The Roland Kirk Quartet Meets the Benny Golson Orchestra
Roland Kirk (ts, stritch, manzero, flute, siren, and vocals) on all trucks
Virgil Jones, Richard Williams (tp) on tracks 1 to 5
Tom McIntosh, Charles Greenlea (tb) on tracks 1 to 5
Don Butterfield (tuba) on tracks 1 to 5
Harold Mabern (p) omit on track 9
Richard Davis (b) on tracks 1 to 5
Abdullah Rafik (b) on tracks 6 to 9
Albert “Tootie” Heath (ds) on tracks 1 to 5
Sonny Brown (ds) on tracks 6 to 9
Benny Golson (cond,arr) on tracks 1 to 5
Recorded at A&R Studios, NYC on 11 June 1963 (tracks 1 to 5) and 12 June 1963 (tracks 6 to 10).
Track 1 Ecclusiastics, track 2 By Myself, track 3 Roland Speaks,
Track 4 A Nightingale Sang in Berkeley Square, track 5 Variation on A Theme of Hindemith
Track 6 I've Got Your Number, track 7 Between the 4th and 5th Step
Track 8 April Morning, track 9 Get in The Basement, track 10 Abstract Improvisation
私が本格的にジャズを聴き始めた約30年前は、いわゆる「モダーン・ジャズ・ジャイアント」と呼ばれるプレイヤーの多くはまだ存命で、私も早死したコルトレインを除くと、マイルズを始め、ローリンズ、ブレイキー、アート・ペッパー、ソニー・スティットらのライヴ演奏を実際に目の当たりにすることが出来ました(まぁ、おやぢの自慢話なのでお聞き逃しを(藁))。しかし、私が大好きな2人のサックス奏者、ジュリアン“キャノンボール”アダリーと、“ラーサーン”ことローランド・カークの2人の動く姿を目に出来なかったことは、未だに私の人生の痛恨事です。しかもこの2人、アダリーの没年が75年、カークが77年ですから、ほんの数年、長生きしてくれれば、「間に合った」のですから残念でなりません。2人とも最晩年まで熱心にツアーをこなしていたそうですから(とくにカークはツアー中のバスの座席で息を引き取っています)、恐らく来日公演の機会も間違いなく存在したと思われます。
そんな訳で、カークが唯一、来日した64年の東京公演で、例によって複数のサックスを口にした彼の背後からスリーピーこと松本英彦が、まるで「二人羽織」のような格好でサックスに手を回してデュエット演奏をした…なんて話を行きつけのジャズ喫茶のマスターから聞くにつけ、悔しさが募ったものです。「動くカークを見たい!」という渇望は、21世紀になって、彼のヨーロッパ・ツアーの際に撮られたTV番組のVTRがDVD化され、ようやく癒されることになりました。
ところで、彼のレコーディング・キャリアは、60年代前半のマーキュリー専属時代と、ヴァーヴを経てアトランティック専属となった残りの約10年間に綺麗に大別できます。マーキュリー時代は基本的に4ビート・ジャズの枠組みの中で自己の音楽を追求してきた彼ですが、アトランティックに移ってからは、レーベル・オーナーのネスイ・アーティガン氏の示唆もあったのか、ジャズという狭いジャンルに拘泥しない、より奔放な音楽を追求するようになりました。しかし、私的には、ともすれば悪ふざけが目立つようになったアトランティック時代よりも、あくまでスウィングする正統派ジャズという枠を踏み外さなかったマーキュリー時代の録音の方がずっと好きです。一頃、こうした発言をすると、硬派のジャズ・ファンから保守的だと袋叩きになったものですが、音楽の好みが多様化した現在、私の身の回りにもマーキュリー時代のカークを評価する声が高まっているのは喜びに堪えません。
さてマーキュリー時代のカークの録音は、20年ほど前に10枚組(海外の再発では未発表ライヴ1曲を追加収録した11枚組)の箱物にまとめられ、私も若いファンから推薦盤を尋ねられた場合、「1枚聴けば、絶対に続けて他の盤も聴きたくなるから、この際、キヨミズで箱物を買え!」とアドヴァイスしてきたのですが、これが日米共に現在廃盤。アマゾン辺りでは中古に5~7万円!というとんでもない高値が付いているような状況です。まぁ、中古屋をこまめに回れ、ということですかねぇ。
マーキュリー時代の傑作としては「リップ、リグ、アンド・パニック」が挙げられることが多いのですが、私的には見逃されがちな佳作として、この「ミーツ・ベニー・ゴルソン・オーケストラ」を推薦しておきたいと思います。貧乏なマーキュリーのこととて、金のかかるビッグ・バンドとの共演は前半の5曲だけ(藁)という、やや看板倒れ的な企画ではありますが、後半のクォーテット録音も含めて、カークは好調を維持していますし、ギル・エヴァンズの影響を感じさせるゴルソンの編曲もなかなかの出来。それと、ここでのビッグ・バンド、アンサンブルの音色が、80年代に入って、ジェリー・マリガンが組織した小型ビッグ・バンドにクリソツなのが興味深いです。まぁ、マリガンは、クロード・ソーンヒル楽団のバリトン奏者としてデビューした新人時代、楽団の主任編曲者だったエヴァンズに師事し、マイルズの「クールの誕生」セッションでは、遅筆のエヴァンズに代わって大多数の曲のアレンジを担当した…という経歴の持ち主ですから、ギル・エヴァンズ・タッチを追求していくうちに、似たようなサウンドになっても何の不思議もありませんが。
トラック1は、ミンガスの「Oh, Yeah!」(Atlantic)セッションからの1曲。同セッションにはカークも加わっていました。ミンガスの曲を、他人が演って成功したという稀有な一例ではないでしょうか。トラック6は、ミュージカルの作曲で知られるサイ・コールマンの知られざる名曲。マンゼロ(旧式のソプラノ・サックス)で美しいメロディーを紡いでいたカークが、エンディングで一転してソウルフルなゴスペル調のアドリブに転じる辺りは何ともスリリングです。テナーやマンゼロを吹くと、コルトレインの影響を色濃く感じさせるカークですが、ストリッチ(ストレート・ホーン・タイプのアルト・サックス)にチェインジすると、これがパーカーそのものになるのが面白いですね。トラック4や8で、そのパーカーも顔色無しというバラッド・プレイをご堪能ください。