久しぶりということもあってどうにも昔のことばかりが思い出された成田空港を後に、マレーシアのクアラルンプール国際空港まで、およそ7時間に及ぶフライトが始まったわけですが、昔話ついでに言えば、もっともっとロングフライトの移動がありましたなあ。

 

かつてロシアがソ連だった時代、西側の飛行機はソ連上空を飛べないことから、日本とヨーロッパを結ぶ空路はポーラールート、「北極回り」であって、成田と出たのち、6時間余りでいったんアラスカのアンカレッジに着陸して給油、その後さらに12時間くらいかけてロンドンやパリに向かっていたわけで。

 

時代が変わってシベリア上空を抜けられるようになりますと、一気に13~14時間、ノンストップでヨーロッパ諸都市と結ばれるように。それが、現今はまた不穏な情勢下、大回りしてかかる時間が長くなっておりますけれどね。ただ、機材(747ジャンボは燃費が悪かったとも言われますが)の改良のおかげか、さすがにアンカレッジ経由ということにはなっておりませんが…。

 

と、話はヨーロッパ線のことでなくして、クアラルンプール行きのフライト。ともあれ、ロングフライトご無沙汰のあまり、7時間の搭乗は長いように思えていたわけですが、実際に乗ってしまうと「さほどのことでもない」という印象でしたなあ。まあ、機内では食って寝て、映画を見て…という間に、あらら、もう?てなふうに「飛行機は着陸態勢に入りました」てなアナウンスが聞こえてくるわけで。

 

で、ここでは時間潰しのタネになった映画のことなどを少々。今回は往路が日本航空、帰路はマレーシア航空(MH)のコードシェア便というでしたので、「んじゃ、まあ、行きには日本の映画でも見ておこうかいね。おそらくMHでは日本映画は品薄だろうし」と。つうことで一本目はこちらです。

 

 

三谷幸喜脚本・監督による『スオミの話をしよう』。言うまでもなく三谷幸喜は元来、演劇人ですので…と言ってしまっていいのかは分かりませんが、映画とはいえその中に立ち現れるのは演劇的空間を感じさせるものであることは、他の作品にも通ずるところでありましょうね。

 

次から次から出てくる、スオミなる女性の元夫たちがそれぞれのイメージでスオミのことを語るわけでして、これでスオミ自身が結局のところ全編の中でちらりとしか現れない…となれば、それもありかなと思っていたのですが、これを長澤まさみが演じていたので、そうはならないわけですが。

 

この人はどうにもNHK連続テレビ小説『さくら』の、ふにゃふにゃ喋る高校生の印象ばかり強かったので、その後どうなるものやら…と思っていましたら、それなりに俳優しているのですなあ(失礼)。この映画なんぞは、多様なキャラクターの演じ分けがポイントでもありましょうから、よくやっているなあとも。その演じ分けをあんまり巧くやってしまうより、うまくやっているように演じること自体が、コメディーには求められるところなのでしょうけれどね。

 

飛行機内にいる(自宅のお茶の間ではない)にも関わらず、思わず吹いてしまいそうな瞬間は何度かあったことは事実で、それはそれで面白かったとも言えますが、なんでしょう、コメディーとは言え、主人公が陰のある人物であるだけにも少し深みがあってこそ、てな気も。ま、まさしく機内の時間潰しには打ってつけでしたけれどね。

 

そして、もう一本がこちら、『ゴールデンカムイ』でありまして。

 

 

かねて原作漫画の評判のほどはいささかなりとも聞き及んでおったものですから、「どれどれ…」と見てみたわけですが、「うむむ…」と。後になって世の中のレビューをチラ見しますと、概して好評価だったりして「そうなの?」と思ったり。ま、個人的な趣味嗜好との食い違いということでありましょう、これは。

 

本作の主眼とは異なりますけれど、アイヌの人々との関わりを映画で描き出すならば、乃南アサの小説『チーム・オベリベリ』とか、西條奈加の小説『六つの村を越えて髭をなびかせる者』とか、そのあたりを是非映画にしてもらいたいものであるなあと思ったりしたものでありますよ。

 

といういことで、機内の時間潰しのそれはそれとして、早や飛行機はクアラルンプール国際空港に向け、降下を始めるのでありました。