15年ぶりに訪れた田舎町 2 (モーリー温泉紀行)  | オーストラリア移住日記

オーストラリア移住日記

憧れから、移住決行、移住後の生活、起業、子育て、そして今・・・

シドニーの冬は、結構寒い。

朝、窓から外を眺めれば、朝焼けの中に葉の落ちた枯木、見るからに寒そうだ。

”おはよう” に続く妻との会話は、いつもきまって ”寒いね、温泉に入りたいね”。

 

もし、それがオーストラリアで実現出来たら、それ以上望むものは無いほど嬉しい。

以前は、訪日の際に日本で食べる炊き立てのご飯やラーメンがこの上ない楽しみだった。

シドニーでは日本のような美味しいご飯や有名ラーメン店の味は味わえないものと諦めていた。

ところが、近年超高級と言われる日本米がオーストラリアでも簡単に手に入り、炊飯器も日本製を購入すれば、それで美味しいご飯が食べれるようになったのだ。

その上、ここ数年、シドニーでは有名ラーメン店の出店ラッシュである。

 

温泉だけは、最後に残された日本でなければ感じられない「日本の財産」のような存在なのだ。

日本料理が世界遺産に登録されたそうだが、私なら、"冬の温泉" を世界遺産に推薦したい。

"モーリー温泉" は、たぶん日本でもオーストラリアに住む日本人にも知られていない。

オーストラリア人でさえ、それを知る人は限られている。

「どうして、わざわざ遠いモーリーになんかに行くんだい? ビジネスか何か?」

誰もが怪訝そうな顔を私に向ける。

 

モーリーの人口は1万人ほど、その内1割がオーストラリア先住民のアボリジニと公表されているようだが、実際には3割近いと言われている。

不勉強なため詳しくは知らないが、オーストラリアの歴史の暗い部分、白人がアボリジニの殺戮を繰り返す中で、モーリーのアボリジニは最後まで抵抗したと聞く。

以前、犯罪の多い街と聞いたことがあったが、そんな歴史的背景が今も残る町のようだ。

親友のクレイグは元刑事だったが、麻薬の取締まりで何度もモーリーを訪れたと言っていた。

単なる沸かし湯ではなく、天然に湧き出ている温泉であることは確かなようだ。

ただ、オーストラリアには火山が無いため、日本やニュージーランドによくあるような独特な臭いのする硫黄泉ではないので、ちょっと物足りない。

無色透明で温泉と冷泉があるらしいが、昔から身体に良いとだけは言われてきたようだ。

当然、泉質も効能もどこにも記載されてはいない。

まあ、日本にもこの手の温泉は多く、オーストラリアなんだし、文句は言えない。

ひとつ難点を挙げれば、この温泉から出ると一気に身体が冷え、直ぐ目の前の部屋に戻る頃には寒さを感じるほどになってしまうことだ。

 

オーストラリアでは、昔から温泉はもちろん、湯船に浸かる習慣すら無く、シャワーだけで済ませるのが一般的のようだが、バスタブのある我家でもほとんど湯舟には浸からない。

モーリーも含め、特に内陸では毎年甚大な干ばつ被害が発生するため、ほとんどの家屋に雨水を溜めるタンクが設置されているが、水は極めて貴重な資源なのだ。

 

何度もオージーを連れて訪日し、その度に私は温泉に連れて行く。

そして、彼らの100%が温泉にハマる。

朝起きると、すでに彼らは温泉に向かい、ノンビリ朝湯を楽しんでいる。

 

 

内陸に位置するモーリーは、冬は極端に気温が下がる。

この時期の朝晩はマイナスになる日も少なくないが、氷が張ることもあるという。

モーテルの部屋から海パン一つで温泉(プール)に向かうが、キーンと冷えた外気とお湯の温度差で湯気が立ち込める中に体を沈めた時の快感は堪らない。  

「ああ、日本人で良かった」 

モーリーに着く前からそうなることを期待していたのだが、正に私の期待通りだった。

寂れたモーテルの温泉プール、 "冬の温泉気分" を味わえただけで私は幸せな気持ちだった。

”日本人なら、間違いなく岩風呂なんかを造るだろうなぁ” と考えてしまう。

モーリー駅前にパブリックの温泉施設を発見、かつて訪れた時にはこんな施設は無かった。

この温泉施設は "モーリーの目玉" になっているようだ。

施設内のウォータースライダーや併設された本格的なフィットネスジムは、やはり日本人の嗜好とは随分異なるように思えてならなかった。

まあ、最近は日本にもスーパー銭湯が増えているようだが。


朝食の時に 「ジャパニーズか?」 と聞かれ、「日本人は珍しいなぁ」と言われた。

15年前に息子のラグビーの大会に訪れ、同じこのモーテルに宿泊したことを告げたが、このモーテルのオーナーは15年前と同じチャイニーズ(中国人)だった。

あの頃の私は、英語で言葉を掛けることも怖がっていたっけ。

シドニーまでの650kmの道のり、どこまでもどこまでもコットン・フィールド(綿花畑)が続くが、所どころに菜の花の黄色い大地が見え隠れする。

季節は確実に春に向かっているのだ!

モーリーからグラフトン方面には戻らず、そのまま南下してブルーマウンテンに抜ける初めての道を通ったが、途中休憩したリスゴーの町で突然雪が降り出した。

運転を心配するより、なぜか嬉しい気分だった。