先に訪ねた信州・茅野市の尖石縄文考古館では、黒曜石関係の展示解説もいろいろありましたですねえ。何せ、諏訪のあたりは縄文時代の貴重品、黒曜石の宝庫として知られるわけでして。以前訪ねた折には国宝土偶にかまけるあまり、このあたりをスルー気味だったので今さらながら。もっとも、黒曜石のことについては、東京都立埋蔵文化財調査センターの解説などを通じてだんだんと意識することになって来ていたたからでもありましょうけれど。

 

霧ヶ峰~八ヶ岳の一帯は、本州最大の黒曜石原産地地帯で、黒曜石を拾える場所は20か所以上もある。特に和田峠、星ヶ塔、星糞峠(鷹山)などは、旧石器時代と縄文時代にわたって長く利用され、関東地方や中越地方に運ばれていった。また、縄文時代には地下に埋もれた黒曜石を採掘していた痕跡もある。

ということで、上の解説にも地名として挙がっている星糞峠、信州・長和町(和田村と長門町が合併)にある黒耀石体験ミュージアムへと出かけていったのでありますよ。前々から気にはなっておりましたが、不便なところでしてねえ。ちょうど霧ヶ峰の裏側と言ったらいいでしょうか、冬場のリゾートとしてはブランシュたかやまスキー場があるところですな。ちょうど南東方向に蓼科山が大きく見えるロケーションでありますよ。

 

 

余談ながら、このスキー場、昨今では珍しくもスキーヤーオンリーであると。つまり、スノーボードを排除しているわけで、これはこれで一つのありようでしょうけれど、経営的にはどうでしょう…。ちなみについでですが、地名の「たかやま」が「高山」でなくして「鷹山」であったとは、このほど初めて気付かされたことでしたなあ。

 

 

余談はともあれ、この施設の正式名称は「星くずの里たかやま 黒耀石体験ミュージアム」と。昔の人たちが黒曜石のキラキラ(と一見、真っ黒な見てくれも含めて)星の糞と呼んでいたことで星糞の名が残るも、今となってはいささか鼻つまみ感があるからか、一文字違いの「星くず」を名乗っておるのでありしょうね。と、ここでひと言おことわり。一般的に黒曜石の表記は黒「曜」石とされてますけれど、このミュージアムではキラキラを意識して黒「耀」石の表記を展示全般に使っておりました。が、「こくようせき」と入力すると「黒曜石」と変換されることでもあり、ここでは施設名を除いて「黒曜石」で行こうと思っております。

 

 

体験ミュージアムという施設名ならではで、黒曜石で矢じりを作ったり、骨角器の釣り針を作ったりと古代人体験ができるスペースが大きくとってありまして展示スペースの方が小さいのですが、展示室の方を見て回っておくことに。

 

 

入口から見える剥ぎ取り地層のような出てくるものは、縄文人の黒曜石採集が地面に露出したものばかりでなしに、深さ3mにも及ぶ穴を掘って採掘していたことを知るよすがであるようで。ついつい、狩猟採集のイメージから拾っていたとばかり思いがちながら、組織だった採掘を行っていたのでしたか…。ただし、いわば鉱山化したのは縄文時代であって、黒曜石の利用は尖石の展示解説にもありましたとおりに旧石器時代には始まっていた。もっとも、その頃はキラキラした欠片を川底に見つけて拾っていたようですけれどね。

 

 

そうであっても、すでに旧石器時代の人たちは狩猟具、調理具、工具類とさまざまなものを黒曜石から作り出していたようで。それらが縄文時代となると、それぞれに使い勝手の点で進化してくるわけですな。

 

 

ところで、先にも触れました縄文人による黒曜石鉱山の採掘活動、これが知られるようになったのはさほど昔のことではなかったのですなあ。1993年9月12日の朝刊に、一面トップで報じられた新聞記事を見るに及んで、当時にこんな報道があったことを全く知らなかったなあと。

 

 

同じ紙面には、パレスチナ暫定自治の調印式にラビン首相(当時)とPLO議長(アラファトですな)がそろって出席するという記事が載っており、今から思えばこれをも凌ぐ大ニュースが黒曜石鉱山の発見だったのであるか…と、思ったりもしたものです。

 

 

と、展示室をひとめぐりした後、縄文人が実際に黒曜石採掘をした鉱山の名残りが見られるという「黒耀曜鉱山展示室・星くそ館」を見に行くかということに。ミュージアムから山道に入って30分ほどを散策気分で…と思っていましたら、「星くそ館」はミュージアムより早く閉まってしまうのであると。3時までにミュージアム受付に申し出なくてはいけんかったようで、見られず仕舞い。ここまで来たのに…。

 

てなふうに残念な締めくくりとなったわけですが、ひとつ余禄のお話を。ミュージアムから5キロほど下ったところに「名水広場」というのがありまして、湧き水が汲めるようになっているのですなあ。

 

 

おそらくは、おいしい水であることを知っている人は知っているのでしょう、次から次へと車がやってきてポリタンク一杯に入れておりましたですよ。現地の説明板に曰く「黒耀石の間を通ってくるためか、とてもきれいな真水です」とありまして、「星降る里の黒耀の水」として知られていると。

 

 

「硬度は17度という超軟水、純度が高いため痛みにくいことも特長」(信州・長和町観光協会公式HP)という水の個性は確かにおいしい水でしたなあ(手元のペットボトルで持ち帰り、後でコーヒーを飲みました)。が、「太古の昔(旧石器時代)原始人が黒耀石を求めて日本各地からこの地にやってきた頃からひと時の絶え間もなく湧き出ている水です」(現地解説板)とまで言われますと、ちと話を盛りすぎなのでは?と思ったりも。とまれ、星くずの里には黒曜石のみならず名水という賜物もあったのであるかと知ることになったのでありました。