いささか遅ればせながら、先の日曜(5/14)に出向いた演奏会のことを。東京・四谷の紀尾井ホールで行われた「大塚 茜 フルートリサイタル Akane on Baroque 2023」というものでありました。
たまたまチケットを頂戴して出かけていきましたですが、J.S.バッハの有名曲が並んだプログラムには個人的には興味のそそられたところでして、外来の古楽器団体あたりではブランデンブルク協奏曲全曲とか管弦楽組曲全曲とか、少々おなかに溜まりすぎる(まあ、招聘側がよかれと思って組むのでしょうけれど)プログラミングで聴けることはあるにせよ、今回はフルート・リサイタルですので、フルートがフィーチャーされている曲を、それぞれ編成を代えて聴かせてくれるというのはそうは無い機会であったかもと。チェンバロとのデュオあり、弦楽の入った合奏あり、また無伴奏ありというわけでして。
まず最初は、バッハのフルート・ソナタBWV1031。第2楽章「シチリアーノ」は単独の小品として取り上げられたりもして、よく知られた曲ですけれど、しばらく前に読んだ『クラシック偽作・疑作大全』でも「本当にJ.S.バッハの作?」と偽作ならぬ疑作とされていた曲ですな。言われてみれば…にはなりますが、なるほどバッハにしては幾分素直すぎる旋律回しだったりもするような。
ただ、演奏は良かったですなあ。適度な湿度を感じる温もりありフルートの音は奏者の個性なわけですが、輝かしすぎず、かといって尺八のような野太さでもなく(エマニュエル・パユを思い浮かべたり…笑)、個人的には極めて親和性の高い音であるなと思ったものです。
続くブランデンブルク協奏曲第5番はチェンバロの疾走感が気持ちよい作品ですけれど、元よりフルートも活躍する曲ながら、リサイタルという個人技指向の場では余り取り上げないような。その代わりにお次の(これだけ大バッハの次男、カール・フィリップ・エマニュエルの作品でしたが)の無伴奏ソナタに技量の思いのたけを込めたのかも。もちろん技術的に見劣りするなどということはありませんでしたけれど、それでも無伴奏というのは(伴奏との相互扶助が無い分)フルート一本で全てを表現するのは難しかろうなあと。プロですので、伴奏に隠れることはしないまでも、それでもひとりの演奏が全てむき出しになりますのでね。
で、最後にはやはりリサイタル向けではないにせよ、フルートが縦横無尽に大活躍する管弦楽組曲第2番でありました。それぞれに聴き馴染んだ曲で構成されているとはいえ、最終曲のバディネリにはわくわくさせられますなあ。
という具合にフルートを中心にしたアンサンブルまでを堪能できるプログラムだったわけですが、なんとは無し会場の印象は「普段、お教室でお世話になっているフルートの先生の演奏会にやってきました」的な雰囲気も漂っていたような(思い過ごしかもですが)。それだけに、何の関わりもない(たまたま入場券を入手した)一般客としてはほんの少々座りの悪さを抱いたりも…。とはいえ演奏に没入してしまえば、そのあたりは気になるものではなかったものの、考えてみれば、こうした形でリサイタルが支えられている奏者(完全に生徒たちが来ていたといわんばかりですが)の方々ってたくさんおられるのでしょうねえ。
とにかく世界的に超有名コンクールで入賞したとかいう冠の下、派手にマスコミが取り上げて大いに脚光を浴びて活躍していく演奏家がいる一方で、地道にリサイタルを積み重ねていく奏者もまたある(ちなみに今回の主役である大塚茜というフルーティストは「ルーマニア国際音楽コンクールにおいて管楽器部門第一位、最優秀賞、及びオーディエンス賞を受賞」(Webサイト「ピティナ・ピアノ辞典」より)という受賞歴はあり)わけですが、たくさんの演奏家がいる中でプロ奏者としてやっていく(生計を立てる?)のは大変なのだろうなあと改めて思ったり。
何も今回の奏者だけの話ではありませんけれど、なまじTVでちやほやされてやたらに集客力がある(ということは必然的にチケットも高くなる…と既に表現に嫌味が籠ってますが…笑)人たちはそれはそれとして、そうではなくとも音楽の楽しさの伝え方、伝わり方はあるのだろうなあと、これまた改めて思ったような次第なのでありました。