Sense of Humor 1 (ユーモア感) | オーストラリア移住日記

オーストラリア移住日記

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「そんなヒット(当たり)なら、俺のグランマ(お婆ちゃん)の方が強いぞ!」
激しいコンタクト(接触)プレーのトレーニング中、コーチ「リック」の叱咤の声が響く。

それが日本のコーチなら、「お前ら何をやってんだ!」、「やる気あんのか!」 「やる気ないなら、やめちまえよ!」そんな怒鳴り声が聞こえてきそうだ。

そんな怒鳴り声がネチネチと続き、具体的な改善法は何ら説明されない。

 

オーストラリアのコーチは、良い部分を見つけてそれを褒め、タイミングを見てリックのように選手達に一瞬の笑いを与え、心をリフレッシュさせて良い方向に導こうとする。

失敗を放っておくことは無いが、その失敗を責め立てるようなことは絶対に無い。
オーストラリアから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本でオーストラリア・コーチング・セミナーを開催して久しいが、振り返ってみれば、数多くのオーストラリア人コーチを日本に連れて行く機会に恵まれた。

"おはようからおやすみまで" そのほとんどの時間を彼らと共に行動し、ストレスも溜まるが、彼らのラブリーなユーモアやTPOに合わせた言動がいつも私を癒してくれる。

 

プロ意識を持つオーストラリアのコーチ達は、グラウンド内と外を明確に区別する。

遠征や日本でのセミナーの際、食事は主に選手達と共にテーブルを囲むが、食後が面白い。

食器やテーブルの後片付けを "じゃんけん"(英語でペイパー・シザース・ロック)で決め、負けた者がテーブルを片付け、全員の食器を洗い場まで運ばなければならない。

オーストラリア人コーチのテーブル周辺に座った監督やコーチ、選手達をも大勢巻き込んでそれを行うが、これが中々愉快で、時々、監督が負けたりするのだ。

監督が負けた瞬間、選手達の表情がこわばり、互いに見合ってそれぞれの顔を確認する。

おい!本当にいいのか?

日本人の私にはその状況が理解出来るが、決まって数名の選手が監督を手伝おうとする。

オーストラリアのコーチ達はその様子を見て、「No!No!No!」 グラウンドを離れれば誰もが立場は同じ!と言わんばかりにそれを絶対に認めないのだ。

 

08年のコーチングコースにARU(オーストラリア・ラグビー協会)の重鎮(コーチ及びコーチング関係のトップ)マイケル・ドイル氏が視察を兼ねたリーダーとして参加した。

コースを受講した日本人コーチも招き、ARUのコーチ陣が宿泊しているホテルでパーティーの開催を企画、スーパーで総菜やアルコール類を大量に買い込み、ホテル側には必ず自分達が後片付けをすることを約束し、ダイニングを借りて開催した。

 

パーティー参加者は総勢で50名程度、日本酒で乾杯し、ARUスタッフと日本のコーチがいたるところで歓談し、歌も飛び出し、互いに友情を育むための貴重な機会となった、

クライマックスは、オージーの愛唱歌「ワルツィング・マチルダ」を皆で大合唱、参加した全員がオーストラリア流のパーティーを楽しんだ。

お開きの時間になり、例によって後片付けをじゃんけんで決めようということになった。

50分の1であり、誰も俺が負けることはあり得ないと思っていたが、マイケルの一人負け!

彼はオージー・スラング(Fから始まる汚い言葉)を吐いて悔しがった。

それでも、その後のマイケルの振舞いや言葉にはユーモア感が溢れ、ちょっとマズイ!という雰囲気は微塵も感じられなかった。

結局、彼自身、誰に文句を言うことなく、真面目に片付けを開始した。

ARUの若いコーチ達はマイケルを手伝うどころか、大喜びしてハシャギまくり、逆にテーブルの上を散らかす始末だった。

 

マイケルが片付けを終えた頃には、若いコーチ達の姿は無く、みんな部屋に戻ってしまった。

ARUを訪れる際、今もあの思い出をユーモアたっぷりにマイケルが語りながら若いコーチ達を皮肉るが、若いコーチ達もユーモアたっぷりに言い返すのがとても愉快なのだ。

 

オーストラリアのコーチング・マニュアルには、コーチの "Sense of Humor" (ユーモア感)の大切さについてしっかり明記されている。

コーチのユーモアが、選手達のやる気やコーチングへの理解度を高めるのは間違いない。

その意味からすれば、ユーモアはコーチの良し悪しを計る評価基準の一つと言えるだろう。
オーストラリアから
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラグビーのルールはとても複雑で分かり難い。

コーチの評価基準同様、レフリーにも同じことが言え、警察官や裁判官のようなレフリーが良いレフリーと評価されることはあり得ないし、ユーモア感はレフリーにとってゲームをスムーズに運ばせるための大切なツールになる。

 

日本でのコーチングコースに、ARUのマッチ・オフィシャル(公認レフリー)ジェイミー・マクレガー氏が参加したが、彼のルール解説はユーモア感に満ちて実に面白い。

コンタクト(接触)プレー中の反則の判断は極めて難しい。

「世界中に一人だけこの反則をとられない選手がいる、それはリッチー・マコウだ !!」 

日本のコーチでオールブラックスのキャプテン「リッチー・マコウ」を知らない者はいない。

ジェイミーは、リッチーの卓越したプレーやキャプテンシーを認めた上で、彼の反則ギリギリのプレーを手玉に取りユーモアを交えながらルール解説に彼の名を使う。

彼はリッチーのプレーを否定するのではなく、世界中の選手の中で、ルールを一番良く知り、常に学び続けているのはリッチーだと豪語する。

そして、リッチーはレフリーよりもルールを熟知していればこそ、あのようなプレーが生まれ、レフリーに対するプレッシャーやキャプテンとしてアピールが出来るのだと言い切る。

 

実のところ、ジェイミーはリッチーが嫌いなのだろう。

なぜなら、リッチー率いるオールブラックスにワラビーズがいつもやられているからだ。

だからこそ、彼のユーモアたっぷりの解説は面白いのだ。

ジェイミーの解説には嫌味が無く、そのテンポが素晴らしい。

笑いながら聞いている内に引き込まれ、それが "なるほど" と思えてくるから不思議である。