1966年 東映 監督 降旗康男 脚本 神波史男、小野竜之助
(あらすじ:ネタバレあります)
田舎でレイプされたことを契機にヨーコ(緑魔子)は幼馴染のタケシ(荒木一郎)を頼って上京。荒木の働く中華料理店でウェイトレスを始めるが、緑は全くやる気なし。ある晩、夜這いをかけてきた荒木を跳ね除けて夜の街を彷徨ううちに、浅井(岡田英次)という紳士に拾われる。ファッション関係の仕事をしているという岡田の手で美しく着飾った緑は高級クラブに連れ出され、セレブ気分に酔う。しかし、マンションに戻ると岡田は緑の身体に欲情。翌朝、部屋に現れた珠江(芳村真理)に詰られた緑は、岡田のマンションを飛び出す。新宿近くで知り合ったフーテン仲間のハルミ(城野ゆき)、アコ(大原麗子)、ナロン(石橋蓮司)から浪人生・ジロー(谷隼人)を紹介された緑は、谷のアパートで同棲生活を始める。谷はラリハイ(ハイミナールという睡眠薬)の常習者。緑も勧められるままにジャズ喫茶でラリハイを呑み、その魅力の虜になる。新宿の街で気ままな生活を送る緑は、沖縄から出てきたボクサー・オキ(東野孝彦=後に英心)と知り合い、彼の試合の応援に行くが、結果は無残なKO負け。一方、トルコ風呂で働く城野は、結婚を餌に男に騙され、自殺してしまう。やがて谷は大阪の実家に帰ることになったが、その頃には、フーテン仲間の睡眠薬中毒はひどく悪化し、ある晩、ジャズ喫茶で開かれた前衛画家・中田(戸浦六宏)の画をめちゃめちゃにしてしまい、器物破損で全員が検挙されてしまう。石橋の実家の尽力で何とか釈放されたものの、仲間はチリジリになってしまい、緑一人がフーテンのまま新宿をうろついていた。偶然、三下ヤクザになっていた荒木と再会した緑だが、睡眠薬中毒の緑に怖気づいた荒木は緑の前から姿を消す。緑を救ったのは大阪から戻った谷だった。谷は父親(佐野周二)を説き伏せ、緑と2人でイタリアへ向かうことにする。2人の乗る貨客船が日本を離れる日、港には石橋、大原らフーテン仲間が集まり、2人の前途を祝福していた。
(感想)
後年、高倉健さんの座付き演出家(ハハハ)として名をなした降旗康男監督の監督昇進第1作目(タイトル・バックでクレディットあり)です。そのせいか、チョイ役で出て来る俳優陣が、岡田英次、佐野周二、芳村真理、戸浦六宏にカメオ出演・寺山修司。谷隼人の母親役・中北千枝子なんて、東宝の田中友幸プロデューサー夫人で、滅多に他社出演しない人なのに、老け役の女優さんなら誰でもいいような軽い役にわざわざ顔を出しています。経費削減で、他社からの助っ人をあまり使わない東映としてはきわめて珍しい。何しろ、降旗監督は長野・松本市長の子息で、親族には大企業・大銀行の重役クラスがゾロゾロという家柄のお坊ちゃまですから、そうしたコネクションで大物が集まったのでしょうね。もっとも、元々、佐藤純彌監督が撮るはずだったものが、スケジュール的に穴が開き、組合闘士だった降旗監督を懐柔するために策士・岡田撮影所長が企んだ監督昇任だったという話もありますが…。
もう一つ、東映作品として珍しいのは、八木正生の音楽の素晴らしさ。八木正生は著名なジャズ・ピアニスト兼編曲家ですが、映画やTVの音楽はほとんどアルバイト感覚で、中にはやる気のないようなスコアも少なくないのですが、この映画は違います。
何しろ、彼のピアノの他、日野皓正のトランペット、渡辺貞夫のアルト、ドラムが半身不随となる以前の富樫雅彦、ベースが夭折したウォーキング・ベースの巨人・原田政長という凄い面々(ギターは中牟礼貞則か、ひょっとして横内章次辺り?)。テーマはブルーノート新主流派風のモード曲だし、ジャズ喫茶でのラリパッパ場面ではフリー・フォームを覗かせ、ナイトクラブ・シーンでは、一転して、八木正生がレッド・ガーランドそっくりのブロック・コードを弾き出す…といった具合で、音楽だけを聴いていても十分に楽しめる映画です(何と、この3月にDiwからサントラがCD化されました! 上の写真はそのジャケットです)。この面々がシルエットで演奏し始めるシーンから本編スタート。う~ん、まるで東映作品とは思えないかっこよさ。クラブのシーンで岡田英次がサインを送ると、ピアニストでカメオ出演の八木正生が指を鳴らして曲を変える…なんて洒落た部分もあります。カメオといえば、寺山修司も、ジャズ喫茶でラリった緑魔子たちが戸浦六宏の画をめちゃくちゃにする場面で「画を壊しても何も生まれない…こんな連中はラジオ体操でもやっていればいいんだ!」と、とても「書を捨てよ、街へ出よう」の作者とも思えないまともな意見を吐いていますが(藁)、ここらへんは現場でのアドリブなのでしょう。
その割に、映画そのものの出来となると、う~んという感じ。非行少年・少女が、親の金でヨーロッパに出掛けてしまい、それをカタギに戻ったかつてのラリパッパ仲間が波止場で見送るというエンディングに代表されるように、後半になってストーリーが急速に類型化してしまうのが残念です。緑魔子はいつもの通りという感じですが、これがデビュー作という谷隼人の方は、やはり主役はまだ荷が重いという感じですかね。谷隼人は、元々、大映からデビューさせようと中村玉緒さんが撮影所に出入りさせていたらしいのですが、この人の持ち味から考えて、東映入りは正解。程なくして、梅宮辰夫の不良番長シリーズなどに欠くことのできない脇役にのし上がることになります。
脇役陣では、全編おかま言葉で怪演を繰り広げる石橋蓮司が絶品! 「キャプテン・ウルトラ」のアカネ隊員こと城野ゆきは、この時点では大原麗子とオツカツの可愛さですねぇ。60年代後半にTV畑に転じてからも、しばらくはこの人の方がレギュラー出演が多かったというのも頷けます。後のキカイダー01、池田駿介は緑魔子らが屯すジャズ喫茶のボーイ役でしたが(台詞あり)、彼のニュー・フェース同期・小林稔侍の方はどこに出ていたのかなぁ。