例によってひとつところで話が長くなっておりますが、多治見市モザイクタイルミュージアムで歴史の話に触れましたあとは製造工程に関わる展示物などのお話でありますよ。展示フロアのようすはこんな具合です。

 

 

で、まず最初に必要となりますのが、原材料でありますね。こちらの微小な粒子がタイル用の坏土(はいど)というものだそうでして。

 

タイル用の坏土
粘土や石粉を混合して泥漿を作り、スプレー・ドライヤーという装置により水分量を7%程度に抑えて顆粒にしたもの。これにより金型の隅々まで坏土が入ってプレス成形の精度が高まり、焼成後もゆがみにくい。

小学生の頃に図工の授業にあった粘土細工では、粘土そのものはかなりウェッティな状態ではなかったかと思いますし、実際にやきものを作る際にろくろ引きするには水分を与えて成形していくので、焼成前に水分を飛ばすというイメージは無かったような。水分を含んだまま窯に入れると、ゆがみや割れに繋がるので、普通のやきものでもろくろ成形した後にしっかりと乾かす…というのは、他の場所の展示解説でも今さらながらに教えられたりもしたですよ。

 

ともあれ、タイルの場合にはこの顆粒状の素材をやおらプレス成形するということで、活躍するのは展示室内にどっかりと存在感を示しているプレス機ということに。展示されている機械は「ハンドプレス機」というもので手動のもの、「金型をはめてハンドルを回転させると、現状が圧縮成形される」のだそうで。

 

 

でもって、圧縮成形されたタイル(のもと)には早速に釉薬がかけられるようで。予めスプレードライヤーで水分を飛ばしてありますので、普通のやきものよりのように素焼きという工程は無いようですな。上が釉薬をかける前(テラコッタのようですけれど焼いてないのだからコッタではないか…)、下が釉薬をかけた後のものになります。釉薬はやはりスプレーで噴霧するようで、金網状の台に載っているのはそのためかと。

 

 

いよいよこれを窯入れするわけですけれど、トロッコと呼ばれる台車の上に積み上げていくことになります。軽くて薄いタイルをいっぺんにたくさん焼くため、匣鉢という台に載せて積まれていくのですな。

 

 

と、ここから先は「工場賛歌 焼成編」という企画展になるようなのですが、製造工程の常設展示との境目が判然としないような気もしましたですよ。ただ、常設展示部分はハンドプレス機のような手作業の歴史が刻まれているのに対して、企画展の方は工場における大量生産に着目しておるような。

 

 

工場生産では大量であると同時に多種多様なタイル製品を作り出すための工夫もあるわけでして、窯入れにあたりトロッコに載せる際、上で見た「H型匣鉢」(お皿状で最も一般的と思しきもの)の他にも匣鉢の類にはたくさんの種類があるのですなあ。コーナー部分に使うタイル向けとか湾曲したタイル用だとか。

 

 

 

様々な形状に合わせた匣鉢、焼き台に置かれたタイル(のもと)はトロッコに積み込まれていよいよ窯へ。ここで使われる窯は、以前INAXライブミュージアムで実物(の縮小版)を見た、いわゆるトンネル窯でありますね。

 

 

長さが数十メートルにもなるというトンネル窯の中をトロッコがじわじわと進むにつれて、タイルが焼き上がっていくという仕組み。じわじわ具合はおよそ一昼夜かかるそうでありますよ。こうして出来上がった数々のタイルがこちらですな。

 

 

といっても、出荷に際してはきれいに(しかもキズがついたりしないように)きちんと梱包しなければなりません。そこに登場するのが壁に掛けられている「はり板」というものであると。製品ごとの形に合わせた升目が付けられていて、ここに入れれば形も揃いますし、数も勘定できるということでありましょう。

 

というような製造工程で世の中に出回ることにタイル。かつては建造物に当たり前のように数多使われていたですが、印象としてはちとレトロな雰囲気も醸すようになっておるような。そこで、モザイクタイル生産量日本一の本場としては「タイルのある生活」を提案することで、さらに普及を進めたいようで。

 

 

ミュージアムの2階にはなかなか素敵に設えた施工例などがディスプレイされて、モザイクタイル導入のご相談(ご商談?)コーナーまで設けてあるとは…。こうなってきますと、ミュージアムというよりショールームのようでもあろうかと思うところですなあ。

 

まあ、そのことをもって結論付けるわけではありませんですが、異形の建物という優位性はあるも、ミュージアムとしては規模や内容の豊富さからしますと、多治見市モザイクミュージアムは常滑のINAXライブミュージアムにいささか及ばないような気もしたものです。もちろん、訪ね甲斐はあったと思っておりますし、常滑の方は大企業系であるのに多治見・笠原の方はもそっと小さいところが集まって頑張っておる点で肩入れしたいと感じておりますけれど。

 


 

月例のこと(父親の通院介助)にて両親のところへまいりますので、勝手ながら明日(11/15)はお休みを頂戴いたします。また、明後日(11/16)にお目にかかれましたら幸甚に存じます。ではまた。