「京阪淀川紀行」と「紅花の山形路紀行」とを振り返るのに気を取られて日常のあれこれを記す余裕がなくなり、すっかり旅ブログ状態になってますが、たまには箸休めに別のお話を。
確か7月3日でしたか、山形に出かけている最中にEテレで放送されたのだったと思いますが、留守録しておいてそのままになっていた『インド秘境 スパイス達人紀行』総集編をかなり遅れて見ることに。ラクナウの料理人曰く「135種類のスパイスを使う」てなことを言ってましたけれど、普段の家庭料理でも結構な種類のスパイスやハーブを使って調理されておるようで、しばらく前にキット化されたケララカレーを作ってみるだけでひいこら言ってしまったのを思い出し、大変であるなあとしみじみ。もっとも、それだけインドの料理は奥が深いということなのでしょうね。
暑い暑いインドで食されている料理は、この暑い暑い夏の日本向きであるとも言えましょうか、奥深いと言った傍から「カレー」というひと言で括っては申し訳ないのですけれど、ともあれやおらカレーを食したくなったりしたものです。折も折、ちょうど近隣、立川駅の南口に「レインボウスパイス」という小さなお店の存在に気が付いたものですから、ランチに入ってみたのでありますよ。
そも「カレー」でなくして「カリー」と言っているだけでも、本格感を抱いてしまうようではだめなんでしょうなあ。日本料理をあれこれひっくるめて「和食」と言っているようなものでしょうから。それでも、メニューの上の部分には、こんな注意書きがあってこだわりのほどを感じた次第です。
※ご注意 本場のインド料理にならい、粒のスパイスをそのまま使っています。スパイスは身体に良い食材ですが、食感や歯触りが気になる方は除けてお召し上がりください。
ちょいと前に話題の?激辛ポテトチップスを食して学生が救急搬送された…てなニュースもありましたですが、ただただ辛いてなことにこだわるのではもちろんなくて、数多のスパイスを微妙に調合したマサラが醸す複雑、深遠な味わいこそインド料理の真髄なのでしょうからねえ。
ともあれ、いただいたのは「ランチタイムダブルカリー」なる2種盛りですな。ライスを中央にして、左側が「北インド式チキンマサラカリー」、右側が「南インド式ネイコーリーカリー」と。なるほど、大きな国であるインドは北と南で料理も異なるわけなのですねえ。もちろん南北ばかりか、大きな国ですので地域地域の個性はさまざまなのでしょう。日本でさえ、あちこちに郷土料理があるわけですし。
それにしても、南北の境界線のように間に挟まったライスの山ですが、どうやらこちらの店にはナンという選択肢はないようで。まあ、それも本格的なこだわりのひとつなのかなと思いましたのは、しばらく前にNHK『チコちゃんに叱られる!』で取り上げられていた「なぜ日本のインドカレーにナンがついている?」ということ。日本人にとって、日本のでない、インドのカレーはナンと一緒に食すものと思い込んでいたりしますけれど、それがインドでは決して当たり前ではないことを紹介してましたっけ。
では、インドでもやっぱりライスなの?と思えば「そうとも言えんぞ」ということになるらしい。ことの流れ上、つい図書館から借りだしたハヤカワ新書の一冊、『インドの食卓 そこに「カレー」はない』に教えてもらったのでありますよ。
広大な領域に多種多様な文化背景の人たちがごまんと暮らすインドをざっくりと南北に分けるのもなんですが、あえてざっくり言えば、北インドには粉食文化があり、南インドには米食文化があるということのようで。ですので、ライスと一緒に食するのはもっぱら南インド系であって、北の方は粉ものでこしらえたチャパティ(ナンではなくして)と共に食しているということなのですな。
なんでもナンを焼くには「タンドール」という大きな窯(タンドーリチキンはこれを使って焼いたもの)が必要なのですが、およそ一般家庭にあるものではないようです。と、ここでチコちゃんの話に戻りますが、日本でナンが一般化したのは、雑誌でタンドール窯の写真を見かけた方がインド料理には必要なものと思い込んだことが始まるだそうな。
日本にこの窯を作る業者はいないだろうと、ビジネスチャンスを感じたこの方、売り込みに売り込んだ結果、徐々に広がりを見せ、昨今、インドやネパールの人が開く店にも「日本で商売するにはタンドール窯、ナンが必要」と思い込み、そのせいで日本人はインドカレーにナンは付き物と思い込み…。
と、ナンの話はともかくも、本書を通じてインドの深遠悠久なる世界は食文化にもということがよく分かりましたですよ。以前読んだカレーの歴史に関わる本でも触れていたとおり、カレーはインドのスパイス料理を手軽に再現しようとして英国で作られたもので、いわば西洋料理を真似て独自のガラパゴス的進化を遂げた日本の「洋食」のようなものなわけですね。そう考えればインドの食卓にカレーが無いことに不思議は無いかと。
ただ、その食卓を飾る料理というのが、宗教や信条の異なる多様性がある中では一筋縄ではいかない。日本でいわゆるカレーは日常的に食されているも、本来のインド料理を食したことのある人は数少ないのかもしれませんですねえ。そんな料理の詳細は本書に任せておくとしまして、とにもかくにも食指が動かされることになったのは間違いのないところでありますよ。なまじ東京周辺の本格?インド料理店が紹介されてもいましたしね(笑)。