最大の節約は健康 2 | オーストラリア移住日記

オーストラリア移住日記

憧れから、移住決行、移住後の生活、起業、子育て、そして今・・・

私の自主トレが、日本の仲間達の刺激になったことは実に嬉しい。

「事実は小説よりも奇なり」英国詩人バイロンの言葉通り、感動的に描かれた虚構のスポ根ドラマより、5年続いた67歳の私の自主トレ(事実)の方が奇妙(不思議)とばかりに心に響いたのかもしれないと自画自賛、私はそんな純粋な友人達が大好きだ。

 

自主トレと言えば、2008年から2013年までの6年間、ヤクルトスワローズ3選手(ピッチャー2人/キャッチャー1人)のシドニー自主トレをサポートしたことを思い出す。

ペナントレース開幕直前の沖縄キャンプに向け、彼らはシドニーの真夏の炎天下で調整し、体力やコンディション、モチベーションを高めることに没頭する。

私の役目は彼らがトレーニングに打ち込める環境を整えることであり、もちろん、そこにはレストやリラックスも含まれる。

あれから10年以上が経過、1人はピッチング部門のスタッフとして今もスワローズの選手達を支え、他の2人はしっかり地に足を着けてセカンドキャリアを邁進している。

セ・リーグ2連覇、そして、今まさに彼らが日本シリーズを固唾を呑んで見守っているのは間違いないが、嵐のような風雨でも酷暑でも休まなかったプロの姿勢やあの6年間に一度も理不尽な要求が無かったことを考えれば、私には来たるべきスワローズの優勝シーンが想像できた。

 

ロフェパークの草野球・・・

ピッチャーの山なりのボールやフォアボールの連続、押し出しで点が入る展開にうんざりしながら、この場にスワローズの3人がいたら、このチンタラ野球の連中がきっと肝を潰すだろう!? 

そんなことを想像しながら、当時の光景を思い浮かべていた。

私自身、プロのピッチャーの投球を目の当たりにするのは初めてだったし、そのスピードやボールがキャッチャーミットに収まる音は驚きを超えて感動だった。

トスバッティングでは私も球拾いを手伝ったが、ほとんどがホームラン性の当たりで、その打球の速さや強さが怖くてダイレクトでキャッチすることさえできなかった。

今年1月、12年住んだ家から、車なら5分、距離にすれば2kmほどの隣町に転居した。

5年前に自主トレを開始してから4年弱は、この新居の周辺をウォーキングしながら、緑に囲まれたこの隣町に住めたらいいなと思っていた。

 

ロフェパークは新居から片道3km離れているため、生活に慣れるまで知らなかった。

転居に伴い、倉庫に預かっていたスワローズ3選手の自主トレ用具(ボールやバット他)の整理をせざるを得なくなり、昨年末に連絡をしたところ、3人各々から「オーストラリアの野球の普及のために有効に使って下さい」という返信があった。

その言葉は嬉しかったが、何より彼らが元気に頑張っていることが一番の朗報だった。

 

ロフェパークのバックネット裏で、観戦と言うよりもチームを見守る初老の男性に声を掛けた。

彼の名はスティ―ブン(左側)、2014年からレンジャーズ・ベースボールクラブのプレジデントとしてクラブの発展を支えて来たが、今年から隣のアンドリューに会長を任せたそうだ。

スティ―ブンのフレンドリーさは正にオーストラリアのスポーツマンそのものだった。

日本のプロ野球選手の自主トレをコーディネートしたことを話すと、「お前はコーチなのか?」と聞かれ、「専門はラグビーなんだけど・・・」と適当にはぐらかした。

「バッティングのトレーニングはやっているのかい?」と話を振ってみた。

「この近くにバッティング・センターがあったんだけど、経営不振でいつの間にか消えちまったよ。バッティングのトレーニングをもっとやるべきなんだろうけど・・・」

 

そう話している間に、ファールボールがバックネットを超えて森の中へ、その都度、スティ―ブンがブッシュを掻き分けながら探しに行く。

なるほど、ボール不足がバッティングの練習不足に繋がっているのかもしれない。

公式戦と言っていたが、試合に使われているボールは使い古しの汚れたボールだったし、14年前に3選手が日本から持参し、6年間自主トレに使ったボールの方が新しく見えた。

*写真はロフェパークの周囲に広がる樹海のような森

オーストラリアでは数少ない野球が愛される町、偶然私はそんな町の住人になったのだ。

そうだ!スワローズの選手達がバッティング練習に使ったボール(約200個)を寄付しよう!

スワローズOBの3選手も、きっとそれを喜んでくれるはずだ。

自主トレ中だった私は、普段なら家までウォーキングで戻るのに、3kmをジョギングで戻り、ボールの入った箱を車に積んでグラウンドに届けた。

 

スティ―ブンは目を輝かせながら何度も何度も「Thank you !!」を繰り返し、ボールの入った箱を倉庫の奥の鍵の掛かる金網の向こう側に置いた。

バットも・・・ と考えたが、待てよ!俺がプレーする時のマイバットとして取っておこう!

スティ―ブンがそれに気付いたかどうかは知らないが、彼は私にウィンクし、「ちょっとやる気になって来たんじゃないか?」と笑った。

私は「Toshi」と名乗ったが、結局スティ―ブンは私がどこの誰かさえ聞かなかった。

それはいかにもオージーらしいが、ドネーション(寄付)はあくまで無償の好意なのだ。

自主トレ中、掃除や片付けをするグラウンドキーパーをよく見掛けるが、時に助けが必要と感じることがあり、そんな時、私は黙って通り過ぎることができないタイプなのだ。

「Thanks mate !!」

決まって一言だけだが、私も笑顔を交わすだけで喜びを感じるオージーになったようだ。

学校では「You're Welcom(どういたしまして)」と習ったが、オージーがよく使う「My Pleasure(私の楽しみさ)」と自然に返せるようになった。

 

最近、レンジャーズのフェイスブックのカバー写真がなぜか変更された。

それは、私への謝意なのか? 私をメンバーに誘っているのか?・・・
オージー独特の「Sense of Humor」(気楽なユーモア気分)のつもりかもしれない。