埼玉県新座市のぶらり散歩を鉄腕アトムの話で始めたわけですが、改めてJR武蔵野線の新座駅から野火止用水沿いの遊歩道を歩くという方向へ。道々、こっちでいいのかな?といささかの不安もよぎったりしましたけれど、ところどころでやっぱりアトムくんが「あってるよ!」と。

 

 

これに導かれつつ、最初にたどりついたのが「ふるさと新座館」という施設なのですね。公民館にホール、さらに地元野菜の直売センターが入るという複合施設ですが、ここで野火止用水のウォーキングマップを手に入れようという算段だったものでして。

 

 

で、本当のウォーキングは「ふるさと新座館」の向かいにある野火止用水公園から。ここで初めて用水路とご対面となりますのでね。

 

 

今回は経路的に水路を下流から上流へと遡る形になりますので、取り敢えず公園内で一番下流と思しきあたりを見てみることに。公園の端で道路を横切るため、突端部は暗渠となっておりました。

 

 

ともあれ、玉川上水に比べると格段に小さいこの流れをたどっていくのですが、野火止用水公園を抜けますとすぐ川越街道を越えねばなりません。水路は、こちらはこちらで暗渠となり、遊歩道は大きな歩道橋を越えていく形になっておりましたなあ。

 

 

ですが、これを過ぎるととたんに周囲は木立に囲まれ、散策路にふさわしい風情を讃えるようになってきます。だんだんと車通りの喧騒が遠のいていくのでありました。

 

 

ところでここいらで一度、「野火止用水」の何たるかを改めて遊歩道沿いに建てられた解説板から引いておくといたしましょう。

 

野火止用水は、承応四年(一六五五)に、川越藩主松平伊豆守信綱が、武蔵野開発の一環として、領内の野火止台地開拓のため、必要とする生活用水の確保を目的として開削した用水路である。
幕府の老中職を務めていた信綱は、承応二年から承応三年にかけて、江戸市中の上水を確保するため、総奉行として、難工事の末、玉川上水を完成させたが、この功績により、玉川上水から三分(三割)の分水許可を得て、野火止用水の開削に取りかかった。
用水は、多摩郡小川村(現、東京都小平市)で玉川上水から分水され、野火止台地を経て新河岸川に至る全長約25kmにも及ぶ。

玉川上水といえばすぐに玉川兄弟ばかりが浮かんできますが、川越藩主の松平信綱が総奉行であったのですな。まあ、そうした実績無くしては、とにかく大事な水利に関わって、簡単に自分の藩の領地に水を引くことなどできなかったでしょう。

 

 

やがて、水路の向こう側に広がる雑木林が一層濃いものになってきたあたり、松平信綱の菩提寺である平林寺というお寺さんの境内林になりますが、この平林寺の敷地がやたらに広いのですな。平林寺については、境内を経巡ったお話を別途いたしたいと考えておりますが、この境内には野火止用水の分水が引き込まれているとは、信綱の信心のほどが窺えようではありませんか。

 

 

いつまでもいつまでも続くかと思われた平林寺境内林は南の外れの車道で途切れることになります。用水には「伊豆殿橋」が掛けられておりますが、その野火止用水を差配したのが松平伊豆守であることから、用水自体を「伊豆堀」と呼ぶこともあり、橋の名もそれに関わるわけでありましょう。橋自体はなんつうことも無い現代の橋ですけれどね。

 

 

ちなみに、とどこで触れようと些か出し惜しみしていましたけれど、この松平伊豆守信綱、知恵者の伊豆守として「知恵伊豆」の呼び名が伝わるようになったということでして(出し惜しみするほどの話題でもないか…)。

 

ともあれ、車道の先も用水は当然に続いているのですけれど、ここでは本流とは別に分水された「平林寺堀」をたどることに。平林寺境内へと水が引かれているわけで、このこともまた破格の扱いですよねえ。

 

 

それにしてもこの平林寺堀、本流とは異なってお寺さん管轄だったりするのでしょうか、なんだか妙に整備されておりますな。このまま進むと(おそらく本流も同様と思いますが)水路は関越自動車道に行き当たります。これまで見て来たところでは、車道と交差する度に水路は暗渠となって潜り込んでいましたけれど、ここでは高速道路が下を走っているという。つまりは水道橋でもって、道路の上を通過しているのでありますよ。

 

 

高速道路が下を通っているということは、そもそもの地形が窪んでいた(全面的に掘り下げるのは大変な工事でしょうし)からかもですが、そうだとすれば、この平林寺堀は昔々から水道橋で窪地を越えていたのかもしれませんなあ。

 

ということで、JR武蔵野線の新座駅を起点にしばし、野火止用水をたどってきましたですが、途中から平林寺堀沿いに乗り換えたのは次の目的地により近いからでして。関越にぶつかるあたりで少々折り返し、その目的地に向かいます。行先は、この(2023年)4月に移転した上で新しくオープンしたという新座市歴史民俗資料館「てきしてらす」でございます。