『麒麟がくる』第7~8回ー尾張国内の政治情勢/当時の三河情勢 | 歴史愛~歴史を学び、実生活を豊かにする~

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「温故知新」とは言いますが、世の中を見渡すと表面的な教訓ばかりでイマイチ実生活に活かすことのできない解説ばかりです。歴史的な出来事を、具体的な行動に置き換えて実生活をより豊かにし、願望を実現する手助けになるように翻訳していきます。


※こちらの記事は、令和2年3月29日に書かれたものです。

皆さんこんばんは。
今回は今年の大河ドラマ『麒麟(きりん)がくる』第7~8回)に関しての楽しみ方を解説したいと思います。

大河ドラマを見てみたけれど、歴史もよくわからないし、どう楽しんでいいのかわからない
歴史には興味あるけど、自分では積極的に勉強する気になれない、という方必見です!
※記事下部に武家や公家の人物名の読み仮名を載せています。

【『麒麟がくる』の楽しみ方】
・第1~2回―当時の三傑と明智家/リアルな戦の描写・第3~4回―美濃の情勢/織田家の状況
・第5~6回―当時の京都の情勢


まずはあらすじ。




第7~8回のあらすじ


(きょう)にて三好長慶(山路和弘)を助けるために負傷した明智十兵衛光秀(長谷川博己)。
(こま)(門脇麦)の治療を受けて故郷美濃(みの)に戻り、主君である斎藤山城守利政(本木雅弘)と会うと、ある頼み事をされた。

斎藤(さいとう)家の宿敵織田弾正忠(おだ・だんじょうのちゅう)家の当主信秀(高橋克典)が和睦(わぼく)を申し込んできたのである。
その条件として、山城守の娘であり十兵衛の従妹(いとこ)である帰蝶(きちょう)姫(川口春奈)を息子の信長(染谷将太)の嫁にほしいということである。

十兵衛は山城守に、帰蝶を織田(おだ)家に嫁ぐように説得してほしい、と頼まれるのであった。

十兵衛は、織田信長の人柄を見極めるため再び尾張(おわり)に潜入するのであった。

尾張に潜入した十兵衛は、織田信長が漁から帰ってきたことに衝撃を受け、その印象を美濃に持ち帰る。

明智荘(あけち の しょう)で、帰蝶に尾張に嫁ぐべきか否かを聞かれた十兵衛は、尾張に行くべきと伝える

山城守は十兵衛の行動に大喜びするが、山城守の子高政(伊藤英明)は面白くない。

高政は十兵衛を呼び出し美濃守護(しゅご)土岐頼芸(尾美としのり)の御前で詰問しようとするが、結局十兵衛の意見は覆らなかった

ということで、




第7回「帰蝶の願い」の感想


いやぁ、それほど面白くなかったですね!笑

十兵衛をめぐるフィクション部分が史実の重厚さに負け始めてますね。

そもそもが駒との淡い恋物語が面白くないですし、帰蝶が十兵衛のことが好きなのはいいのですが、それが恋愛感情なのかどうか微妙な描き方をしているところもいらないですね。

(ドラマの様子を観察していると、恋愛感情って程ではありませんが。ただ幼馴染(おさななじみ)として大好きという程度でしょうか)

そしてやっぱり信長が諱(いみな)で呼ばれているのは嫌です。

「諱」等、武士の名前のルールを知りたい方は、下記リンクをタップしてください:
武家や公家の名前について

当時の一般民衆が「信長」という名前を知っているわけがないんです。

「三郎様」とか「若君(わかぎみ)」が自然です。

なぜ織田信友はちゃんと「彦五郎」と呼ばせていて、信長は「信長」なのか。
知名度の問題だとしたら、以前言った通り、「通称」にも視聴者はすぐに慣れますから。
(現に明智「十兵衛」は視聴者の間ではもう定着しています)




第7回の楽しみ方―尾張国内の政治情勢―


そして、今回解説するのは当時の尾張の政治情勢です。

まずは織田弾正忠(信秀)の属する弾正忠家の政治的位置を確認しましょう。


関連記事:
『麒麟がくる』第9~10回―土岐一族とは/織田家の血縁関係

関連記事:
『麒麟がくる』第15~16回―織田一族の関係性と斎藤新九郎高政の重臣たち

関連記事:
『麒麟がくる』第17~18回―斎藤家の血族関係と永禄元年までの織田家


「『麒麟がくる』第3~4回」の記事でも少し言及していますし、ドラマ中でも確か第8回くらいで言及がありましたが、弾正忠信秀は尾張を代表する立場にいません

参考記事:
『麒麟がくる』第3~4回ー美濃の情勢/織田家の状況

尾張を代表するのは将軍家(しょうぐんけ)から任命された「守護」の立場にある人ですが、当時守護を担当していたのは斯波左兵衛佐(さひょうえのすけ)義統(よしむね)

