マイナーの実感 剣道とラグビー | オーストラリア移住日記

オーストラリア移住日記

憧れから、移住決行、移住後の生活、起業、子育て、そして今・・・

私には兄として慕う人がいる。

母の通夜で久しぶりに再会する機会に恵まれた。

彼は兄の親友で、高校時代、兄とは剣道部の同期だった。

高校時代に個人戦でインターハイに出場、名門慶應義塾大学剣道部でも活躍し、現在は県剣道連盟の理事長の要職に就いている。*写真の後列右から2人目

通夜の席、私は「剣道プロジェクト」(オーストラリア剣士との交流)について話した。

剣道家である彼にオーストラリアでの普及指導を提案すれば、きっと興味を持つはずだ。

私の大学時代の同期で元早大剣道部主将だった塚本と行った"剣道プロジェクト" の成功が脳裏にあり、きっと私は得意げに話したはずだ。

 

「う~ん、大して興味はわかないなぁ」 

私の予想に反して彼の反応は気の無いものだった。

理事長として、時間の許す限り大会や稽古に参加し、剣道連盟の役員や指導者との会合や地元クラブの運営や指導、剣道発展のために、言ってみれば身も心も捧げている。

「地位や名誉に関係無く、動ける者が動くことが重要で、有名無実の役員の排除や例えば海外への普及等は、それが継続出来ないのなら止めるべきだ」とキッパリ。

 

一瞬、私はその言葉に保守的な響きや砂を噛むような味気無さを感じた。

しかし、なるほど、世界の競技人口を増やすことが真の剣道の発展では無いという一刀両断の鋭さが感じられ、以前聞いたことのある「剣道関係者にオリンピック競技種目にはならない方が良いと考えるものが多い」という理由が分かったような気がした。

 

「OZに上段を伝えようプロジェクト」は面白いが、やはり継続する努力をしなければ一時的なイベントで終わってしまうだろうという的を得た大人の指摘をされた。

「オーストラリアでは圧倒的に韓国人剣士が多いため、"剣道発祥の地は韓国" と思っているオーストラリア人剣士が多く、剣道が日本古来の武道であると知らしめる努力が必要ではないか?と取って付けたような言葉を私は投げ掛けてみた。

「韓国とは定期的な交流があり、そのような状況は十分理解しているが、ただ、彼らのような勝てば良いという荒っぽい剣道が世界に理解されるとは思わない」

またも、冷静な回答が戻って来た。
オーストラリアから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

25年間も日本を離れ、私は完全にKY(空気読めない)になっているのかもしれない。

剣道の競技人口は、日本だけで500~700万人もいるそうだ。

競技人口だけを比べれば、一県の剣道と日本全体のラグビーの競技人口が同じぐらいなのだ。

私は剣道家族に育ち、父や兄の影響から、かつては剣道で高みを目指そうとしたことがあった。

妻も中高は剣道部だったが、私達夫婦の会話の中で剣道が話題になった記憶はない。

私も妻も、ずっと剣道をマイナースポーツのカテゴリーとして考えていた。

 

競技人口だけで考えれば、日本ラグビー協会の理事長(専務理事)と県剣道連盟の理事長は、同じレベルの責務を背負っていることになるのだ。

高校の先輩が県ラグビー協会の理事長を任されていたが、県の競技人口はジュニアから不惑まで入れても300人前後であり、それは県の剣道人口の1000分の1ほどの数なのだ。

ラグビーがメジャーなオーストラリアに長年住み、超満員のスタジアムを想像すれば、どうしてもラグビーをメジャースポーツと考えてしまうが、私には現実を知る良い機会だった。

もちろん、メジャーか否かはどうでも良いが、ただ、私は少し謙虚になろうと思った。

 

93年にJリーグが発足し、サッカーは大きな変貌を遂げた。

今では野球の牙城をも揺るがすほどの競技人口や観客動員数となっているようだ。

Jリーグ発足前年の92年度は、天皇杯などを含め50万人だった観客動員数が、発足後の93年には入場者だけで400万人を超え、ここ数年は毎年800~900万人を動員しているそうだ。

プロだけでも40チームが加盟しており、大学や高校、ジュニアまでの下部組織を含めれば、競技人口の巨大さは押して知るべしだろう。

 

03年に発足したラグビーTL(トップリーグ)の観客動員数は、08~09年の45万人がピークで、12~13年は36万人に減少している。

かつては"早明戦"がドル箱的イベントだった。

私の時代にも6万人近くが国立競技場に押し寄せ、最上段には立って観戦する客も居たほどだ。

そんな70年代後半~90年代の勢いは薄れ、近年は4万人ほどの入場者が続いているようだ。

大学選手権に至っては、昨シーズンの準決勝2試合、決勝の合計で5万人弱の入場者だったようで、協会は3試合全てに、最低でもその程度の入場者が欲しかったに違いない。

高校ラグビーも、友人が「東京都予選の参加校が少なくなったなぁ」と心配していた。

日本ラグビーフットボール協会は、過去何年も赤字が続いているそうだ。

日本ではよく「政治と金」が問題視されるが、「スポーツと金」を一緒に考える人も多い。

オリンピックやワールドカップ招致を一番望んでいるのは一般国民ではなく、経済効果を期待する企業や様々な団体、そして金や票を欲しがる政治家に思えてならない。

 

「武道と金」 それこそ "タブー中のタブー" だと考えたいが・・・

単純に考えても、700万人が1,000円の年会費を払うとすれば、それだけで70億円になる。

剣士のほとんどは昇段試験に挑戦する。

中学生や高校生は1,000円以内という優遇措置があるそうだが、平均3,000円程度として、500万人が挑戦すれば150億円となる計算だ。

その上に、企業などのスポンサー料も加算される。

 

綺麗事を並べても、結局、そんな金銭的裏付けが、そのスポーツを支える礎となるのだろう。

さて、日本のラグビーに未来はあるのだろうか !?

私個人としては、2019年のワールドカップ開催を契機に大きな発展を期待したいものだ。

 

母の通夜における会話の結論として・・・

私は、オーストラリアのスポーツ文化である卓越したコーチ育成の理論やシステムを日本に伝えようと努力し、これからも続けていくつもりでいるが、それを続けるためには、歴史や風土に培われたオーストラリアのエキスパート達の本気の協力無しでは実現できない。

その対極として、歴史や風土に培われた日本の武道文化を、例えばオーストラリアの剣士達に伝えようとする日本の武道家がいてもいいじゃないかと言いたかっただけなのだ。

オーストラリアから

「出場校が少なくなった

そんな嘆きが聞こえて来る全国高校大会東京都予選組合せに、昨年まで合同チームでの参加を余儀なくされていた高校の名前が載っていた。

単独出場復帰である

長年、私はこの高校にオーストラリアのコーチングを根付かせようと努力して来た。

どこからも誰からも脚光を浴びることの無い指導者や選手達、彼らはいつも純粋だった。

我が友 ”塚本” の指導を受けるオーストラリアの剣士達、彼らも純粋だった。