。 

  あくまで私個人の経験則に基づく一例として、参考までにご覧頂ければと思います。


・A1(爪先・内側重心型、クロスタイプ)

   鐙には足先の拇趾球〜土踏まず辺りの内側エッジで踏ん張り、腿や膝が主な支点となる。

  踵を深く踏み下げるとバランスをとりにくい。

  脇を締めて、肘はあまり動かさず、主に親指と人差し指で手綱を保持しながら、残りの指の握りの強弱や手首のスナップを使ったり、 または腰を捻じって後ろへ引っ張り込むような操作を好む。

  随伴では、上体が一歩一歩伸びあがるような感じでみぞおちを前出させながら、腿や膝の内側辺りに体重を載せていく。
   
  ブレーキをかける時は骨盤をあまり後傾させず、脇を締めて手指の握りを使いつつ、膝で挟んで堪える感じ。


・A2 (爪先・外側重心  パラレルタイプ)

 膝はあまり締め込まず、足趾の付け根〜MP関節の中心から外側辺りに重心を載せ、
踵は少し浮かせる感じの方が鐙が安定しやすい。

  主に中指と薬指の指先を使って軽く手綱を握り、脇を締めて肘を曲げて、前腕や手首を柔らかく使って拳を上下に動かしながら、身体を捻らずに操作を行う。

ブレーキでは骨盤を起こしたまま、肘や膝はあまり締め込まず、手先よりも、肩甲骨の動きを使って肘ごと引くような感じで手綱を控え、引っ張りかえしてくる馬の力を足先から鐙へ伝えるようにして堪える。

随伴では、一歩一歩伸びあがるようなイメージでみぞおちを馬の動きに先行させ、鐙を踏んだ足先に体重を載せていく。
   
  



B1(踵・内側重心型、パラレルタイプ)

  鐙に立つときは「膝乗り」の姿勢ではバランスを崩しやすく、  踵を踏み下げて足裏の土踏まず〜踵の内側エッジで踏ん張りながら、くるぶし〜ふくらはぎの内側あたりで挟んだ感じの方が姿勢を安定させやすい。
  
(…なので、幅広い鞍を挟み込むようにしてやや前に足を突っ張るような感じで座る、障害鞍やウエスタンスタイルが合うかも)


手綱は、人差しと親指主導で、指の付け根の方で挟むようにすると保持しやすく、

脇はあまり締めず、手首や指先の動きよりも、背筋を使って肩甲骨ごと肘を動かし、肘から先を一本の手綱としてイメージして使うような手綱操作。

身体を捻って内方手綱で引っ張るよりも、外方手綱を押っつけて馬に壁を意識させるような誘導が得意。

  駈歩や正反撞では、みぞおちを沈み込ませるようにして骨盤を後傾させ、坐骨を前に随伴させながら、一歩一歩踵を踏み下げ、馬体に密着させたふくらはぎで推していくようなイメージ。

  ブレーキでは、骨盤を後傾し、腿や膝、ふくらはぎで鞍をホールドしつつ、踵を踏み下げて鐙に踏ん張る。


・B2 (踵・外側重心型、クロスタイプ)

  骨盤を後傾させて上体を起こし、膝や内腿もあまり締め込まず、踵を踏み下げた感じの姿勢が楽。


  手綱は主に中指と薬指の付け根と、小指との間の部分で握り、手首や指先はあまり使わない。

脇を締めずに肘を自由に動かし、身体を捻って回すような操作も得意。

ブレーキでは、上体を起こして骨盤を後傾させ、膝を締め込まず、ふくらはぎでホールドしつつ、踵を踏み下げるようにして踏ん張る。

(これらも、ウエスタンのシングルハンドやブレーキのかけ方に向いているかも?)





 …というように、それぞれ真逆とも言えるくらいの違いがありますが、

その一つ一つはどれも、指導者からのアドバイスなどで聞いたことがあるものなのではないでしょうか?


  色々な人に「乗り方のコツ」といったことを聞いてみると、実に様々で何が正しいのかわからなくなってしまうことがよくあると思います。

  そんなわけで、「指導者によって言う事が違う!」とか、「なんで理解できないの?」といったことになって、それが元でのトラブルもしばしば起こるわけですが、

  そのような時には、自分や相手の「スタンスタイプ」がどれに当てはまるのか、といったことを考えてみると、案外解決方法が見えてくるかもしれません。


  理論ではスタンスタイプはある程度先天的、固定的なものとされているようですが、

 自分自身の例で言うと、元々はB1的な乗り方だったのが、身体の使い方の変化に伴って、A2的な感じに変化してきたような気がしますし、

 また、野球のバッティングでも、右打席だと後ろ足、左打席では前足重心の方が打ちやすい、といったこととあり、

いわゆる「利き手」「利き足」によっても、運動の方向に合わせて重心軸の位置が前がいいか、後ろがいいか、というのが変わってくる可能性もあるのではないか?と思っています。


 乗馬の場合、手前によって微妙にフォームの意識を変えた方が良かったりするのかもしれませんね。
 

ところで、馬にも「スタンスタイプ」のようなものがあるでしょうか?
 
  それを判定するのはちょっと難しそうですが、少なくとも「この馬にはこういうタイプの乗り方が合う」というようなことはあるように思います。
  
  そして上手な人は、その辺りを瞬時に見通して、自分の引き出しの中から適切な乗り方を自然に選んで使い分けている、というようにも思えます。




  「4スタンス理論」が乗馬にも通用するならば、それは即ち、人それぞれに合った乗り方があり、「正しい乗り方は一つではない」ということの証明となり、

安易なマニュアルに沿った画一的な指導方法や、一元的な技能評価の仕方といったことに対する
一つのアンチテーゼとなるでしょう。

  「これが正しい方法だ」と一つのやり方を十年一日の如く唱え続けるのではなく、
その時の馬や騎乗者の「身体の使い方」に合った方法を提案するような指導が、当たり前に行われるようになっていけば、乗馬のレッスンはもっと楽しくなれるのだろうと思います。


  
  このような理論などをもとに、自分自身や、騎乗する馬に『最も適した乗り方』を探求してみたり、というのも面白いかもしれませんね。