東京・調布の電気通信大学キャンパス内にありますUECコミュニケーションミュージアムを訪ねて、展示室のひとつに真空管だらけの部屋があると申しましたですな。なんでもこの博物館には1万本を超える真空管が所蔵されているということでして、ガラスケースの中から壁面まで真空管で埋め尽くされているという。

 

 

今でこそ真空管はレトロSF的なる科学機器にこそあるものと思ってしまうところですけれど、トランジスタが誕生する前はどこでも真空管ラジオを使用していたでしょうし、そういえばテレビのブラウン管もまた真空管の仲間であったなあと。

 

 

そうなると、最新式の科学技術世界で真空管はすでに過去のものかと言えば、どうやらそうでもなさそうだということは、この部屋のいちばん入口近くにある展示で明らかなようで。

 

ここに展示した光電子増倍管は、岐阜県神岡の鉱山跡に建設された東京大学のカミオカンデに使用されたものである。小柴昌俊教授は1987年、大マゼラン星雲で発生した超新星爆発によるニュートリノ例を、この装置によって捕獲に成功した。

とまあ、こんな最先端の宇宙物理学の分野で真空管はまだまだ活躍していたのであるとは。レトロなどとは言っておられますまい。ただ、光電子増倍管なるものは20世紀前半からあったようですが、ニュートリノの観測には桁違いの性能・大型化が求められたのですな。単純に真空管を思い浮かべるとき、通電するとほわんとした灯りが点るようになる印象ですけれど、光電子増倍管の方はむしろ光を検知する役割であったようですね。

(超新星)爆発の瞬間に、星を構成していた物質が、その原子まで破壊される。その破壊に際して、高いエネルギーを持った素粒子”陽子ニュートリノ”が飛び出す。そしてそのニュートリノは、何らかの物質を通過する過程で、微弱な光を発する。”チェレンコフ光”である。

微弱な微弱なチェレンコフ光。これを検知するのに、光電子増倍管は上に見るように大きな真空管になるわけですけれど、カミオカンデという施設全体では1千本の光電子増倍管が設置されたのだそうでありますよ。さりながら、後に作られたスーパーカミオカンデに至っては、改良型の光電子増倍管を1万1千本も設置されたそうですから、巨大化度合はなお一層であろうかと。

 

いずれの施設も同様に水槽状になっていて、カミオカンデには3000トン、スーパーカミオカンデには5万トンの水が張られていたということですが、イメージしにくいので、ありがちな例えとして25mプールいっぱいにするとおよそ540トンの水が必要とか。そう考えると、まだカミオカンデの方は可愛げがあったといえましょうか(笑)。

 

 

ともあれ、真空管は今も宇宙の研究に役立っているようでありまして、ニュートリノの観測とはまた別に、真空管内に宇宙(の現象)を再現するような研究も行われているようで。細かいことはもはや文系頭には付いていけない世界になりますが、太陽系から2300光年離れた場所にある「赤い正方形星雲」というガスのかたまりが発するスペクトルと同一のスペクトルを持つ物質を真空管(放電管)の中で再現できたということらしい。つまりは小さな真空管の中に大きな宇宙を作り出す類いでしょうかね。

 

 

このスペクトルの研究は電通大の教員が行ったものであるそうでして、今は(電気通信の関係ばかりでなくして)いろいろと理工学の分野で広く教育・研究に携わっている大学と同大HPにあったことに、「なるほどな」と思ったりしたものでありましたですよ。