テストマッチ | オーストラリア移住日記

オーストラリア移住日記

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テストマッチとは国と国の誇りを賭けたナショナルチーム同士の国際試合である。

イギリスは植民地政策の一環として英国発祥のスポーツを自治領に根付かせていくが、自治領はそのスポーツの発展段階において本国イギリスとの力の差を試すべく挑戦を試みようとした。

それが "テストマッチ" の語源のようだ。

クリケットは日本で馴染みが薄いため、詳細の説明は避けるが、この写真は、つい先日行われたクリケットの「オーストラリアVSイングランド」のテストマッチ "Ashes" で、シリーズの敗戦または引分けが決まった翌朝、SNSに投稿されたイングランド首脳陣の表情である。

雨が勝敗を分け、2017年以来、トロフィーがイングランドに戻るチャンスが消えた。

 

*Ashesのトロフィーはほんの10cm強で、中にAshes(灰)が入っていると言われている。

私には顔を見るのも嫌な選手達だったが、彼らの飾らないありのままの表情は、国の代表として勝利を信じ、自身や家族、仲間、そしてイングランド国民のために戦った戦士の顔だった。

疑いなく、イングランド国民の多くが涙に暮れた一日だったであろう。

やり場の無い彼らの顔を眺めながら、私自身、オーストラリアの勝利を喜ぶよりも、純粋に勝利にこだわり続けたイングランドの選手達を勝たせてやりたかったという気持ちになった。

そう、それがテストマッチなのだ!

正々堂々と戦い、誇り高き勝者と敗者がいて、双方に感動を覚えるのがテストマッチなのだ。


話題をラグビーに置き換えよう。

ジャパンはオールブラックスXV戦の2連敗に続き、サモアとのテストマッチにも敗れた。

私はTV画像やSNSで感じることしかできないが、W杯に向けた課題等が話題の大勢を占め、テストマッチに敗れたという悲壮感はあまり感じられなかった。

日本ではテストマッチを単にW杯前のテスト試合、または選手選考のテストと考えているファンは多く、W杯で結果を出せばそれでいいんだ!という傾向が強いのかもしれない。

 

私は、このテストマッチでサモア代表SOクリスチャン・リアリーファノに注目していた。

オーストラリア代表(ワラビーズ)26キャップ、私は彼が出場した全てのテストマッチを観戦しているし、2019年W杯では彼をスタジアムから応援した。

国代表選考規定の変更により、彼は母国サモア代表としてのプレーが可能になり、ジャパンとのテストマッチがサモア代表としてのデビュー戦だった。

2016年、彼は白血病に罹患、妹から骨髄移植を受け約1年間の闘病生活を余儀なくされるが、諦めずに努力を重ねワラビーズに復帰、そして今、サモア代表としてジャパンとのテストマッチのピッチに立ち、「心が震えた」と彼は述べた。

サモア代表としてのデビュー戦を勝利で飾った彼は、インタビューの最後に「今の気持ちを言葉にするのは難しいかな、私にも家族にも特別な一日だったし、国の代表としてプレーできたことを心から誇りに思う」と目を潤ませた。

彼は35歳、司令塔として期待通りのプレーでサモアを勝利に導いた。

彼は若い選手達にテストマッチへの準備をどうすべきかを示し、マッチデーの過ごし方や自己の経験や知識をオープンマインドでシェアする姿勢を見せたと言われている。

 

私が見落としているだけかも知れないが、W杯でジャパンと再戦することに関するサモア側のコメントをどこにも見つけることができなかった。

リアリーファノの言葉から感じた私の勝手な推測だが、W杯では91年、95年大会で台風の目となった栄光(共に8強)の復活を目指す、そのためには今回のジャパンとのテストマッチが彼自身、サモア代表が自信を取り戻すためのテストと捉えていたのではなかろうか?

 

サモア戦の後、ジャパンはトンガとのテストマッチに辛勝したが、フィジーには完敗だった。

オーストラリア代表ワラビーズもW杯を目前に苦戦の真っ只中にいる。

それでも、メルボルンで開催された伝統のテストマッチ "ブレディスローカップ"「ワラビーズVSオールブラックス」には83,000人のファンが押し寄せた。

元々オージーボールが盛んな地域でありラグビー人気は今ひとつなのに、やはりW杯を前に国民はワラビーズに期待しているのだろうと一瞬思ったが、なぜかスタジアムが真っ黒だった。

公式発表ではないが、満席のスタジアムの半数以上がオールブラックスファンだったようだ。

オールブラックスは伝統のテストマッチに集中し、純粋にその勝利を喜んでいるように見えた。

ワラビーズ監督のエディー・ジョーンズは、2015年に南アを破ったジャパンの奇跡よろしく "ワラビーズ3度目のW杯優勝!" を虎視眈々と狙っていることだろう。

ただ、それに国民の心がついてきているかどうかは疑問である。

 

開催毎にW杯の規模は大きくなり、世界中にラグビーファンが増えることは素晴らしいことだ。

ただ、私はテストマッチがW杯の準備マッチのようになることに寂しさを感じている。

ローカルな話題で申し訳ないが、かつて早大の低迷期に明大の主将が、早大など眼中に無いと言わんばかりに「早明戦は通過点の一試合に過ぎませんから」と言ったのを記憶している。

私にとって「早明戦」は、正に "テストマッチ" だった。