2010年産アンスガーを愛でる | 緑家のリースリング日記 ~Probieren geht über Studieren~

2010年産アンスガーを愛でる

ようやく夏らしい気候になって来た。身の回りには早くも夏の疲れからか体調を崩している人を多く目にするが

節電という厄介な課題を抱えながらの夏越え、諸兄諸姉に於かれましてはくれぐれも体調管理に怠り無きよう。


さて夏本番を迎え、例年であれば新酒が早く手配出来るように涼しくなるタイミングを待ちわびる時期なのだが

今年は若干の不手際を除けば、概ね予定通りに夏越え用のリースリングを手元に揃えることが出来た。

もっとも、新酒のリリースが比較的遅いモーゼルのいくつかの生産者には終始やきもきさせられっ放しで

クール便などという気の利いた輸送手段のないルートを利用する以上、「夏の高温」という障壁は避けられない。

過去、無理をして送って貰ったボトルが噴いてコルクが飛んでしまったという苦い経験もある。


そんな中、近頃普及しているスクリューキャップがこの点で非常に優れている事をこの度実感したのであった。

たとえ少々高温に晒されようとも、熟成させる訳でもなくサッサと飲み切ってしまうデイリークラスのモノなら

噴きさえしなければ大丈夫だと考える。

これは素人考えだが、噴いたボトルが劣化するのは、一度膨張してボトルとコルクの隙間を外界と通じたものが

引き続いて起こる温度低下によりボトル内へ引き戻される際、好ましくない物を引っ張り込むせいではないのか。

その点スクリューキャップは完全な密栓。今回わざととコルク栓のモノを混ぜて貰って実験紛いの観察をしたが

温度が上がり、中身の体積が増えてそれに押し出されるようにエア部分が減っていたコルク栓ボトルに対して

スクリューキャップのボトルの方は、中身の体積にもエア部分にも変化は無かった。


そんな頼もしいスクリューキャップのお陰で、噴かずに無事やって来たアンスガー・クリュッセラート醸造所の

2010年産辛口リースリング「フォム・シーファー」。嬉しそうにそのキャップをキュッと捻って開栓。


新・緑家のリースリング日記


淡黄緑色。洋梨を主体に、柑橘や仄かな桃を感じさせるフレッシュな果実香。

力強く凝縮感溢れる酸は、伸びもキレも素晴らしい。ちょっと歯に染みる。程好い果実味は重過ぎず軽過ぎず

秀逸な酸とのバランスも至極。夏みかんの後味の苦味にも似た、酸と一体感のあるミネラルの余韻。

香りは徐々にリンゴっぽく変化。同時に鉱物臭さが出てシーファー・リースリングの面目躍如。

これがたったの8ユーロちょっと、ベーシックな辛口QbAとしては驚くべきコストパフォーマンスの高さである。

同価格帯のベーシックな辛口同士で比較した場合、2009年産 ではグリュンホイザーに譲ったが

率直に言ってこの2010年産ではこちらの方が完成度が高いように思う。


翌日は仄かに蜂蜜が香る。口の中いっぱいに拡がる青リンゴのフレーヴァーに、初日よりやや引っ込んだものの

よりミネラルとの一体感を増した酸。相変わらずほろ苦い柑橘系の爽やかな余韻が暑さを癒してくれるかのよう。

美味い...美味過ぎる。モーゼルの辛口リースリングかくあるべし。87/100


一昨年醸造所を訪ねて アンスガーさんに聞いた話では

「良い辛口を造るためのポイントは、ワイン酸(酒石酸)とリンゴ酸、および乳酸のバランス。リンゴ酸が多いと

辛口の場合は酸っぱ過ぎて飲めたものではなくなるが、乳酸発酵によりリンゴ酸が乳酸に変化すると

これがワイン酸とリンゴ酸を上手くまとめてくれるのだ」とのこと。

一方、グリュンハウス醸造所 では「味覚やアロマに好ましくない影響をもたらす乳酸発酵は避けている」という話。

どちらも素晴らしいリースリングで、甲乙付け難い。こんな逸品に親しめる幸せを実感しつつグラスを傾ける。


そうそう。時間がある時にちょくちょく覗く、この道のプロフェッショナルの方のブログ がある。

自分にとっては難易度が高過ぎて、充分に理解出来ない部分が少なくないのであるが

そんな記事 の中に、アンヌ・フランソワーズ・グロさんの言葉を引用したという、こんな一節がある。


「どの蔵のやり方もそれぞれ違っていていいの。ベストはない。皆それぞれの哲学と情熱で作っているの。

画家と呼ばれる人達の絵が皆一緒じゃないでしょう」。学術の世界はベストがある。英知とはそこを目指すものと

信じている。プロとは最良の物を追求する。しかし、「ワイン造りの探求はベストではない。オリジナルだ。

それよりも大切なのは自分の哲学とそれを押しすすめる情熱だ」。


非常に感銘を受け金言として心に留めている一節なのだが、今夜はしきりにこの言葉の意味を噛みしめながら

リースリングの佳酒を愛でるのであった。ワイン造りの世界はとてつもなく深い。


2010 Riesling Qualitaetswein trocken - vom Schiefer -

Weingut Ansgar Cluesserath (Trittenheim/Mosel)

A P Nr 2 607 269 06 11,Alc 11.5%vol,8.20€