大阪の造幣局に併設されている造幣博物館に立ち寄って、まずはその成り立ちを辿ってみたわけですが、ここからは貨幣を造る方のお話でありまして。そも展示室の入り口には現行コインの大き目なサイズが並んでいますけれど、この大きなサイズのものも製造過程では実際に必要になるようです。
右側の小さな方、その二重の円の内側部分が実際の500円硬貨の大きさと考えてくださいまし。硬貨のデザインとして最初に作られるのは左手にある大きな「原版」だそうで、これを縮彫機という機械に掛けて、右側(「種印」)のように小さくする。1904年にフランスから縮彫機を購入する以前は、種印のままに手彫りでデザインを彫り込むという、超絶職人技が展開されていたのであるとか。何しろ一点ものですので、破損すると大騒ぎとなるわけですが、縮彫機と原版があれば、種印はいくらも作れますから、作業の一大変革であったようで。
ですが、明治の造幣に一大変革を遂げた機械とはいえ、見た目は昭和の町工場的な雰囲気でもあり、今では相当にデジタル化が進んでいるようでありますね。
このあたり、平日に予約して訪ねていたなら工場見学でつぶさに見ることができたのかもしれませんですが、あいにくとこの日は土曜日でしたのでねえ。いささか心残りではありますが、後付けて気付かされたところによれば、大阪が造幣局本局ながら、埼玉県の大宮に支局があって工場見学もできるし博物館もあるのだとか。よもや展示内容が全く同じではなかろうなあ…。
ま、そんなことはともかくも、造幣技術の日進月歩の賜物として、2021年に発行された新500円硬貨に注ぎこまれた偽造防止策のあれこれが紹介されておりましたですよ(蛇足ながら、先ごろ発行された新紙幣の方は国立印刷局管轄なので、造幣局とは関わりなしで)。
デザインに施された偽造防止技術のポイントは5点ほどあるようですね。こんな具合です。
- 微細点:転写等による偽造を防ぐため、貨幣模様の中央部(桐の模様の部分)に微細な穴加工を施しています。
- 微細線:表面の「日本国」「五百円」の周り等に扇状に微細な線模様を施しています。微細線は髪の毛よりも細く、金属彫刻における最先端技術を使用したものです。
- 異形斜めギザ:貨幣の縁に、新たに「異形斜めギザ」(斜めギザの一部を他のギザとは異なる形状にしたもの)を通常貨幣としては世界で初めて導入しました。
- 微細文字:貨幣の縁の内側に、新たに微細文字(「JAPAN」「500YEN」)を加工しました。
- 潜像加工:潜像加工(貨幣の傾きにより異なる文字等を現出する加工)を現出する文字が下から見たときのみの1パターンから上下2パターンとしました。
いやはや大変な細かさですなあ。こんなにまでして偽造防止に努めねばならんのか…と思ったりもしたものですが、先に平山郁夫デザインということで触れました「天皇陛下御在位六十年記念金貨」では、大量の偽造品が出回ったという事件があったとWikipediaに。およそ記憶にないこの事件、結局のところ犯人は捕まらず、60億円もの金額を手に入れて雲隠れしてまったのだそうな。これで損をしたのは誰になるのでしょう。もしかして税金で補填したなら、ツケは日本のひとりひとりに?
なんだかこの手の話って小説とか、「ルパン三世」の中の出来事かと思ってましたが、そうではないのですなあ。と、そんなこともあってか、偽造防止対策には最大の注力をしているということなのでしょうね。新紙幣にしても同様ですが、お金が新しいものに切り替わると、自販機やらなんやら、民間の対応もまた大変なことになるのですが、贋金が出回るもの困りますし、いやはやなんともではなかろうかと。
てなことで、ここまで造幣博物館2階の展示を見てきましたですが、まだ3階が残っておりまして…。これでも端折ってはいるのですけれど(笑)、造幣博物館の振り返りはも少し続くことになりますです。