先の週末、池袋の東京芸術劇場で読響の演奏会を聴いてきたのですね。演目はブラームスのピアノ協奏曲第1番とメンデルゾーンの交響曲第3番という二本立て。ロマン派でがっつり!といったところでしょか。

 

 

ブラームスのコンチェルトでピアノ・ソロを弾いた河村尚子はこういう言い方もどうかとは思いますが、「近頃すっかり貫禄がついたなあ…」と。ずいぶんと前にやはり読響演奏会に登場したときがはっきり思い出されるわけではありませんけれど、なんでしょう、その頃に比べると存在感が立ってきたというか。と、ブラームスの方をこれだけの印象で言うものまたなんですが、ここではもう一方のメンデルスゾーンの方のことを。

 

『スコットランド』とも呼びならわされているメンデルスゾーンの交響曲第3番、聴き馴染んだとまでは言えない曲ながら、聴いていて最初から最後まで「…何もかもみな懐かしい…」と、地球に戻ってきた沖田艦長(ちなみに『宇宙戦艦ヤマト』のお話です)のような気分になっていたのでありますよ。

 

必ずしもスコットランドの民謡を取り入れたわけではないようですけれど、自身が20歳の春に訪ねた彼の地に思いを馳せれば、やはり彼の地なりの旋律が意識されたりもするところかもしれません。元来、スコットランド民謡は「蛍の光」を始め、日本人にとって「なにやら懐かしい」と思わせる旋律がたくさんあるわけですし。ですので「懐かしい」と言って、具体的に「ああ、あの頃を思い出す」といったものではなくして、個人というよりも人として「懐かしい」というかそんな印象でしょうかね。

 

ところで、かような交響曲第3番を聴いたあと、自宅にあるもののしばらくほったらかしになっていたメンデルスゾーンの交響曲全集を取り出してみることに。なんでもかんでも録音してレコードにしてしまっていた時代のカラヤン、ベルリン・フィルの演奏です(失礼)。

 

 

メンデルスゾーンの交響曲は全部で5曲。出版順に付けられたという番号と実際の作曲順が異なっていて、今回の演奏会プログラムにも「1→5→4→2→3」の順に作曲されたことが紹介されておりましたな。そこで、敢えてこの順でCDを聴いていくことにして、まずは第1番。早熟の天才メンデルスゾーンらしく15歳で作った曲ということで、そこにはハイドンとかモーツァルトとか、古典派の香りが感じられて、せわしくがちゃがちゃと動く弦のようすにも若書きのほとばしりとでもいいますか、そんな感じがしてきますが、まあ、いい曲です。

 

お次は20歳頃に手掛けた第5番。『宗教改革』というタイトルで知られるのは、ルター派教会の「アウグスブルク信仰告白」が書かれて300年を記念する執念行事に関わって、ルターの作曲したコラールのメロディーが使われているところからであると。そうした曰くはあるにせよ、個人的には5曲の中では一番気に入っているのですが、作曲者本人としてはどうも納得できずにいたようで、結局出版が遅くなり第5番と付けられることになったのですな。堂々としたいい曲てなふうに思うのですがね。

 

続く第4番は『イタリア』と言われますな。ライプツィヒのメンデルスゾーンハウスにも本人による風景画が飾られていますように、絵も達者だったメンデルスゾーン。その素養が音楽にも通ずるのか、「音の風景画家」なんつうふうにも言われるわけですが、この『イタリア』、そして後の『スコットランド』も土地の風物を思い描けるような曲になってますですねえ。晴れ晴れと弾む旋律に溢れた南の地とひんやり渇いた空気感のある北の地とを描き分けた妙味は、CDになってよくカップリングされる所以なのではなかろうかと。

 

ところで、この「イタリア」と「スコットランド」の間に完成させたのが第2番、『賛歌』とも言われるように異色の?合唱付き交響曲ですな。メンデルスゾーン自身、この曲を「カンタータ」とも考えていたようです。個人的にはこの曲、その異色であるとの思い込みからか、敬して近づかない状況が長らく続いていたものの、いざ長い全曲を通して聴いてみますと、思いのほかいい曲であると改めて。実演としてプログラムに載る機会はとても少ないようですけれど、ぜひ実演で聴いてみたい一曲でありますよ。

 

ということで、最後に出版されたのが第3番の『スコットランド』ですが、彼の地への旅行は先にも触れましたように20歳の頃でして、その頃にすぐに序曲『フィンガルの洞窟』を書いたりしていますので、交響曲の方に手を染めたのも早い時期ではあったようです。さりながら、何かと本人にとっては気に入らない作品がある中で、きっと作り込んでいきたかった曲なのでしょう、完成までに長い時間がかけられることになってしまったようで。ではありますが、全曲としてのまとまりといいますか、しっかりしたものになりましたですね。

 

ただ、先に「何もかもみな懐かしい」と言った妙なる旋律が全編を覆っていることに惹かれるものの、ややできすぎの印象も無きにしも非ず。った次第でありますよ。あまり気軽にCDを取り出したくなるものとも違うような…とは、あくまで個人の印象ですけれど。とまれ、演奏会を機会にメンデルスゾーンの交響曲全5曲を聴きまくった夏のひとときなのでありました。

 


 

 

と、またここで今度は母親の通院介助のために両親のところへ出かけてきますので、明日(8/31)はお休みを頂戴いたします。その後はもう9月ですなあ…。ではまた。