織田家は守護を補佐する守護代(しゅごだい)という役職を担当していました。

しかし、代々守護代を担当していたのは「織田伊勢守(いせのかみ)家〔岩倉(いわくら)織田家〕」と呼ばれる嫡流(ちゃくりゅう)(本家のこと)です。

織田家の一族にはさらにその下に「織田大和守(やまとのかみ)家〔清州(きよす)織田家〕」と呼ばれる家があり、大和守家は本来伊勢守家の家来だったのですが、16世紀前半にごねて、尾張半分の守護代となっています
(守護代が同時に二人いたということです)

これが今回名前だけ登場した「織田彦五郎(信友)」の家です。

(実際は、彦五郎は「織田因幡守(いなばのかみ)家」という家柄ですが、大和守家の養子となって家を継いでいます)

弾正忠信秀は「織田弾正忠家〔勝幡(しょばた)織田家〕」と呼ばれる家の当主で、大和守家のそのまた家来となっています。

参考として、下図をご覧ください。


つまり、守護の家来の家来が勝手に美濃(の守護代)と同盟を結ぶという構図です。
むちゃくちゃな話ですね。

しかしこのままだと「守護」とか「守護代」とか専門用語が多くてわかりにくいかもしれないので、現代の会社組織になぞらえてみました笑↓

※「営業」「人事」などはわかりやすくするために当てはめただけで、実際の役割とは関係がありません。

「株式会社尾張守護」の営業部長である弾正忠信秀さんが、副社長と社長に無断で隣県の同業者である「株式会社美濃守護」の副社長と対等の立場で個人的にアライアンス(業務提携)契約を交わそうとしているわけです。

普通は禁止される行為ですね。

今の世の中でこれをやったら大モメになるわけですが、実際に当時も大モメしていたわけです。

(正確ではありませんが)わかりやすくいうと、その弾正忠の態度に副社長である彦五郎信友が憤慨していたわけです。

(ちなみに社長の斯波左衛門佐さんともう一人の副社長織田伊勢守さんは「いいよいいよ、弾正忠くんなら。うまくやってよ」という感じだったと推測されます 笑)




第8回「同盟のゆくえ」の感想


美濃パートはやっぱり面白くありませんね笑

何が面白くないかというと、上で述べたように駒と帰蝶の恋愛パートですね。

その恋愛が物語に大きな影響があり、心理的やり取りを描くことが重要であればいいと思うのですが、駒のパートの重要性が分からなくて困ってます。


それと、僕としては帰蝶は十兵衛に恋心を抱いているとは思えないんですが、どうでしょうか?

ただの「好き」なだけであって、恋愛感情に発展する手前のような気がします。
(わざとそういう描き方をしているのではないのでしょうか?)

山城守利政と高政との軋轢(あつれき)(というか高政が勝手に山城守に反発しているだけですが)は良かったと思います

演じているのが伊藤英明さんなので、いい歳した駄々っ子のような印象になってしまっていますが、当時高政は22~23歳くらいなので、「自分が大事にされていないんじゃないか」という疑問はさもありなんという感じです。




第8回の楽しみ方―当時の三河情勢―


物語中で土岐美濃守頼芸が「今川義元を敵に回したくない」みたいな発言をしていたと思います。

駿河(するが)〔静岡県(しずおかけん)〕にいるはずの今川治部大輔(じぶのたゆう)義元が、尾張〔愛知県(あいちけん)西部〕や美濃〔岐阜県(ぎふけん)南部〕にそんなに圧迫感を与えているのか疑問に感じると思いますので、その辺を説明したいと思います。

まず前提知識としてもっておきたいのが、当時の「国人(こくじん)領主」のイメージです。

一般的な戦国時代のイメージですと、

尾張→織田氏
美濃→斎藤氏
三河(みかわ)→松平(まつだいら)
駿河・遠江(とおとうみ)→今川(いまがわ)

みたいな国〔都道府県〕レベルでの領地というイメージがあるかもしれませんが、それは違います。

ドラマで描かれている天文(てんぶん)末期(1540年代末)のころはまだまだ統一が進んでおらず、郡や市町村レベルの領主たちが大きな力をもっていました。

それがいわゆる「国人領主」です。
(厳密にいうと織田氏は国人領主化していないのですが、ここではその説明は割愛します)

