山形県の天童市将棋資料館を訪ねて将棋のそもそもを振り返りましたですが、天童市が「将棋のまち」と言われるのは歴史的に将棋駒の生産が日本一であるところから。となりますと、やはり資料館でも将棋の駒作りに関する展示説明は当然にあるわけでして、そのあたりをちと顧みておこうかという次第です。

 

将棋駒は、将棋駒の木地を作る「木地師」、将棋駒に字を書く「書き師」、字を彫る「彫り師」、彫った字に漆を盛り上げていく「盛り上げ師」などの手により、分業体制で製作されます。駒の種類は、大きく分けて、(1)スタンプ駒 (2)書き駒 (3)彫り駒 (4)彫り埋め駒 (5)盛り上げ駒などがあります。また、木地作りは、かつては鉈一丁によるまったくの手作業で、手数のかかる工程でしたが、現在では、ほとんどの駒は機械による作業になっています。

製造工程ごとに専門職がいるとは、まるで錦絵の製作現場を思うところですけれど、駒の種類として挙げられた5種についてはも少し補足説明が必要かと。自分の知らなかったことですし。

  • スタンプ駒・・・駒木地に直接スタンプを押した駒。比較的安価に購入できる普及品。
  • 書き駒・・・漆で駒木地に文字を直接書いたもので書体には楷書と草書がある。
  • 彫り駒・・・木地に印刀で文字を彫ったもので、機械彫りと手彫りがある。
  • 彫り埋め駒・・・彫りあげた駒の文字の溝に数回に分けて漆を入れ、木地の高さまで埋め込んだもの。
  • 盛り上げ駒・・・彫り埋め駒に、蒔絵筆を使用して文字を漆で盛り上げて作られたもの。最高級品とされ、プロのタイトル戦などで使用される。

 

ま、個人的にはスタンプ駒しか見たことも触ったこともないですが、仕上げの手間がかかればかかるほど高級品になっていき、それぞれにそれなりの需要はあるということなのでしょう。極端な例えですけれど、ヴァイオリン学習者ならばいつかは手にしてみたいストラディバリ的な楽器が、将棋好きには天童の盛り上げ駒ということにもなりましょうかね。

 

 

スタンプ駒は文字通り文字をハンコで押すわけですから、いわば金太郎飴状態となりますが、職人の手で書く、彫るとなりますと、文字にも個性が出ようというものです。その個性の違いも含め、職人技の数々は資料館で最も大きな展示スペースを取っているものの、この部分は撮影不可。ですので、同館フライヤーでその一端を思い返しておくといたしましょう。

 

 

ちなみに、書かれる文字としては楷書体と草書体とが用いられるそうですが、天童の伝統は草書体にあるのだそうでありますよ。と、ざっくり将棋駒づくりを振り返りましたですが、その他の展示としては、江戸時代の将棋人気を伝える浮世絵の紹介とか。

 

 

こちらは作者不明らしき『一流浮世欲阿加』なる一枚。風呂屋で湯上りのほとぼりを冷ます間に一局でしょうか、右下ではなるほど将棋をやっている…ですが、左側では盤面のようすから見て囲碁かいな?とも。桝目が多いことから先に見た大将棋の類なのかもしれませんけれど、一般庶民はやっぱり普通の将棋でしょうからねえ。

 

 

もう一枚は歌川国芳お得意の見立てものですな。『駒くらべ盤上太平棊』(画像は部分)とありますので、太平記の合戦の侍たちを将棋の駒にしてしまったわけでして、見立てるものが当時の人になじみ深いのが肝心でしょうから、将棋の普及度を知る材料かとも。

 

 

そういえば、天童市の一大イベント「人間将棋」も見立てといえば見立てになりましょうか。展示には歴代の対局者一覧が並ぶ中、一昨年(2022年)には藤井聡太竜王(当時)がやって来た!みたいなこともあったり。天童市桜まつりの一環として毎年4月に開催されるという「人間将棋」、このときばかりは将棋ファンばかりでなしにたくさんの人出でさぞ賑わうことでありましょう。逆に、平常時は至って静かな天童の町。今回感じたのそちらの側面ばかりですけれどね。

 

…てなことで、天童に来たからにはと「ついで」感を漂わせつつ立ち寄った将棋資料館でしたけれど、あれこれの展示を見ればそれなりに興味深いものでありますね。ただ、改めて将棋をやるかいね…とまでは思いませんでしたけれど(笑)。