エスパイ | シネマ、ジャズ、時々お仕事

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1974年 東宝 監督 福田純 脚本 小川英
(あらすじ:ネタバレあります)
世界平和会議に出席するためヨーロッパ横断鉄道に乗ったVIPが狙撃され死亡。常人では実行不可能な暗殺方法は超能力者(エスパー)の犯行を示唆。エスパーによる世界的な警察組織エスパイの日本支部長(加山雄三)は本部からの指示で捜査に乗り出す。支部員の田村(藤岡弘=現弘、)、マリア(由美かおる)、寺岡(睦五郎)らは、念動力を持つレーサー・三木(草刈正雄)をスカウト。草刈は暗殺の背後に「逆エスパイ」の暗躍があることを知らされる。トルコに飛んだ一行は、逆エスパイのテレポーテーションによって由美を拉致されてしまう。藤岡の必死の捜索でようやく発見された由美は強力な催淫剤を飲まされており、救出しようとした藤岡は敵の攻撃で超能力を失ってしまう。山荘で開かれる平和会議に出席するVIPの護衛を担当した加山らは、教会の鐘の音を利用した超音波攻撃に大苦戦。草刈の念動力で敵を粉砕するが、VIPは暗殺されてしまう。しかし、それは敵の目を欺く本部の作戦でVIPは替え玉だった。平和会議の開催は東京で行われることが決まり、一行は空路パリから帰国の途へ着くが、パイロットは敵のスパイ(高村ルナ)の催眠術にかかっていた。航路を外れる機を藤岡は必死に立て直そうとするが、操縦桿が動かない。機に乗り合わせていた老師(岡田英次)の必死の念動力でようやく危機を脱した一行だったが、岡田は力尽きて絶命。会議場で護衛に着いた草刈は、幼馴染の高村に連れ出され、車に閉じ込められて殺されそうになるが、必死で彼の後を追った愛犬と藤岡の尽力で危機を脱出。犬の行動を見て藤岡は「超能力の本質は愛」であることを悟る。その頃、会場は大地震でパニックとなるが、それは敵(内田勝正)の起こした幻覚だった。藤岡は由美の力を借りて、テレポーテーションで会場に現れ、内田を粉砕。敵の本拠に乗り込んだ一行は、逆エスパイのボス・ウルロフ(若山富三郎)もまたエスパーであり、それゆえに迫害を受けてきたことを知る。若山はその復讐のために世界平和を妨害してきたのだ。藤岡と若山の壮絶なエスパー・バトルは、由美の愛に支えられた藤岡の勝利に終わり、若山は紅蓮の炎に包まれて絶命した。
(感想)
「日本沈没」の大ヒットに気を良くした東宝は、翌年に「ノストラダムスの大予言」を撮って、そこそこのヒット作とし(内容に問題があるということで、現在では封印作品になっています)、この「エスパイ」はSF大作シリーズの3作目ということになりますが、さすがに柳の下にドジョウは3匹いなかったようで、併映作が百恵=友和の「伊豆の踊り子」だったせいか興行収入は良かったものの、現在では「全盛期の由美かおるのオッパイがぼよよーんと出て来る」だけの映画として、好事家の記憶に留まっています。私も今回、フィルセンのSF映画特集で封切時以来35年ぶりに鑑賞しましたが、正直、こんなつまらない映画だったのかと驚きました(ハハハ)。もともと、エスパー物というのはSF的には約束破りの一面があり、アクション的にどれだけ迫力を出せるかという点が課題になると思われますが、この映画、当時の特撮技術を考慮しても、アクション・シーンに迫力が感じられません。藤岡弘、の例によって熱すぎる演技も空回り気味。加山雄三なんて、何しに出てきたのでしょう…という感じの影の薄さです。脚本の責任じゃないですかねぇ。せっかく敵の親玉に若山富三郎を起用しているのに、大映の「玄海遊侠伝やぶれかぶれ」で見学に来ていたのに、出入りシーンでどうしても一暴れしたくなり、「お前は東映専属だから…」と制止するマキノ監督を押し切って大立ち回りを見せたという(藁)若山旦那を、変な髪形をしてモゴモゴと何か呟くだけの役柄に留めてしまった福田純の演出プランも気に入りませんが。ただし、配下の逆エスパイ・内田勝正にとっては一世一代の大役になったと思います。
この頃の草刈正雄は文句なしにいい男です。しかし、どういうわけか、東宝はこの草刈に加山雄三の後釜として「若大将シリーズ」に起用し(青大将役は何と湯原正幸(ハハハ))、大方の予想通り、見事にポシャって、映画スターへの道を閉ざされてしまいました。当時、雑誌のインタヴューで加山雄三が「彼には若大将役は無理。僕がプロデューサーなら彼の暗さを活かしたキャスティングをする」と述べていましたが、確かに、後に角川映画で演じたような役柄のピカレスク物を撮っていたら、人気沸騰したんじゃないですかねぇ。ようやくその線で撮られた「汚れた英雄」の頃になると、美貌にも賞味期限切れの感覚が漂っていましたから。
私的には、よくもまぁこんな役引き受けたなぁ(嘆息)という岡田英次が一番、印象に残りました。かつて「人間魚雷回天」で観衆の涙を絞り出し、日仏合作の「24時間の情事(ヒロシマ・モナムール)」で国際俳優の座を確立したこの名優が、特殊メークでヨーガの鉄人役を演じるとは! 「愛の天使レインボーマン」で後の大門軍団・浜刑事役の井上昭文が演っていたダイバダッタと同じような役柄なんですよ。少しは役を選べよ!という感じなのですが、彼にせよ、木村功にせよ、晩年まで大量の映画・TV出演を続けたのは、主宰する劇団青俳の経営が傾いていた(後に倒産)せいなのでしょう。