そんな中でも、16世紀前半(大河の舞台の直前)の三河は松平氏による統一が進んでいる方でした。

しかし、天文4年(1535年)に松平竹千代(岩田琉聖)の祖父である次郎三郎清康が「守山(もりやま)崩れ」で倒れて以来、再び群雄割拠の状態に戻っています

というわけで、ドラマの舞台の天文17年ごろの有力国人領主(一部は「国人」ではありませんが)を勢力図にしてみるとこうなります。
※勢力範囲は大体です。

(参考:「ドンちゃんの他事総論」)

青系が織田弾正忠家〔勝幡織田氏〕、つまり弾正忠信秀や三郎信長側の勢力。
赤系が今川治部大輔(義元)側の勢力です。

三河においては何となく今川方についている勢力の方が多いのが分かります。
(そのうえ、渥美(あつみ)半島の中程にある田原(たはら)城は今川氏直轄となっています)

今川氏は駿河の大名とはいえ、傘下(さんか)の国人衆を伝ってすぐにでも三河・尾張国境に出陣できてしまう状況なんですね。

美濃勢としては、もし織田弾正忠側についた場合、弾正忠が敗れたらこれだけの勢力を敵に回すことになるわけです。

そう考えると土岐美濃守頼芸の考えは単に保守的だったというだけではなく、割と現実的な観測に即した判断であるとも言えます。

こんな風に、ドラマの背景にある知識が分かるとドラマをもっと楽しめます!

まだまだ説明したいことはたくさんありますが、今回は以上です!

※トップ画像はイメージです。

○今回登場した人物のフルネーム(参考:「武家や公家の名前について」)
・三好 筑前守〔通称は孫次郎〕 源 朝臣 長慶
みよし ちくぜんのかみ〔通称はまごじろう〕 みなもと の あそん ながよし
・明智 十兵衛 源 光秀
あけち じゅうべえ みなもと の みつひで
・斎藤 山城守〔通称は新九郎〕 藤原 朝臣 利政〔道三。他多数〕
〔長井 新九郎 藤原 規秀〕
さいとう やましろのかみ〔通称はしんくろう〕 ふじわら の あそん としまさ〔どうさん。他多数〕
〔ながい しんくろう ふじわら の のりひで〕

・織田 弾正忠〔通称は三郎〕 藤原〔忌部〕 朝臣 信秀
おだ だんじょうのちゅう〔通称はさぶろう〕 ふじわら〔いんべ〕 の あそん のぶひで
・織田 三郎 平〔藤原、忌部〕 信長
おだ さぶろう たいら〔ふじわら、いんべ〕 の のぶなが
・斎藤 新九郎 藤原 高政〔義龍〕
さいとう しんくろう ふじわらの たかまさ〔よしたつ〕
・土岐 美濃守〔通称不明。左京大夫〕 源 朝臣 頼芸
とき みののかみ〔通称不明。さきょうのだいぶ〕 みなもと の あそん よりのり〔よりあき〕
・織田 大和守〔通称は彦五郎〕 藤原〔忌部〕 朝臣 信友
おだ やまとのかみ〔通称はひこごろう〕 ふじわら〔いんべ〕 の あそん のぶとも
・斯波 左兵衛佐〔通称不明〕 源 朝臣 義統〔義元〕
しば さひょうえのすけ〔通称不明〕 みなもと の あそん よしむね〔よしもと〕
・織田 伊勢守〔通称は三郎、七郎兵衛尉〕 藤原〔忌部〕 朝臣 信安
おだ いせのかみ〔通称はさぶろう、しちろうひょうえのじょう〕 ふじわら〔いんべ〕 の あそん のぶやす
・織田 又六郎〔または太郎左衛門〕 藤原〔忌部〕 朝臣 信張〔寛廉〕
おだ またろくろう〔または たろうざえもん〕 ふじわら〔いんべ〕 の あそん のぶはる〔とおかど〕
・松平 次郎三郎 源〔藤原〕 清康
まつだいら じろうさぶろう みなもと〔ふじわら〕 の きよやす
今川 治部大輔〔通称不明〕 源 朝臣 義元
いまがわ じぶのたゆう〔通称不明〕 みなもと の あそん よしもと
☆武家の「通称」の普及を切に願います!

参考
第7回
シネマの万華鏡
ぴえーるのテレビブログ
ゆーくんはどこ?
第8回
ぴえーるのテレビブログ
BUSHOO!JAPAN(武将ジャパン)
平成エンタメ研究所

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