ギリシャ危機と輪の法則 ギリシャとドイツを結ぶ時の輪 | 上祐史浩

上祐史浩

オフィシャルブログ ―― 21世紀の思想の創造

                ギリシャ危機と輪の法則       
          ギリシャとドイツを結ぶ時の輪

 

 ギリシャの国民投票の結果はEUの緊縮策を大差で否決だった。これはギリシャのEU離脱の始まりとも懸念されている。この背景として、EU、特にその経済の支柱のドイツとギリシャの間に、既に感情的な対立があることは以前から指摘されてきた。

 
 否決したギリシャ国民の心情は、その首相が強調した自己の「尊厳」のようだ。ギリシャから見れば、数年前にEU・IMFらに求められた緊縮政策自体が無理であり、結果として、EU・IMF自身の予想に反し、ギリシャ経済は回復せず、逆に不景気に陥った。

   
 よって、今後、大幅なEUの譲歩を勝ち取ることなく、更なる緊縮政策に忍耐しても、うまくいく保証はないし、他国の奴隷となるかの如くに感じ、自尊心が 許さない。そうした中で、ギリシャの主張は、国民投票でEU案を否決した方が、EUから更なる譲歩を引き出す強く圧力になると強調した。

 
 しかし、EU・ドイツ側が、ギリシャの思い通りに妥協するかということ、それも難しい。EUの中には、他にも巨額の債務を抱えている国があり、ギリシャ に妥協すれば、他の国も妥協を求め、経済力に優れたドイツなどの国の負担が大きくなる。自分が汗水たらして働いて得たお金を大量に他国に与えなければなら ないのだ。

 
 そして、ドイツには、自分たちは、勤勉で効率の良い経済システムがあるが、ギリシャの苦境は、債務を隠蔽するなどした歴代政権の過失であり、さらには、 勤勉さに欠け、不効率な経済システムに甘えるギリシャ国民の問題だという見方もあるようだ(偏見か客観的な事実かは分からないが)。

 
 そもそもお金を借りて返せない者が、貸した方の大幅な譲歩が不可欠と主張して、批判や脅しによって、譲歩を得ようとすること自体が気に入らないだろう。

 
 そうした中で、互いに対する感情的な批判も出ている。ギリシャのメディアの一部は、ドイツをナチスとだぶらせて批判し、ドイツのメディアは、ギリシャの首相が脅しで譲歩を迫るかのような写真を掲げたものもあるという。

 
 
 しかし、このまま対立がエスカレートするとどうなるか。第一次世界大戦の敗戦の後に、他国に膨大な債務を押し付けられた結果、急進的なナショナリズムの政権が台頭したのはどこに国か。他でもない、ドイツであり、ナチス政権である。

   
 ドイツを中心としたEUが、ギリシャをあまりに追い詰めれば、現在勢いを増しているギリシャのナショナリズムを増長させる可能性がある。そして、ギリ シャがEU・ユーロ圏から離脱した場合、中国・ロシアに接近するとの懸念がある。実際、最近、ギリシャと中露の首脳は外交関係を深めている。

   
 ギリシャの近くには、例のウクライナがある。昨年、ウクライナ東部では、EU寄りのウクライナの政権と、ウクライナ内のロシア民族との紛争が発生し、いまだにく すぶっている。そこに、ウクライナに加え、ギリシャにも、ロシアの脅威が増大すれば、東ヨーロッパの分裂、EUとロシアの対立がさらに深まる。

   
 こうして見ると、ヨーロッパに紛争をもたらしたナチスの過去は、ギリシャが主張するように、今のドイツにあてはまるものではない。それは、むしろ未来の ギリシャに生じるかもしれない。よって、ドイツは、ギリシャにナチスになぞらえて批判されたことに感情的にならず、ギリシャの未来に注意しなければならな いだろう。

 
 逆にギリシャは、自分たちこそ、ナチスの時のドイツのように、経済的な苦境への反動から、急進的なナショナリズムの政権の台頭を許していはいけないの だ。それはナチスと同様に破滅の道だ。自分たちが批判するドイツの過去は、悪い意味での自分たちの未来の可能性になりかねない。

 
 こうして、今の他人(ギリシャ)の問題は、自分(ドイツ)の過去の問題だったり、過去の他人(ドイツ)の問題は、自分(ギリシャ)の未来の問題であったりする。

 
 つまり、現在・過去・未来の時の経て、自分と他人は輪のようにつながっているのである。その時々の条件によって、自分も過去の他人と同じような問題を抱えるし、他人も過去の自分と同じような問題を抱えることがある。

 
 言い換えれば、人間は皆、一時的に一面で優れていたり、劣っていたりしても、仏から見れば、その手のひらの上で、どんぐりの背比べということではないか。自分と他人のつながり、そして、自と他の間の類似性=平等性を認識することは重要だと思う。

   
 
 さて、今後はどうなるのか。
 
 前にのべたように、一定の試練・苦しみを経なければ、次のステップにはいけないのかもしれない。

 輪の法則という思想面から表現するので はなく、制度面から表現すれば、EUが、社会福祉政策などの政治の統合(=一つの政府)がない中で、経済市場と通貨の統合だけを行ったのに、無理があったの かもしれない。

 
 今後、最終的な形に至る前に、どうした試練が待っているかは不明だが、今回のギリシャの問題は、これは21世紀の世界の融和・統合の行方を占うものではないかと思う。