次男がアメリカの旅から戻って来た。
大学院卒業を祝う卒業旅行のようなものだった。
昨年からアルバイトで旅行の資金を貯め、1ヶ月間アメリカ各地を転々と訪ね歩いたようだ。
ロスアンジェルス、ハリウッド、ラスベガス、 カンクン(メキシコ)、テオティワカン(メキシコ)、マイアミに移動し、3日間ぶっ通しのミュージック・フェスティバルに参加したようだが、その後は、ニューヨークを訪れたようだ。
シドニーに戻った次男の第一声は、「1ヶ月じゃ足りなかったなぁ!」だった。
旅をこよなく愛し、大学院では "ツーリズム・マネージメント" を専攻した。
シドニー大学の学生だった次男は、在学中に1ヶ月間、南米の主要な国を旅し、大学卒業時にも卒業旅行として3ヶ月間ヨーロッパのほとんどの国を旅して歩いた。
妻は、多少心配な気持ちも込めて言う。
「本当にオージーの若者らしい生き方してるわよね!」
金を貯めると、その金を全部使って自分の好きなこと(旅)に使ってしまう。
”蛙の子は蛙”、私にもそういうところがあったし、今もあるのだ。
昔はよく家族で旅行に出掛けた。
今なら退屈さしか感じない首都キャンベラへの2泊3日のバス旅行も、例えシドニーから100kmのブルーマウンテンへの旅でさえ、楽しかったのだ。
家族揃って日本への里帰り、国内旅行も何度かしたが、息子2人が大学生になってからは、当然のように家族で旅行に出掛けることはほとんど無くなった。
私達の年代になれば、夫婦水入らずの旅に出るのが理想なのだろうが、近頃は、「どこかに行こうか?」という話題になれば、妻は決まって「日本の温泉がいい」と言い張る。
「日本の温泉がいい」と言われても、我々にとって海外旅行、そう簡単には行けないのだ。
妻は日本から取り寄せた温泉の本やウェブサイトを検索しては、いつ行けるか分からない温泉の旅に思いを巡らし ”行った気分” になっているのだ。
私は?と言えば、温泉は嫌いではないが、スーパー銭湯でも十分満足できてしまうため、どうせ日本を旅するなら温泉よりも食い気に拘りたいタイプなのだ。
それと、私は仕事で訪日することが多く、どうしてもゆっくり温泉に浸かる気分にはなれない。
貧乏性と言うか? のんびり時間を使うことに罪悪感を感じてしまうタイプなのだ。
食い気に拘ると言うものの、久しぶりの訪日の際に回転寿司に入れば、取るのは安価な皿ばかり、やっぱり私は一事が万事、貧乏性から抜け出せないのだ。
旅好きの次男に聞いてみた。
ヨーロッパの国々、南米、北米、東南アジア(タイやバリ)、もちろん日本にも何度も行ってるけど、どこが一番良かった?
次男は迷うこと無く「アメリカ」と言った。
やはりアメリカは若者にとってエキサイティングな国のようだ。
次男(弟)の渡米に何ら関係無く、長男も今月末から友人と2週間アメリカを旅するようだ。
私もいつかはきっと、と思うが、今のところアメリカはそれほど私達夫婦の順位は高くない。
私の友人はアメリカ中南部のダラスを訪れてみたいと言う。
仕事の関係で世界中を飛び回っている彼にして、その言葉は意外だった。
それでも聞いてみるといかにも彼らしい。
2028年に「ケネディの死」に関する情報が全て開示されるそうだが、彼はそれまでに実際にそこの空気、におい、景色などを経験しておきたいと言うのだ。
中学2年の時に衛星放送の画像に衝撃を受け、その時以来ずっとその願望を温めているそうだ。
そう言えば、私も中学2年生の頃、映画「アラビアのロレンス」を観て、いつか絶対にアラビアに行ってみようと真剣に考えたことがあった。
遊牧民べドウィンと生活をしながら、ネフド砂漠をラクダで渡り、シナイ半島を歩いて・・・
本気でそんな夢を抱いたが、早大ラグビー部の後輩、奥(大使)が正にロレンスが活躍した近くで非業の死を遂げ、現実とはかけ離れた少年時代の夢想になってしまった。
今も年に一度は「アラビアのロレンス」を観るが、奥の死以来、感動的なシーンよりも裏に隠された政治的陰謀の方が目についてしまうのだ。
来年はアルゼンチンのブエノスアイレスで、「ゴールデン・オールディーズ・ワールド・ラグビーフェスティバル」(35歳以上のラグビー世界大会)が開催され、参加を誘われている。
シドニー、福岡と2大会連続で参加して、その素晴らしさを知ってしまった。
こんな機会でもなければ南米を訪れるチャンスは無いかもしれない。
前か後にペルーの "マチュピチュ" を日程に加えれば、妻も一緒に行くと言うかもしれない。
それから再来年のラグビーワールドカップ・ロンドン大会も捨て難い。
07年フランスのパリ大会は実に楽しかった。
日本出発の定年退職組のオジサン5名と日本で合流し、準決勝2試合、3位決定戦、決勝の4試合を観戦する贅沢な観戦旅行をしたのだ。
途中、ベルギーのブリュッセル、ブルージュ、オランダのアムステルダムを訪ね、W杯終了後には単身ユーロスター(列車)でドーバー海峡を越えロンドンに向かった。
ラグビー仲間 "アジアン・マローダーズ"(日本に駐在経験のある世界中の男たちによって組織されたクラブ)の会則には、遠征には女性を同伴しない事と書かれている。
その通り! やはりラグビー関係の旅には男同士がベターかもしれない。
夏休みに家族でシドニー旅行を計画している友人にメールを送った。
彼もラグビー関係(とは言っても仕事)で自分だけ何度もオーストラリアを訪れているが、今回は家族への罪滅ぼしの意味を込めてやって来ると言う。
私はその気持ちを尊重し、心を込めて計画から実際の旅行までサポートするつもりだ。