ちと怪獣映画の話が続いて恐縮です(笑)。

先に『宇宙大怪獣ギララ』は未見であった…と言いましたですが、実は1967年の公開当時、母親に「ギララが見たい」と申し入れ、「怪獣映画?しょうがないねえ」と連れて行ってもらったのでありますよ。では、ギララを見ていたのではないか!と言うなかれ。勇んで出かけて、導かれた映画館の前に立って「ん?」と思うも、そそくさと入った映画館で上映されていたのは全く別の怪獣映画だったのですなあ。

 

怪獣ブームに乗って、映画会社さまざまにいろいろな怪獣映画が作られたと申しましたように、入った映画館は松竹系でなくして日活系。上映されていた『大巨獣ガッパ』は日活が作った唯一の怪獣映画だったわけでして…。

 

 

かつて数多くの看板スターを抱えた日活が斜陽化しつつある時期で、ひと頃日活といえば「ロマンポ〇ノ」と思い浮かぶようになる時代はも少しあとですね。ただ、この映画の中で南洋の楽園を模したレジャーランド構想を手掛けてる会社に「プレイメイト社」なんつう名前を付けてしまうあたり、その後に続く萌芽が感じられてしまうような…(米誌『プレイボーイ』でグラビア・モデルを「プレイメイト」とすでに称していたようですし)。

 

さりながら、映画館で見た幼少の砌、そんなことに気付くはずもなく、記憶に残っているのは「ガッパぁぁぁ、ガッパぁぁぁ」と連呼する主題歌くらいなもの。今になって気付かされたのはこの歌、美樹克彦が歌っていたのですなあ。といって、歌手・美樹克彦を記憶にとどめておられる方がどれほどおられましょうか?というくらいですが、熱唱系の「花はおそかった」で、♪花は、花は、花はおそかったぁ と来た最後に「バカヤロー!!」と叫ぶのがインパクト強し。ガッパの主題歌も熱唱系ならでは起用だったのでありましょう。

 

ともあれ、映画のストーリーですけれど、上のポスター画像を見る限り、例によって大怪獣が大暴れという印象かと。怪獣がなぜ大暴れするのかというあたりは、「ギララ」のお話でもあれこれ想像したところながら、ガッパはただただ人間に(件のプレイメイト社のレジャーランドの見世物にするため)連れ去られた子ガッパを救出にやってきて、探し歩いているだけ。体が大きいですから、建物はやっぱり壊れる。人間側からみれば破壊されている、となるわけで、例によって武力で制圧を試みますが、ガッパが吐く光線のようなものはひたすらに戦車や戦闘機にのみ向けられるのでありますよ。

 

つまり、この映画の独自性は怪獣といえども親子の情愛がある、ひいては人間ならばなおのことそのようにありましょうねという道徳的なところに根差しているような気がしたものです。オスとメス(トサカのような部分が異なるのですぐに分かります)、つまりは夫婦で子供を救いに来たガッパ、紆余曲折を経るも、その姿に感じ入った人間側が子ガッパを返すことにして、羽田空港でもって親子が再会を果たす。駆け寄る子ガッパをしっかと抱きしめた母ガッパは、うれし涙にくれることに。これ、比喩的表現で無くして、ガッパの目からは確かに涙が零れ落ちるのでありまして。

 

とまあ、そんな道徳的?な話なのですけれど、やっぱり当時は当時の社会世相が反映してもおるなあと。子ガッパを発見した南洋・オベリスク島への探検好行には女性カメラマンの糸子(山本陽子、う~ん若い!)が同行しますけれど、その頃に女性が専門的な職業で独り立ちするのはかなり難しいものだったろうとは想像します。それを映画の中ならではと登場させたのかもしれませんですが、プロ意識を覗かせていた彼女が気弱なところを見せると、同行の記者・黒崎(川地民夫)は「そんなことなら、普通のサラリーマンと結婚して、おむつでも洗っていればいいんだ」と言い放つ場面が出てくるのですね。

 

もちろんこれには反発する糸子でしたが、最後の最後、親ガッパ、子ガッパの感動の再会を見届けた去り際に、自分には家庭に入っておむつでも洗っていることにすると、黒崎に伝えて去るのですな。追いかける黒崎…その後は(もちろん映画で描く範囲外ですが)きっと「幸せな家庭が築かれましたとさ。めでたし、めでたし」となったことではありましょう。結局のところはそこに収まるかあ…というあたり、とても「昭和」な印象でもあったのでありますよ。

 

てな具合に松竹は松竹で、日活は日活で独自性を出そうと手掛けた怪獣映画、結果的には一作どまりとなって、東宝の独走状態に(すこしばかり大映が「ガメラ」で追走でしょうか)。それでも「もしかすると…」と考えてみれば、『ガッパ』公開の1967年暮れ、東宝で異色?のゴジラ・シリーズ新作が公開されますね。曰く『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』というのが。これって、密かに『ガッパ』にヒントがあったのかも。「ゴジラにだって、息子がいていいじゃないか」と…。やっぱり子供のときに見たはずですが、まあ、この映画は敢えてもう一度見なくてもいいかなと思っておりますよ(笑)。